ハーレムしつつもマーク・ギルダーを相棒として黒歴史ターンエーで無双するやつ。バルバトスでも良い。
僕は、天魔波旬、鞍馬。
ジパングの一国の主。
……いや、今は、深淵の王に仕える役人、かな。
深淵の王、ジン……。
僕の愛娘、八千代が連れてきた男だ。
黒髪を長く伸ばし、髭を生やした、彫りの深い色男。身長も高くて体格も良いが、鋭過ぎる眼光を放つ男だ。
最初は、こう思った。
八千代が認める程の男だ、出来が良ければやがて後継者に、悪ければ城の一つくらい与えようとは考えていた。
しかし、ジン殿の器はそんなものじゃあなかった。
ジン殿は、世界を支配すると言った。
男なら、誰でも夢見ることだ。
僕も若い頃は、そんなことを夢想したものだ。
しかし、現実では、大和一国の平定で精一杯。
民を飢えさせないように努力しても、どこかで綻びが出る有様。
人々を統べると言うのは、難しいものだね。
そう思っていたのだけれど……。
今は、尾割より東の新たな地、穢土に城を一晩で築き、そこを拠点とするように指示された。
民家の建築も、治水も瞬く間に終わらせて、人の住める地に整備した。
元からある田畑の区画を整備し、それに伴う不安定期の生活を保障した。
新たな船を作り、航海術を教え、大網を作り、漁業を発達させた。
主食である米の、しっかりとした植え方……、正条植えだったか、などを教えた。
芋に醤油、砂糖、卵、獣肉と新たな食材を齎した。
悪銭を駆逐し、新たに小判と言うものを作り、流通させた。
民に教育を施し、識字率を上げた。
全くもって、敵わない。
あの、深淵から見たこともないものを取り出す魔法といい、分身の術で数十万人に分身する魔力といい、人の上に立つ器の大きさといい……。
ジン殿には、敵わないな。
ジン殿が現れたのは、丁度田植えの前の時期だった。
すると、ジン殿は、種籾の選別と正条植えを提唱した。
種籾は育ちやすいものを選別するため、塩水につけるらしい。
なんでも、そうすると、身の詰まってよく育つ種籾は沈み、よく育たない軽い種籾は浮くそうだ。
そして正条植え……。
米を、列に並べるように間隔をあけて植える方法だ。
兎に角たくさん植えれば良いのではないか、と言う民達に対して、ジン殿はこう言った。
『稲も人も同じだ。狭いところに押し合いへし合い詰め込まれているものが健全に育つと思うか?こうして間隔をあけることで、一つ一つの稲が強く大きく育ち、結果として収穫の量は増えるんだよ』
成る程、上手い例えだ。
そう言われると、滅茶苦茶に植えた稲は、しっかり育ってくれないように思えるね。
それに、この植え方ならば、草取りなどの整備も楽だそうだし。
そして、収穫の時には皆が驚いたものだ。
収穫量が明らかに多いのだから。
二割、いや三割は多い。
結局、ジン殿の言葉は正しかったのだ。
二毛作などと言う試みも成功し、輪作と言う試みも行われた。
家畜も育て、漁業も上々。
なんと素晴らしいのか、民は全く飢えなくなった。
今や、民でも米が食え、その上、魚と少しの野菜も食えると、皆喜んでいるね。
腹一杯食えるからか、子供は健やかに育ち、民の肌つやも良くなり、病人も減ったと聞く。
ジン殿の話では、いずれ戦の為、兵を借りるとのことだが、その前に国を富ませる、と。
なるほど、これだけ国が富めば、兵を出しても良いかもしれない。
ジン殿なら、敵は殺せど味方は殺さぬだろうしね。
僕の見たところでは、合理的ないくさ狂いってところかな。
戦が好きなのだろうが、理に反することはしないだろう。
この国を任せても良いかもしれない、ね。
ジン殿には、仕事だと言って、毎日、視察に付き合わされたり、書類の束を渡されたりする。
それなりに忙しいが、施政者とはそういうものだ。
だが、そんな忙しい日々の中にも癒しはある。
まず第一に、八千代がたまに会いに来てくれる事だ。
ああ、八千代、僕の可愛い八千代!
小さな武家の娘だった妻と、大恋愛の末に結ばれて、やっと生まれた娘が八千代なんだ。
息子の蘭馬も可愛いが、八千代はもっと可愛いな!
娘の方が可愛いだろう?
