トロと話し合い、建国の意思を皆に表明した後、シティ・ライコウからまたもや交渉人がやってきた。
三人の大男と、一人の美女……。
シティ・ライコウのドミナン(支配者)、マルルメ・ライコウとその護衛だ。
支配者が直接乗り込んでくるとは、この恐竜旅団も高く評価されているんだなと自覚できる。
早速俺は、スミに案内させ、ひみつきちの応接間に通した……。
「こんにちは、ハクア団長」
「こんにちは、マルルメさん」
お互いに笑顔を張り付けて、握手をひとつ。
ソファーに座って、さあ交渉開始だ……。
「モース、お茶を……」
と、隣に立つ護衛のモースに言おうとして、やめた。
多分この世界、お茶とかない。
「モース、普通の水を持ってきてくれ」
「はーい〜」
それと入れ替わりで、スミが俺の側に控えて、応接間の前には更に二人のジュラ娘がいつでも乱入できる体制。
俺自身も、懐に拳銃を持っている。
まあ、マルルメも日本刀らしきものを腰に下げているし、三人の大男も棍棒だのライフルだのを背負っている。
気を抜けない交渉になりそうだな……。
いや、無論、スミの戦闘能力と頑丈さなら、この四人を相手にしても即座に無力化できるし……、あとは実は、天井裏にジノーが隠れていていつでも相手を殺せる。
しかも俺の服装は、外に出る時と同じフル武装。これで即死することはない。
なので、こちらの方が実は圧倒的に有利なのだ。
さて、交渉といくか……。
モースが持ってきた水をそれぞれ出してやり、会話開始。
「まず、取引の件だが、こちらとしては満足できる結果が出ている。今後も同じ条件で継続としたい」
「ありがとうございます。こちらも、大変な利益を得ております。ですが、よろしければ取引の内容に少々変更を加えたいと思うのですが」
「ほう?変更とは?」
「『キカイ』の販売についてです」
あー、やっぱりそこが来たか。
前に来た交渉人が棚上げにした案件だもんな。
「キカイの販売、か……」
「可能ですか?」
「可能かどうかで言えば可能だが、そちらにキカイを維持するだけのインフラはないように思えるが」
「こちらにもある程度の『デンキ』はあります」
「だとしても、こちらのキカイとは規格が合わないのでは?」
「キカイの専門知識を持つノーブルもおりますので……」
ふむ。
まあ、そこまで言うのなら……。
「販売については問題ない。しかし、もしも買い取った後に、『やっぱり解析できませんでした、払ったものを返してください』と言われても一切受け入れない。ここに同意できないようなら、取引はできないな」
「ですが、それを言うのであれば、そちらが稼働するキカイを渡すという確証もないのでは?動かないキカイを渡されて返品不能だと言われれば、こちらが大損です」
「なるほど。では、こちらが用意できるキカイのサンプルを、こちらのデンキで動かして見せよう。それでどうだ?」
「……よろしいでしょう」
話が纏まったので、俺は、車内放送でトロに連絡を飛ばし、ひみつきちの外に様々な機械を用意させた。
その間、俺は、執務室でこの四人の客に応対する。
俺もかつては研究者として、学会に出たり、スポンサーや他の研究機関の先生と話したりなど、立場が高い人を接待する場合もそれなりにあった。
流石に、一国のトップとの会談はあまり経験がないが……、だがそれでも国の要人に接待の一つもしないのは拙いだろう。
茶菓子とコーヒーくらいは出さねばならん。
しかし、コーヒーは泥水と捉えられかねないし、この世界では「澄んだ水」が贅沢の証だとも調査結果が出ている。
なので、水と、軽い茶請けを出すこととする。
先ほど、モースに頼んだ水と茶菓子が届いたので、それを振る舞いつつ、仕事の話を続ける。
「先生ー、お水だよー」
「ああ、ありがとう。……水とお茶請けだ、食べてくれ」
出す。
で、説明。
「キカイの準備にしばらく時間がかかるので、お待ちいただきたい。その間、情報交換をお願いしたいと思うのだが?」
「「「「………………」」」」
ん?
黙ってしまった。
「失礼、マルルメさん?」
「……いえ、すみません。ありがたく頂戴いたします」
そう言って、若干震える手で水を飲むマルルメ達。
「『ユキ』ですか……、これは?初めて見ました」
ユキ?雪……ああ、氷か。
氷水に驚いたんだな。
「リョーショクも、甘いですね」
茶請けのバタークッキー。
「よろければ、同じものを土産に持って行くといいだろう。部下に用意させる」
有機素材は現状余り気味だからな、お土産くらいは渡してもバチは当たらんだろう。
というより、ここで豊かさのアピールをしておきたい。
一見、悪手のように思えるが、相手がこういう理性的な人間なら有効な手段だ。
理性的だから、こういう風に力を見せると過剰に警戒してくれる。
最大の防衛方法は、攻撃そのものを思い止まらせることだ。
それを、このマルルメも理解したようで、あちら側から「不戦協定」……つまりは、敵対しない、極力話し合いで問題解決するという協定を申し入れてきた。
非常に助かる……。
この調子で、この後のキカイ取引もうまくいくと良いものだ。
ホビアニ転生、もう12話。
一週間で12話とは中々に乗ってるね。