「……ビビらせちゃったかね?」
俺は、ガスコンロを片付けながら呟いた。
昔から、愛想がないから怖いとよく言われたな。
そんなことを思いながらも、地球で買った登山グッズの100Lバックパックの定位置にガスコンロを戻した。
そのついでに、子供の頃からの好物である、ピンク色のストロベリーガムを口に放り込んだ……。
しばしガムを噛み、風船を膨らませてダラダラアニメを見ていると……。
「サターン!どうした!暇か!」
上背の高い、筋骨隆々とした女達に囲まれてしまった。
アマゾネスである。
アマゾネスのパーティは、俺の座るテーブル席に勝手に座り始め、俺の身体を撫で始めた。
「むはー!良い身体だなあお前は!種くれ!!!」
俺に抱きついて頬にキスをしてくるこの女は、アマゾネスの族長、アンティオである。
「あーーー、暑苦しーーー……」
「良いだろオラっ!女に囲まれてんだぞ!嫌がってんじゃねえ!!!」
「おん、な……?」
こんなゴリウーが?
まあ、顔はいいけどさ……。
「何だこのヤロー!」
「いやまあ、うん。何の用だ?」
「用がなきゃ話しかけちゃダメか?」
「話すことなんて特になくないか?」
「じゃあ身体で語り合おうぜ!」
ああ、アマゾネス……。
こいつらは、強い男を無理矢理犯して、その種で孕むものだからな……。
俺もこいつらに強いとバレているから、狙われてるんだよ……。
因みに、アンティオは経産婦で、もう五人も子供がいる。そして父親は全員別。
抱いてもいいけど、がっつき過ぎて怖いんだよね。
「むはぁ〜!チンポでけぇ〜!」
そう言って俺の下半身を弄るアンティオ。
と、そこに。
「オラァン!どけどけメスゴリラ共〜!ダニー様のお通りだぁ〜!!!」
子供ほどの身長の男……、つまりはハーフリングの男が現れた。
「何だいチビスケ!引っ込んでな!」
「うるっせぇー!俺はそいつに用があんの!邪魔者は消えろぃ!……よう、サターン?今回のダンジョン攻略で手に入れたアイテムの『鑑定』を頼みたい」
ダニーは、馬油で尖らせた髭を弄りながら、偉そうに言う。
その隣には、侍(サムライ)のハンジローだ。
ハンジローは、黒の長いポニーテールをたなびかせながら、机の上に革袋をひっくり返した。
「一品につき銀貨一枚な」
「けっ!オメー、金なんざいくらでも持ってんだろ?!ケチ臭えこと言うなよなっ!」
「嫌なら別にいいんだが?」
「……わーったよ!ほれ、銀貨六枚!全品鑑定で頼む」
「オーケー」
俺は、机の上に散らばったアイテムを鑑定する……。
この世界では、宝箱から出てきたアイテムは、鑑定しない限り何なのかが分からないのだ。
もしかしたら呪いのアイテムで、装備した瞬間死ぬことだってある。
なので、鑑定は必須だった。
となると、鑑定のためには、鑑定屋に高い金を払ってしてもらうしかない訳だな。
ギルド?
ギルドが無料で何かをしてくれるなんて、そんな甘い話はない。
ギルドの鑑定士にも金を払う必要があるに決まってるだろ。
……まあ、上級冒険者は俺んところに来るんだけどね。
何故か?
俺の鑑定率は100%だからだ。
それだけの知識が俺にはある。
少なくとも、「鑑定してみたけど分かりませんでした!金は払え!」とか言ってくる他の鑑定士より、俺の方が物を知っている……。
「『力の指輪』『金呼びスカラベ』『猫のタリスマン』『除霊の首飾り』『フォティアのスクロール』『勇気の角笛』」
「へえ、どんなアイテムなんだ?」
「『フォティアのスクロール』は精々銀貨十枚だな。使うと少しの火が出るだけのスクロールだ」
「スクロールは当たり外れが激しいもんなあ……。遺失魔法のエスカペ(脱出)が記載されたスクロールなんて、金貨百枚は行くもんよ」
「『力の指輪』は、原価は安いんだが需要は高いからな。銀貨五十枚はいくだろうよ」
「ああ、確か、力を少し高めるとか?そりゃ、欲しい奴は多いよなあ。『剛力の腕輪』みたいな、もっと良いのがあるらしいけとよ」
「『猫のタリスマン』は足音を小さくするお守りだな。暗殺者御用達だ、金貨五枚くらいか」
「おお、そりゃいいな!盗賊(シーフ)にはピッタリだ!これは俺が貰うぜ」
「『除霊の首飾り』は、アンデッドに対しての守りがある。これは貴族の類に売れるから、金貨五十枚は固いぞ」
「良いねぇ!」
「『勇気の角笛』は、吹くと一時的に恐怖を抑制するアイテムだな。軍関係に金貨二、三十枚で売れるはずだ」
「良し!今回は大当たりだったな!」
「最後に、『金呼びスカラベ』だが……」
「あ?」
「査定金額、金貨千枚。装備するだけでモンスターが落とす財宝の量が増える、最高クラスのアーティファクトだ」
「な、なにーーーっ?!!!!」
ダニーは、金呼びスカラベを大事に抱えて叫んだ。
「こ、ここ、これだけありゃあ、王都に庭付きの家が買えるぜ!いや、自分で使っても……」
その時。
「いやがった!ダニーのクソ野郎!」
「げえっ!借金取り!ハンジロー、後任せた!」
と、借金取りが刃物を振り回しながらダニーに突撃して、ダニーは疾風のように逃げていった……。
残されたハンジローは。
「では、サターン殿は何か買い取っていただけるでござるか?」
「んー、じゃ、勇気の角笛をくれ。金貨三十枚出す」
「うむ、承知した。では、拙者はこれにて……」
「おう、また来いよー」
迷宮都市ウィンザリア。
俺にとっては最高の街だった。
あーーー。
金がねえ。