1話 エース・オブ・エース
「う、オオオオオオオッ!!!!!!」
母なる星地球から、三千万光年離れた銀河の彼方。
対地球外侵略生命体の為に、国家の垣根を取り払って結成された軍隊、地球連邦軍の最強のエースパイロットは、雄叫びを上げながら戦っていた。
それも、エースパイロットは、この時のために連邦軍予算の12%を生贄にして召喚した超兵器……、『キロメートル単位の宇宙戦艦を人型兵器に変形させて戦闘する』という、気持ち悪いコンセプトの機体で行動をしていた。
何故そんなことが許されたか?
彼の実績から来る信頼も当然あるが、偏にそれは、これが最終決戦であるからだ。
即ちそれは、銀河の優越種を自称する異星人『アググロゼグス星人』の指導者、『銀河大帝ジゴスバリオン』との最後の戦い……。
そして、巨大な戦艦ロボは、要塞化されているアググロゼグス星人の母星に突っ込み破壊された。
が……。
「オオオオオオッ!!!!!」
使い終わったミサイルポッドをパージするように、巨大な戦艦ロボの胸から10mほどの人型兵器が飛び出した!
『ノートリア・パッケージ、リリース』
人型兵器のAIが淡々と告げる。
そしてそれは、ボディに満載されたミサイル、グレネード、ロケット、ビーム砲、あらゆる兵器を乱射しながら、アググロゼグス星のコア部分を真っ直ぐ目指す。
『アルマデル・パッケージ、残弾ゼロ。リリース』
そして、全ての武器を使い尽くし……、丸裸となった人型兵器は。
黒いボディに黄金の王冠のようなヘッドパーツ、赤いデュアルアイの戦闘機械は。
『き、貴様ぁっ!!!』
「死ィイねよやぁぁぁーーーっ!!!!!」
『グ、グワーーーッ!!!!!』
最後は素手で、マニピュレーターがぐちゃぐちゃに潰れるのも構わずに、指令部の銀河大帝を叩き潰した……。
だが……。
『グググ……!よくもやってくれたな、サルめ……!』
「クソが!くたばってなかったか?!」
『覚えておれ!我は滅びぬ!生命に悪の心がある限り、何度でも蘇るのだァー!!!!』
「アニメーション黎明期のベタなロボアニメみたいな遺言吐いてんじゃねえぞカス!」
『マスター!高エネルギー反応!恐らく、星ごと自爆するつもりです!』
「ハアーーーーー?!!!!ふざけんじゃねえ!付き合ってられるか、脱出だ!!!!」
「あと、もう少しで圏外に……!」
『無理です!間に合いません!対ショック態勢!!!』
「アアアアアアア!!!!!」
………………
…………
……
次元湾曲反応、と言うものをご存知だろうか?
西暦にして4855年頃に発見された現象で、平たく言えば、高次元の超エネルギーを圧縮することにより一時的に次元の壁を突き破れる、という現象を指す。
とは言え、産業利用ができない、単なる危険な現象に過ぎないので、知る人は少ない。
そもそも、この現象を起こすには、『惑星ひとつの全てをエネルギーに変換する』くらいのことをやらなければ発生し得ない。
理論上にのみ存在する現象である。
そう……、起きるはずがないのだ。
『惑星ひとつを爆破するアホ』でもいない限り……。
「だが、アホはここにいたと。そう言いたい訳だな、『ソロモン』よ」
宇宙空間に漂流する、エースパイロット。
名を、ダニエル。
ダニエル・ヒューガと言った。
『肯定です、マスター。銀河大帝は知性に問題がありました』
黒に金王冠の人型兵器に搭載されたAIである、ソロモンがそう返す。
「で、ここは全く観測下にない、地球連邦軍の宙域図にもない宇宙空間で、更に言えば、理論上は銀河のどことでも通信できる『量子ジャンプ通信』も届かない地点なんだな?」
『肯定です、マスター。軍事、民事問わず、あらゆるチャンネルから呼びかけていますが、五千万光年内に返信をする存在はおりません』
「ハッハー、泣いていい?」
『構いませんよ』
「何だこの野郎、百二十四歳児のガチ泣きが見てえのかコラ」
『私はAIですので、マスターが一般社会で批難されても共にいますから安心なさってください』
「ハッ、ありがたくて涙が出るね」
『はい、感謝してください』
「あー……、とりあえず、この機体じゃ色々保たん。気密も怪しい」
黒い人型兵器は、「保たん」とまで表現されるのが的確だ。
黄金の王冠のようなバイザーは溶けて消し飛び、二つの赤い瞳も一つが欠けて未点灯。
銀河大帝にストレートパンチを叩き込んだ左腕部は、肘関節から先がひしゃげてなくなっていた。
胴回りも爆発の熱波でドロドロに溶け、脚部は右足が付け根から損失。
ついでに言えば、機体内部のジェネレーターやラジエーターも焼き切れており、動いているのが不思議なくらいだ。
「『ブルームーン号』はどこだ?」
ダニエルが問う。
『反応キャッチ、指定ポイントまで移動してください』
ソロモンが答える。
「あいよっ、と。ブースターは?」
『出力、21%』
「カーッ!嫌だね!となると……、こうか」
周囲のデブリを蹴って、残った右腕でデブリを掴み、アスレチックのように移動するダニエルの機体は……。
「はい、到着」
無事に、ブルームーン号……、宇宙船まで辿り着いた。
インプットを増やさねば……。