「な、なんだあ?!!あいつ、撃ってきたぞ?!!」
「クソがあああ!!!シティ・ライコウの市長のガキがいるんだぞ?!どうして撃ってくるんだあっ?!!」
「ま、まさかアイツら、俺達と同じ『スジモノ』なんじゃ……?!!」
「俺達から人質を奪って、シティ・ライコウからマネーを奪うってことか?!!」
「ゆ、許せねェ〜!!!このガキを攫うのに、俺達『バッテンド』がどれだけ苦労したと思っていやがる?!!!」
ふむ、話を整理しよう。
アイツらは『バッテンド』という、所謂ギャングチームのような存在。ここいらでは最大の勢力を持つ悪党共。
主な収入源は略奪に強盗、そして誘拐と薬物。
本人達も重度の薬物中毒者で、タガが外れた外道ばかりとのこと。
『スジモノ』とは、犯罪者の総称のようなもので、ヤクザも、盗賊も強盗も、詐欺師やスリも全部スジモノと呼ばれる……。
……と、エンジ村で聞いていた。
そして、この世界には殺人を罰する法律がないから、こういう悪党は殺しても殺されても何もない、とも。
「ダメーーーっ!!!」
スミが、銃を乱射する俺の腕を掴む。
「何考えてるんですか先生?!子供に当たったらどうするつもりなんです?!!」
「黙れ!今は問答をしている場合じゃないだろ?!」
「やめてください……!先生は優しい人です!」
全く……。
これだから、ジュラ娘は……。
まあ、目眩しにはなったか。
俺は、とあるジュラ娘に対してハンドサインを送った。
その瞬間!
「『テムデグレル・ムング』」
煙玉が爆ぜる!
刺激物質が含まれた煙に包まれたスジモノ共は、目や喉を掻きむしりながら逃げ惑った……。
その隙に、白いフードと外套に黒いマスクをした女が、人質のガキを掴んでこちら側に離脱してくる!
「よくやった、ジノー!!!」
そう、テリジノザウルスの、ジノーだ。
テリジノザウルスはモンゴル辺りで発見された恐竜で、鋭く長い爪を持つ存在。
その爪で何をしてきたのかはまだ分かっていないのだが、このジュラ娘のゲームでは、モンゴル出身で馬賊×暗殺者っぽい存在であるとキャラ付けされていた。
本編では敵キャラっぽい立ち位置で初登場し、ぽわぽわのやさしいせかいであるジュラ娘世界で、数少ないクールキャラとして描かれている……。
もちろんジュラ娘であるからして、根本的な部分はどうしようもないくらいの善人なのだが、目的のためなら仲間とも戦うような苛烈さを持ち合わせている!
つまり、汚い手も積極的に使う、ある意味では俺が最も信頼できるジュラ娘であるのだ!
ジノーは、鉄の爪でスジモノのパイプ銃を破壊し、胴体に蹴りを入れて吹っ飛ばしつつも、ガキを抱えてタンクの背後に滑り込んでくる。
この間、僅か数秒!
プロの早業である!
「今だ!やれ!」
「「「「はいっ!」」」」
人質さえ奪えばこちらのもの。
あとは数の暴力で、スジモノ共を抑え込んだ……。
俺は、捕まえたスジモノを砂漠のど真ん中に放置することにした。
本当は、禍根を残さないように殺しておきたかったのだが、ジュラ娘達が猛反対する為、間接的に殺すことにしたのだ。
「で、でも、先生……。あのままじゃ、あの人達……」
スミロドンのスミが、そう言って獣耳をペタンと寝かせて、俺に考えを翻すようにと提案してくる。
だが、こればかりは譲れない。
「じゃあ、あいつらに今まで殺されてきた人達の前で、『悪人だけど殺すのは良くない』と言えるのか、お前は?」
俺は厳しい口調でそう言ってやる。
優しさと甘さは違う、と。
「で、でも!生きていれば償うことも!」
「失われた命の対価は命でしか支払えないはずだ。命が尊いならば、それを奪う奴はどうやって償える?償う方法がないだろう?」
「それは……っ!」
「俺個人の意見としては、禍根を残さないように殺しておきたいということになる。それは否定しない」
「駄目です……!貴方にそんなことは、させられません!」
「じゃあ、こうするしかないだろうよ。身動き取れなくして砂漠に放置する。裁くのは俺たちではなく、この世界の『運命』だ」
「ど、どういう意味ですか?」
簡単な話だろうに。
「もし、あいつらが、通りがかった人に助けてもらえたならば、それは生き残る運命にあったということだ。逆に死ねば、死ぬ運命にあったということだ」
「それは……、どうなん、ですか?」
「運命を左右するのは、奴らの普段の行いだ。もしあいつらが普段から良いことをしていれば、友達や家族が探しにきてくれて助かる。悪い奴なら見捨てられて死ぬ。何かおかしいか?」
「……うぅ、おかしくないです」
「じゃあ、そういうことで」
首から下を砂に埋めたスジモノ共を放置して、俺達は撤収の準備を改めて……。
「良くやったわ!お母様にも働きを伝えておいてあげる!さあ、私をシティ・ライコウに送りなさい!」
あーーー????
なんか居るぞ。
これはアレか。
人質だった金髪のガキ……。
頭が痛い、吐き気がする。
俺は胃を抑えて深呼吸した。
「それと、私を助けたフードの女は、私の直属の護衛にしてあげるわ!ありがたく思いなさい!」
あっちょっとやばい。
ゲロ吐きそう。
胃薬ごくごく。
……落ち着いた。流石は2121年の薬だな、即効で効く。
「大変です!先生、攫われた子をお家に返してあげましょう!」
善意100%キラキラ笑顔のスミ。
うーん、眩しいなあ。
「見なかったことにして、適当な近くの街で放置するのはどうだ?」
「ダメですよ?!!」
駄目か……、そうかあ……。
よし、では、前向きに考えよう。
ジュラ娘に見られている以上、無抵抗の少女を殺害もしくは放逐すれば、信頼度大幅ダウンは避けられない。
信頼できる相手に預けるのがベストだが、常日頃から「この世界の人間を信用するな」と教えている俺が、その辺の適当な奴に人質のガキをスルーパスすれば、それもまた信頼度ダウンの原因となるだろう。
おまけに、ジュラ娘は、気持ち悪いくらいに善人なだけで、知能は人並みかそれ以上。
それどころか、一部のジュラ娘は俺よりも賢い始末。
口先で転がしてどうにかしよう、みたいな、正攻法ではない邪道で行くと、手痛いしっぺ返しが待っているであろうことは想像に難くない。
となればこちらも、逆らいにくい正論でゴリ押しして、ダメージを最小限に抑えるべき、か。
休みじゃー!
そろそろ鍋の季節だね。
赤辛の鍋の素がめっちゃんまいので毎年あれです。
おすすめの鍋とかある?