ブルームーン号。
全長250m程の中型宇宙船にして、実質的にダニエルの家である。
この宇宙船には、ダニエルの乗機である人型兵器……、『グリムギア』を整備及び、パーツの生産をする設備が揃っている。
いかにエースパイロットと言えども、一軍人に過ぎないダニエルにこのような過剰な設備が用意されるのには、もちろん理由があった。
彼の所属する地球連邦軍の敵は、三千万光年離れた銀河の彼方から来る、地球外侵略生命体なのである。
三千万光年先までに攻め入るには、まともな人間やまともな設備は使えない。
必然的に、「まともじゃない」人間と設備が必要だった。
即ちそれは、サイボーグされた肉体と、百年もの間を孤独に過ごせる異常な精神性、おまけに、最強の人型兵器『グリムギア』を乗りこなす適性……、その全てを兼ね備える存在でなければならなかった。
三千万光年離れた宇宙で、独立した一つの戦力となる為には、現代日本円にして一兆円にも達する超高性能宇宙船くらいは随伴させざるを得ないということだ。
そんなダニエルは、自分の家たるブルームーン号を見て愕然とした。
「うぇあ……」
『損害は甚大ですね』
青白い船体はボコボコに歪み、いくつかの部屋が露出していたからである。
そう、ブルームーン号も爆発に巻き込まれたのだ。
「クソが!ソロモン!」
『外部アクセス……、成功。気密は生きています』
「工作ロボは?」
『生きています。周辺のデブリを使い、即座にブルームーン号及びレメゲトンの修復作業を開始します』
「頼んだ。俺はもう……、寝る!」
不貞寝したダニエルは、十時間後にふかふかのベッドの上で起床した。
「うぇあ」
この男は、寝るときはジーパン一丁上半身全裸。
もっとも、サイボーグであるからして、寒さなど何も考える必要はないのだが……。
はち切れんばかりの人工筋肉を、中東系の少し濃いめの色をした皮膚が包む。
生殖器系を残してあるダニエルからは、大人の男の色気が漂うのだ。
因みに、グリムギアパイロットは基本そうしている。
たった一人と一機で、星をひとつ制圧できるのがグリムギアだ。
そのパイロットには大抵、ハニートラップやら何やらが群がるので、制圧できるようにフェロモン増幅などの改造がインプラントされている。
ハニートラップにかからないような教育の徹底?
残念ながら、グリムギア乗りに「教育」などができる訳がない。
グリムギア乗りはキチガイ揃いだ。
ダニエルはかなりまともな方で、酷い奴にもなると、「会話不能でただ暴れるだけの白痴の化け物」「毎日他者に拷問をしないと体調を崩すサイコパス」「ヤク中」などと、明らかに軍人どころか人間としてアウトな連中ばかりだ。
そんな奴らを使わなければならないほどに人類は追い詰められていた訳だし、そんな奴らじゃなければ宇宙の彼方で一人戦い続けるなどという異常行動はできないのだが。
逆に言えば、百年もの間、宇宙の彼方でたった一人で戦い続けていた癖に「狂っていない」ダニエルも、相当におかしい存在なのだが……、それは良いとしよう。
さて、ダニエルだが。
汚れは体表のナノマシンで分解されるし、垢など出ないサイボーグの身体であるのに、何故か冷水で顔を洗う。
その顔は、混血化が進んだ西暦5654年頃の人間らしい、人種でカテゴライズできない顔つき。
強いて言えば地中海系、ラテン系だろうか?
古のギリシア人のような、セクシーな肉体美と男性的魅力に溢れるナイスガイだった。
総金属製の骨格と、信じられない密度の筋繊維を持つ人工筋肉、ファイバーと化した神経系。
その肉体の大きさは198cmだが、体重は何と200kgにまで達していた。
そんな大男が、のそりと。
自室から出てくると。
『おはようございます、マスター』
ダニエルの脳内に、相棒であるAIの、ソロモンの声がかかった。
「ソロモン、どうだ?」
『ブルームーン号の修復ですが、資材が足りず、船舶機能の32%が喪失したままです』
「その辺のデブリはどうした?連邦軍の予算の12%を吹っ飛ばした超兵器サマは?!」
『残念ながら蜂の巣……、海の藻屑と言うべきでしょうか?リサイクルできるパーツは殆どありませんでした』
「カーッ!やってらんねーな!レメゲトンは?」
『《GMG T000レメゲトン》は、機体機能の36%を喪失しています。出力は41%まで落ち、エネルギー兵装は使用不可。Eシーズ装甲も不稼働、重力下での飛行も不可能です。脚部はどうにかしましたが、資材不足から左腕部は再構築不可能です』
「イヤーッ!助けてェ!!!」
『ついでに言えば、有機資材を保管していた倉庫が吹き飛びましたので、食料も生成不可能です』
「……朝飯は?」
『ありません』
「近くに惑星とか……」
『ありますが、調査が……』
「そんなんどうでも良いだろ?!サイボーグでも、一ヶ月食えなきゃ死ぬんだぞ?!」
『分かりました。ですが、調査ポッドを降下するので……』
「調査ポッドを作る資材はあるのかよ」
『いえ、作業用ロボットを一機だけ分解してリソースを確保しましたので』
「うえぇ……、作業用ロボットを分解するとか、古典SFの宇宙遭難そのものだな……」
『よかったのでは?お好きでしょう、古典SFもの』
「嫌味かこの野郎」
『いえ、私はAIなので嫌味は言えません』
「お前は人類史上初の『心を持つAI』だよなあオイ」
『心があるなら尚更、主人に嫌味など言えませんよ』
「はっ、吐かしてろ。俺はもう一眠りしてくるから、その……、近くの惑星?とやらの検査結果が出たら起こせ」
『はい、マスター。おやすみなさいませ』
先日ブルアカを始めまして、水着のおじさんや罪人女などの強キャラをリセマラなしであっさり引けました。
なので、「汚い清渓川」と称されるサイバーパンク学園の続きを書いています。