ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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おっし!


5話 マインド・ポイント

「マスター、周辺の木々や生物を持ってきてください。有機リソースを確保します」

 

「分かった」

 

二機のマギアメイルを鹵獲したダニエルは、次に、有機素材を集めていた。

 

ブルームーン号には、元素配列を変更して別の物質を創り出す、『マテリアルトランサー』がある。

 

これは、元素そのものは変えられないが、逆に言えば、材料となる元素があれば、どんなものでも創り出せるという超科学の産物だった。

 

そして、人が食べるものは大抵、炭素、窒素、水素、酸素……、そういったものの塊であるからして、その辺りの木々や動物をマテリアルトランサーに突っ込めば、適当な飲食物はすぐに作れる。

 

だが、ダニエルにそれを指示したニアの意思は、別のところにあった……。

 

 

 

『よーし、敵の増援が来る前に、とっとと資材を集めるぞー』

 

ダニエルは、レメゲトンに搭乗したままそう呟いた。

 

『よいしょ』

 

軽く声を上げて、レメゲトンは、周辺に生えている木々を引っこ抜いて……、上空に放り投げた。

 

物を投げるという機械兵器とは思えないスムーズな動きをしつつ、周囲の木々を五、六本引き抜き……。

 

『うっし』

 

落下してきた木々を、「けん玉」のようにキャッチした。

 

まるで曲芸だ。

 

まあ、左腕がないのでこうしなければ物を抱えることができないからなのだが……、人型機動兵器がやって良い動きではないのは確かだ。

 

『あとはこう、か』

 

太腿部の高周波ブレードナイフを射出して展開、それが地面に落ちる瞬間に、掬い上げるように柄を蹴り飛ばし……。

 

『キー!』

 

上空を飛行する、全長4mほどの怪鳥を仕留め、それを更にキャッチして抱える。

 

『仕事終了、と』

 

この一連の動作を、三十秒もしないうちに終わらせた。

 

これがグリムギアのパイロットなのである……。

 

 

 

「どうだ、ニア?」

 

「散布した偵察ナノマシンによりますと、都市部では先程の二機の人型兵器の報告が懐疑的だという話になっているようで、増援が来るのは遅れそうです」

 

「良いな。じゃあ、ブルームーン号は直せそうか?」

 

「提案なのですが、船舶としての機能復旧よりも、陸上トレーラーとして活用しませんか?」

 

そう、これこそがニアの提案したいことだった。

 

無理にブルームーン号を船舶として復旧させずに、まずは陸路移動が可能なトレーラーに簡易改造してしまおう、という案。

 

そしてそれは、理に適っていた。

 

どうせこの星で資源回収をするのだから、わざわざ宇宙に再度出る必要性はない。

 

「……ふむ、一理あるな」

 

「今回採取された有機リソースで、ゴムタイヤを作れます。それを使って陸上移動用のタイヤを」

 

「動力は?」

 

「鹵獲した機体に使用されているレアメタルで、マクスウェルエンジンを補修可能です」

 

「そうか」

 

「そして、レメゲトンの方ですが、装甲板がハリボテでよろしければ復帰可能です。左腕部も、鹵獲した機体を分解すれば、何とか間に合わせられるかと」

 

「頼んだ」

 

「では、作業を開始します。有機リソースが確保できたので、お食事はいかがですか?」

 

「良いな。ああ、そうだ、どうせなら一緒に食事でもどうだ?」

 

「……マスターに求愛されてしまいました。胸が高鳴ります」

 

「そう言う小芝居は良いから早よ来い」

 

「ノリが悪いですよマスター」

 

 

 

「茹でといてくれぃ」

 

「はい」

 

ブルームーン号のキッチンに並ぶダニエルとニア。

 

長年の相棒同士とは言え、こうして直に顔を合わせるのは初めてだ。

 

だが、百年も共に連れ添った二人(?)は、お互いのことをよく理解していた。

 

「ん」

 

「はい」

 

「アレしといて」

 

「分かりました」

 

「あ、出してくれ」

 

「はい」

 

通じ合い過ぎていて、熟年夫婦も真っ青な以心伝心っぷりを見せる二人。

 

こうして見ると、完全におしどり夫婦以外の何者でもない。

 

が、本人達は夫婦だとは思っていない。

 

「いやぁ、二人だと作れる品目が多くて嬉しいねぇ」

 

「わざわざ料理せずとも、マテリアルトランサーに登録されている出来合いの料理を出せば良いのでは?」

 

「おいおい、何回も言わせんなよ。自分で作って、その時々で味が違うから面白いんじゃねえか」

 

「そう言うものなのですか?」

 

「ああ。特に、今回の食事はずっと思い出に残るぜ。何せ、相棒と初めて一緒に食事するんだからな」

 

「……マスターに口説かれてしまいました。惚れてしまいそうです」

 

アマトリチャーナのパスタソースを作るダニエルと、パスタを茹でながら皿を用意するニア。

 

完全にいちゃついていた。

 

が、本人達は夫婦だとは思っていない。

 

夫婦だと思ってはいないが、夫婦より深い絆があるとは思っている。

 

書類一つでくっついたり別れたりできる、夫婦などという不確かな関係ではない。

 

彼らは、相棒なのだ。

 

己の半身にも等しい、相棒……。

 

機械に最も近づいた人間と、人間に最も近づいた機械のバディ。

 

それこそが、グリムギアのコンセプトだ。

 

この二人(?)はまさに、グリムギアのコンセプトの体現と言えるだろう。

 

「さ、できたぞ」

 

「はい」

 

「……どうだ?」

 

「正直、よく分かりません。味覚センサーは高栄養素であることを表しているのですが」

 

「そうか」

 

「でも……」

 

「でも?」

 

「私の『心』は、この瞬間を『幸せ』であると定義しました」

 

「ハッ、そりゃいいな」

 




サイバーパンク学園が7話!

結構頑張った!

感想はやはり力になるなあ。

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