一日で。
「無傷か?」
「「「「はい!」」」」
「じゃあ、ディナの回復魔法を使うような怪我を一回したら、即撤退だ」
「え?な、何でですか?」
とルイーズ。
「ディナは二回しか回復魔法が使えないからな。行きで怪我したら、それを治す為に一回。残りは帰りに怪我した時の為に一回分残しておくってことだ」
「で、ですが、それなら稼ぎが」
「何度も言うが、命より高いものはそう多くない。今でこそ、死んでも蘇生費用は金貨一枚で、死体回収費用も金貨一枚で済んでいるが、レベルが上がれば蘇生費用も膨らんでいく」
「そうなのですか?!!」
「ああ。だから、命を第一に考えた方がいい」
命ほど大切なものはない!とは言わない。
この世界では、命より高価なものも結構あるからな。
と言うか地球でもそう。
はっきりとそう口にする人間は少ないが……、例えば大抵の経営者は、従業員の命より利益の方が大切だと思っているだろう。
俺も、「アフリカの恵まれないコドモタチ」の命より、自分の生活の方が大事だし……。
世の中そんなもんだ。
俺が言いたいのは、浅層じゃ大したマジックアイテムも手に入らないし、下級冒険者が持つ一番高価なものは命だってことだ。それを落とさないようにするのが一番いい。
そう説明を付け加えてやった。
「アンタ、本当にスゲェな……。本当に、ダンジョンのことを何でも知ってるみたいだ」
ピーターが言った。
「ベテランなんでね」
スポーツマンですから、みたいなツラをして言ってやった。
その後も、採取ポイントを三つほど周りつつ、レベル上げをした。
途中、宝箱も出たが……。
「ほら、ピーター。練習だ、開けてみろ」
「え?俺、やったことないんだけど……」
「そうだな。だからこそ練習だ」
「分かった……、ぐわあああ!!!」
毒ガストラップだ。
全員、毒ガスを吸って血を吐いている。
「落ち着いてアンチドーテポーションを飲め」
「ングっ!」「ごくっ!」
「こんな風に、宝箱には罠が仕掛けられていることが多い。不用意に触るとこうなる」
「死ぬところだったぞ!」
「大丈夫、大丈夫。死なないように俺が引率してやってるんだから」
毒のヤバさはここで知って欲しかった。
毒、マジでやばいからな。
この世界の人々、特に下級冒険者なんて、戦士でもHPは100を超えない。魔術師なんて30程度だ。
そんなのが、一歩歩くごとにHPを失っていくとか普通に悪夢だ。
しかも、毒状態は、四階位の白魔法か、アンチドーテポーションでしか治せない。
これがかなりキツい。治す手段が少ないのはかなり困る。
ついでに言えば、毒状態の時は、内臓が焼けるように痛むなどで集中力も削がれる。良いことなしだ。
「そんな訳で、宝箱に手を出すのはまだやめておけ。ダンジョンでは欲を張った奴から死んでいくんだ」
「「「「わ、分かりました」」」」
そうして、仕事を終えて……。
ギルドに帰還、と。
薬草が四袋、ブルーキノコが二袋。
合計、銀貨二十枚の成果だ。
「銀貨二十枚?!故郷の村なら、二月は暮らせる……!」
「俺達、今日一日でそんなに稼げたのか?!」
喜ぶガキ共。
が、それはまだ早い。
「最後に、報酬の分配の話だ」
基本的には頭割りなんだが……。
「経費を最初に引いた額から頭割りするんだ」
「経費?」
「ポーションの補充の代金や、射手がいるなら矢玉の代金を払ってやったりだな」
「え?射手の矢玉の代金分、報酬がなくなるってことか?それはおかしくないか?」
ピーターが言った。
「いや、おかしくない。例えば、頑張って矢を銀貨三枚分射ってくれたのに、他の奴と分配金が同じ額……とか、そっちの方がおかしくないか?」
「う、うーん……」
「では、『矢を十本分だけ経費にする』とか、そうやって最初に決めておけば良い」
「なるほど!」
「但し、最初に決めた約束は必ず守れよ?報酬の分配で揉めた冒険者が、ギルドで殺し合いなんて日常茶飯事だ」
「わ、わかった」
「よし。では今回は、アンチドーテポーションの費用を経費として引いて……、一人銀貨四枚だ」
「「「「わああっ!」」」」
「下級冒険者なら、ギルドの酒場で『ボア肉のステーキ』を頼むのがいつものルートだろうな。ほら、行ってこい。今日は終わりだ」
「「「「はいっ!」」」」
この後も、適当に教導を続けて、一年と少し程度でレベル3に到達した四人。
まあ平均的な速度だな。
普通、一年もあればレベル3にはなる。
レベル5で中層に入れるようになるまでが、個人差もあるが二、三年。
レベル10で深層まで行くには五年くらいか……。
でも、ピーターはともかく、テルマとルイーズにはそこまでの才能はない。
もっと遅くなるだろう。
そんな彼らは正式にパーティを組み、浅層での採取により堅実に稼ぐパーティであると良い評判を得ていった。
テルマとルイーズは、コツコツと稼いで借金を金貨一枚分、つまり半分は返済している。
それだけでなく、テルマとルイーズは、ハリーやその知り合いに頼み込んで剣技や武術を教えてもらうなど、頭を使っていた。
ピーターも、罠の外し方をハリーのパーティの盗賊に聞いていたそうだし、ディナも、解呪の仕方を街の教会の神父から学んでいた。
そうやって着実に実力をつけていき、結果として、鉄級にまでたどり着いた。
「教導はここまでだ。あとは自分の目で確かめてくれ!ってことで」
「「「「そんな!師匠!」」」」
「ええい、うるさいうるさい!いつまでもお前らに構ってられんのじゃ!しっしっ!」
「また会いに来るぜ、師匠!」
「もっと立派になります!」
「お、俺も!いつか、お宝を鑑定して貰いにきます!」
「ステータスも教えて貰いにきますからっ!」
因みに。
そんな彼らのパーティ名は、『迷宮の知恵』だそうだ……。
まあ発売当時は面白かったんだろうなーって。