自分で結婚相手を見つけてくると家を飛び出した時は心労で倒れるかと思ったし、知らせもなく心配だったんだ。
でも、今は戻ってきてくれて嬉しいよ。
第二に、飯が美味いこと。
新食材の試食の名目で、色々なものが食べられるのだ。
「ほお、これは美味い!甘くて美味しいね!芋かな?なんて言う芋だい?」
「さつまいも……、いや、甘藷、だな」
「へえ、馬鈴薯とはまた違う味だね。これも、痩せた土地でも育つのかな?」
「ああ、水も少なくて済む。飢餓対策にはやはり芋や豆、とうもろこしだな」
「へえ、甘藷。確かに甘いしね。これは?」
「薄切りにした甘藷を干したものだ。干し芋、とでも呼べ」
「……うん!これもいい!干したと言うことは日持ちするのかい?」
「カビないように気をつければ一、二ヶ月は保つな。夏場は一月が限界か」
「旬は?」
「秋」
「……秋の野菜が夏の今にあるのは何故かな?」
「気にするな」
うん……。
「にしても、穢土は料理が美味いね」
特に、寿司、蕎麦、天ぷら、鰻重は大人気だ。
僕も好き。
寿司は、季節の魚を酢を混ぜた白米の上に乗せ、醤油と言うたれで味をつけた握り飯だ。
山葵を間に挟んで殺菌?してるそうだ。
殺菌、と言うのは、目に見えない生き物が悪さをして、生ものを悪くするから、それを殺すのだとか。
この前は、顕微鏡と言うもので細菌を見せてもらったから、菌というものの概念は理解している。
誠に、ジン殿は博識だね。
そう、それで、殺菌された寿司は、悪くならずに食べれると言うことだよ。
きゅうりやかんぴょうの海苔巻き、玉子の寿司なんかも中々美味い。
最初は鳥の卵を食べるなんて聞いたことがなかったから驚いたけど、食べてみれば成る程と納得したね。
ふわふわでほんのり甘くて、その上栄養もあると言うのだ。
お供にがりというものもあり、それも殺菌の効果があるとか。
寿司は、手軽に食えるため、穢土の労働者達の飯時の定番になっている。
まあ、寿司の職人達は、ジン殿に猛特訓させられたそうだが。
それと蕎麦。
こちらも定番料理。
なんと言っても、原料が蕎麦なのが良い。
とても安く作れるから、貧しい民でも気軽に食べられる。
今日のように暑い日は、氷魔法なんかで作った氷水で蕎麦とつゆを冷やして、ざる蕎麦にしたらとても美味いと思うよ。
天ぷらは特に好きだ。
季節の野菜や山菜、魚に海老に、衣をつけて油で揚げる。
さくさくの揚げたてを大根おろしとつゆで食べるとたまらないんだ。
飯に乗せて天丼にしても、蕎麦に乗せて天ぷら蕎麦にしても良い。
そして鰻。
美味いし、精がつく。
丼にするのが一番とされていて、鰻重は穢土の庶民でもたまには食べられる贅沢品の一つだ。
あの甘いたれと山椒がね、やめられなくてね。
冬のすき焼きや鍋も良いし、肉じゃがや角煮、唐揚げなんかも美味い。
「鞍馬、視察だ。ついてこい」
「はいよ、っと」
刀と脇差、それと財布を持って外へ。
「ふむ、あの店にするか」
「へいらっ、しゃ、いいぃ?!殿様じゃねえですかい?!!」
「ここは寿司屋だな?適当に握れ」
「へ、へい……」
「………………ふむ、合格だ。励めよ」
「あ、ありがとうごぜえやす!!」
このように、そこらの店に入っては、抜き打ちで試験をする。
他には。
「生臭いな、この辺は」
「月路市場、か」
「おい、そこの魚、適当に捌け」
「と、殿様!!へ、へいっ!!」
と、刺身を食っては。
「ふむ、品質管理がなっているな。しっかりと氷属性の使い手に働かせている。合格だ」
「は、ははぁー!!」
ここでも抜き打ち試験。
食品関係以外でも。
「高炉の調子はどうだ」
「と、殿様?!」
「ふむ、安全管理には気を配っているな。合格」
「へへぇ!!」
鉄を作る炉の調子を見て、安全か、働いているかを見る。
「どうだ、鞍馬」
「どう、とは?」
「国は栄えたぞ」
「ああ、確かに」
「戦はいずれ来るぞ」
「ああ、分かっている」
戦……。
やはり、あるか。
人は欲深い。
土地を奪おうと攻め込んでくるだろう。
むしろ、これは良い機会だったのかもね。
深淵王の庇護下におかれるのだから。
さあ、ジン殿。
その調子でジパングを富ませてくれよ。
敵にだけは、ならないでくれ。
オレツエーハーレムが書きたい。