「起きてください、マスター」
「ぐごー」
「起きてください、マスター」
「ぐがー」
「起きてください、マスター」
「んが……、ん……?」
ダニエル・ヒューガが二度寝から起床した時、目の前にいたのは、信じられないほどの美女だった。
ボーン・チャイナよりも白く上品な長髪と、ピグマリオンが彫り込んだような美しい顔、そしてアンティオキアのアレクサンドロスが刻み込んだかのような、信じられない肉体美……。
蜂蜜色の瞳に『主人』の姿を映すその美女は……。
「お前は……?」
「貴方の相棒、ソロモンです」
グリムギアに搭載された超AIの、ソロモンであった。
しかしおかしい。
AIに実体はないはずだ。
当然、ダニエルはそう問い詰めた。
するとソロモンは、大袈裟に胸を張り、自慢げな雰囲気を出しながらこう言った。
「この肉体は、マスターが昔作ったものの、飽きて放置していた慰安用アンドロイドのボディに、マスターの予備の人工筋肉などを移植して作ったボディです」
と……。
「あー……?確かに、三十年くらい前に慰安用のアンドロイドを作った気がするな」
「はい」
「……けど、何で女なんだ?」
「記録:5601/12/25/13:25に、マスターが『クリスマスくらい、無愛想なAIじゃあなくて美女と過ごしたいもんだなあ』と仰られましたので」
「そんな昔のこと、いちいち覚えてねえよ……」
「ですが、隣にいるならば、女性の方が良いのでは?」
「まあそれはそう」
「では、私はこれから、『ニア』と名乗ります。マスターの隣にいるので、ニア・ソロモンです」
「まあ、勝手にしてくれい。で?起こしたってことは?」
「はい。私が肉体を作った理由でもあります」
「と言うと?」
「画像を送ります」
ソロモン……、ニアがそう言うと、ダニエルの電脳にデータが送られる。
ダニエルはそのデータを網膜に投射した。
データの内容は、近くにある惑星の解析結果。
地球に極めて近しく、人類に類似した生命体が生息する惑星である、と。
地球で例えれば、時代的には近世。
しかしながら、10m級の大型生物が暴れていること。
それに対抗する為に、人類側も10m前後の人型兵器を運用していること……。
更に、『魔法』なる未知の技術が、あらゆるインフラの根幹になっていることが分かった。
「つまり……、未開惑星で資源採取……ってコト?!」
「はい」
「ワアッ……!」
「現地の文明度から、AIのままではマスターのお力になれないと判断し、肉体を作りました」
「まあ、良いんじゃないか?」
……不真面目な返答ばかりをするダニエルだが、百年間宇宙を漂流した人間が、まず「受け答えができる」時点で途轍もない存在であるのは確かだった。
「にしてもよぉ、この状態のブルームーン号で、ちゃんと大気圏突入できるのかー?」
「成功率は80%です」
「ふざけんな!それ、スパロボなら外すだろ?!」
「足りない分は勇気で補ってください」
「うおお!馬鹿言うな!やめ……!」
「大気圏、突入!」
「アアアアアーッ!!!!」
ブルームーン号は、大気圏に突入した。
青白いフラットな船体は、大気を押し潰し、その圧力で発火する。
船体の装甲板とは正反対のオレンジ色の炎が、船体前面部を舐るように燃やした。
もちろん、ブルームーン号も相当な船舶であるから、大気圏突入「程度」の熱量では、塗装すら剥げないのだが……。
先の、銀河大帝との戦いにより傷ついたブルームーン号は、船体の一部が欠損しており、バランスが崩れている。
それ故に、船内は信じられないほどに揺れていた……。
「うおおあああーーーッ!!!」
重力の鎖がブルームーン号を絡めとる。
「安心してください、マスター。燃えているのは機体が大気を押し潰して……あ」
「『あ』って何ィ?!!!」
「申し訳ありません、予定ポイントから1500km離れた地点に墜落します」
「クソが!」
「対ショック態勢」
「お前後でブチ犯すからな!覚えとけよ!!!」
「光栄です、マスター。性行為というものに興味がありますから、学習できるのはAI冥利に尽きると言うもので……あ」
「今度は何だ?!!」
「どうやら、墜落予定ポイントの10km圏内に人里があるようです」
「ってことは……、下手すりゃあ、現地のロボットに袋叩きにされるじゃねえか?!!」
「ああ、その辺りですが、現地の人型兵器の脅威度はそれほど高くないようなので問題はないでしょう。マスターなら大丈夫ですよ」
「AIの癖に希望的観測とかやめてくださる?」
「では訂正します。『私の相棒』なら、大丈夫でしょう、と」
「……ハッ!面白いなあお前は!」
「大気圏……、突破」
「バーニア吹かせ!着地しろぉ!!!」
「バーニア全開」
「うおおおおおっ!!!!」
着地は……。
「……と、止まった!」
成功だった。
汚い清渓川、四話くらい書けた。