ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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労働!もう嫌だ!


6話 エニシング・ゴーズ

ソラネル共和国のマギアメイルを鹵獲して分解し、兵士二人を殺害した以上、この国にはもういられない。

 

ダニエルとニアがそう判断したのは当然のことだった。

 

グリムギアがいかに超兵器であるとはいえ、一国という組織そのものと真正面から戦うのは不安があると言う判断も、また当然である。

 

正確に言えば、「今の」損傷したグリムギアでは敵わないかもしれない、と言うだけの話だが。

 

万全なら国一つ滅ぼすくらい訳ない。

 

 

 

さて、ソラネル共和国。

 

その名の通り共和制……、つまり王のいない国だ。

 

いない、というのは正確ではない。

 

王が「いなくなった」国であると表現するべきだろう。

 

百年ほど前に起きた革命により、王侯貴族が廃され、国民主権の民主主義国家になったのだ。

 

……革命というと聞こえは良いが、それの意味するところは「既存の社会システムの破壊」であるからして、このソラネル共和国という国は、もう数十年も混乱したままである。

 

実質的な内乱で疲弊した国家の再建には、かなりの時を必要とした。

 

その癖、ほんの数十年後に、廃した筈の王政を復古させたり、やっぱり革命してみたり……。

 

まとまりのない国だが、ごく最近は戦争で勝っているので、しばらくは共和制が続くであろうことが窺える。

 

負けたら共和制の指導者がギロチンにかけられて、次の王だか何だかが出てくるのだろう。

 

ダニエルは、西暦5500年代産まれだ。

 

西暦5500年代の地球……と言うか地球圏は、もう二千年以上は戦争らしい戦争をやっていない、安定した国家だった。

 

西暦二千年辺りは、地球という限られた土地を奪い合い戦争をしていたものだが、西暦にして三千年頃にもなると、宇宙開拓が進み、地球などという田舎惑星はとっくに忘れ去られた。

 

西暦5500年代においては、地球はど田舎もど田舎。現代地球で例えれば、ワイオミング州くらいのど田舎である。

 

そんな平和な地球圏で生まれ育ったダニエルは、戦争だの革命だのを起こそうとする人間の気持ちが分からなかった。

 

故に、理解不能なソラネル共和国から離れたい気持ちがある、という事情もまたあった。

 

目指すは、南の半島国家、『ヴェリタ王国』……。

 

美しきメディテラ海に面した、列強国の一つである。

 

 

 

トレーラーに改造されたブルームーン号は、大きな轍を残しながら、真っ直ぐにヴェリタ王国へと向かった。

 

鉱山を直接もらうのが、資源採集するとすれば一番手っ取り早いのだが、このご時世、所有者のいない鉱山など滅多にない。

 

世界地図が描けるくらいには、この星は解明されているのだ。

 

だから、大人しく仕事をして、その対価として、ブルームーン号やグリムギアの材料となる金属やレアメタルを得るしかない。

 

しかし……。

 

「駄目だ駄目だ!氏素性の怪しい外国人が、このロマネシアで雇えるかよ!」

 

と、追い出されてしまう。

 

ロマネシアとは、ヴェリタ王国の首都の名だ。

 

街で話を聞いて回ったところ、このヴェリタ王国は、およそ十数年前に統一されたばかりで、色々と難しい政情にあるらしい。

 

「こんなんばっかりかよ!」

 

「近世の世界なんてそんなものでは?」

 

文句を言いながら、二人はヴェリタ王国の南部へと向かって行く……。

 

統一が成されたヴェリタ王国だが、「じゃあ今日からここは一つの国です!」と言ってまとまるほど、人間は利口ではない。

 

どんな国でも、既に既存利益を持つ……、例えば地主などがいて、それらから土地や権利を取り上げて国のものにします!などと言って、納得する奴はまずいない。

 

ヴェリタ王国は、表面上は統一して近代国家になったが、水面下では地方権力者と国家中央が争い合っている……、という歪さを孕む国になっていた。

 

「だからこそ、付け入る隙があるんだよな」

 

ダニエルはそう言って、南部の良港である「ネリアポリス」という都市に辿り着く……。

 

「うーん、綺麗な国だな」

 

「はい、美しい風景です」

 

エメラルドの海、白を基調としつつもカラフルで洒落た建物、陽気な船乗り達……。

 

燦々と輝く太陽と、その輝きを受けて煌めく砂浜……。

 

観光にぴったりな、異国情緒。

 

ここがネリアポリスだ。

 

……ネリアポリスは、統一前はネリアポリス王国という土地であった。

 

そんなネリアポリス王国の王族の遠縁に当たる「エスポジート家」という大地主が、この辺りを取り仕切っている。

 

そしてこのエスポジート家は……。

 

所謂、「マフィア」的な組織であった……。

 

 

 

ネリアポリスに来たダニエルとニアは、巨大なトレーラーと化したブルームーン号を街外れに停車。

 

ニアは、最低限の機能を持つミニトレーラーに乗り込み銃火器で武装して、ダニエルはレメゲトンに搭乗して、そうして街まで来た。

 

どうやらここは港町で、ロマネシアほど外国人に対して排他的な雰囲気は強くないようだった。

 

ついでに言えば、ニアは完全に別人種だが、ダニエルは地中海系の人種の血も流れており、この国の人々に近い雰囲気をしているので、かなり受け入れられるはずだ。

 

しかし……、今はまだ、ただの田舎に過ぎないこのネリアポリスに、軍の最新兵器であるマギアメイル(グリムギアだが)が歩いてくるというのは、色々な意味で衝撃だったようだ。

 

街の人々の多くが、仕事を投げ出して見物に来るくらいには……。

 

「おおっ!凄いな!」

 

「あれがマギアメイルか!」

 

「この街にも、《マギアウォーカー》くらいはあるけど、あれは作業用のゴーレムだしなあ」

 

「戦闘用ゴーレムのマギアメイルは、こんなに立派な姿をしているのか」

 

「ゴーレムって……、大昔じゃないんだから、マギアメイルのことをゴーレム呼ばわりはやめろよ」

 

街の顔ぶれは、見た限りでは湾岸で作業する船乗りや人夫が多いように見える。

 

だが、中世とは違い近世的な世界なので、人々はかなり血色も良い。

 

また、レメゲトンの姿をカメラで撮る記者や、スケッチする画家、驚いて腰を抜かした老人を介抱する医者などがおり、幅広い職業が存在することが窺える。

 

記者や画家など、食糧生産や宗教、軍務に関わらない仕事に従事する人間がいるということは、文化的な生活ができているという証拠だ。

 

それらの人を見て、「多少は文明的な生活ができそうだ」と安堵のため息を吐いたダニエル。

 

上から目線のように感じるが、西暦5500年代生まれのダニエルからすれば、この世界は石器時代も同然だ。

 

星を丸ごと開拓してプラントにし、資材をワープゲートで運び、あらゆるものをマテリアルトランサーで造成できる時代の人間からすれば、近世の人間なんて石斧を振り回す原始人に等しい。

 

しかし、先人の築いた知識という名の礎に立つ文明人として、そのような物言いで言い切ってしまうのは何となく良くないなとは思ってもいるのだが。

 

そんな風に、少々複雑な顔をするダニエルは、レメゲトンの外部マイクで一言、呼びかけた。

 

『傭兵だ!雇ってくれ!』

 

と……。

 




まだまだ寒いままってマジ?

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