ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

1482 / 1724
そろそろ痩せるか……。


2話 ラララ、星の彼方

「……はっ?!」

 

茹るような暑さで、目が覚めた。

 

暑さ?

 

今は冬のはず。

 

それに、夏の東京だって、こんなに暑くはない。

 

湿度皆無の、殺人光線のような直射日光。

 

肌が痛い。

 

「あぁっ、あっつ……!」

 

あまりの暑さ、その根源たる太陽から目を逸らすかのように下を向いた。

 

地面は、アスファルトではなく、一面の礫砂だった。

 

「砂、漠……?」

 

砂漠……、砂漠の、死の世界。

 

ポストアポカリプスの、世界……?!

 

血の気が引いた。

 

 

 

ポストアポカリプス、それは、水の一杯で人々が殺し合うような地獄の世界。

 

読んで字の通り、世界の終わり『黙示録』のその後の世界。

 

遥か彼方の地平線の果てまで何もない、ただ砂と灼熱だけの世界。

 

「じょ……、冗談じゃねぇ!」

 

気が狂いそうだ。

 

叫び声を上げる。

 

地面を殴りつける。

 

けど……。

 

「よし、切り替えよう」

 

現実は変わらないのだ。

 

『あの時』と同じ。

 

クソみたいな連中に夢を奪われた時と、同じだ。

 

泣き叫んでも何も変わらない。

 

過去も、他人も、変えられないのだ。

 

変えられるのは、自分の未来だけ。

 

その為にはまず、行動することだ。

 

俺は即座に、周囲を見回した。

 

砂漠。

 

礫砂漠だ。

 

地球で例えれば新疆のような、砂と石ころの砂漠。

 

太陽は灼熱そのもの。体感だが、気温は40℃を超えているだろう。

 

雲はなく、極めて乾燥している。

 

建物は……、蜃気楼でなければ、向こうに何かあるようだ。

 

とりあえず、建物へ行ってみる。

 

 

 

歩く。

 

歩く。

 

日差しを浴びながら歩く。

 

そして気付く。

 

タバコで汚染されきっているはずの肺腑も、老いて衰えた身体も、怖いくらいにすっきりしていることに。

 

ふと、手のひらを見てみると……。

 

「嘘だろ」

 

シワがない。

 

若返って、いる。

 

二十代くらいか?

 

これなら……!

 

二十代の頃の俺の身体能力は、自慢じゃないがかなりのものだった。

 

考古学者として、かなりフィールドワークを繰り返し、連日海外へと出張していた俺のバイタリティとメンタリティは、一般的な社会人のそれよりも遥かに強かったという自負がある。

 

ついでに、服装も、二十代の頃のフィールドワークの時の服装になっていた。

 

ホームセンターで買えるような、長袖上着と長ズボン。ハイネックの靴底が分厚いシューズ、滑り止め付き軍手につば広のキャップ、中は汗が乾きやすい肌着。

 

「よし、よし!いけるぞ、大丈夫だ……」

 

俺は自分を鼓舞しながら、廃墟へと向かった……。

 

 

 

「……クソッ!」

 

廃墟は、本当に廃墟だった。

 

何もない。

 

唯一、鉄パイプが転がっていたので、手頃な長さのものを拝借する。

 

中を探索するが、暗さもあり、何もわからない。

 

「おーい!誰かいないか?!」

 

俺が声をかけても、誰も……。

 

いや、何かいる?

 

『ジ……、ジジ……』

 

「だ、誰かいるのか?」

 

人か……?

 

いや、人の気配じゃないような……?

 

その時。

 

暗闇から何かが飛び出してきた!

 

それは、俺の土手っ腹に思い切りぶつかって、吹き飛ばした!

 

「ぐあっ?!」

 

思わず俺は尻餅をついた。

 

暗闇から飛び出てきたのは……。

 

「バッタ……?!」

 

犬くらいに大きな、全身が白い奇妙なバッタだった。

 

「ポストアポカリプス(黙示録)だけに、アバドン(バッタ)ってか?酷いジョークだ」

 

俺は、素早く立ち上がり、拾った鉄パイプを構える。

 

『ジッ……!!』

 

再び飛びかかってくる白バッタを、野球のスイングの要領で殴りつける……!

 

『ジ……ッ……』

 

ぐしゃり、と。

 

頭が潰れて、バッタは動かなくなった。

 

「……何なんだよ、こいつは」

 

日陰に隠れながら、バッタを見聞する。

 

生憎、専門は恐竜なもんで詳しくは分からないが、少なくとも尋常な生命体ではないことは察せられる。

 

「昆虫……、じゃないな。血液が赤い。赤虫のようにヘモグロビンが含まれているのか?いや、それにしては汚い色だ……、赤褐色だし、むしろ土のような……」

 

興味はまあ、ある。

 

未知の生命とかに心躍らない学者はいないからな。

 

もう学者じゃないけど。

 

俺がそうして、白バッタをひっくり返そうとした瞬間……。

 

『ジッ』

 

「まだいたか?!」

 

また、虫の羽音が聞こえたので、素早く鉄パイプを構えると、今度は……。

 

「赤い、バッタ?黙示録だけに、白、赤と来て、次は黒で最後は青か?」

 

赤いバッタが跳ねてきた。

 

大きさも形も、白いバッタと変わらない。

 

だから油断したって訳じゃないが……。

 

『ジッ……!』

 

「なっ?!は、速……、ぐああっ!!!」

 

白バッタよりも速い、凄まじい速さで突っ込んできた赤バッタに、対応しきれず吹っ飛ばされる。

 

「がっ、は!ごほっ、ごほっ!こ、この野郎!」

 

俺はすぐさま、鉄パイプを掴んで立ち上がろうとしたが……。

 

『ギジジジジ!!!』

 

赤バッタが、馬乗りになって噛み付いてきた!

 

「う、お、おおおっ?!!!」

 

咄嗟に鉄パイプを盾にしたが……。

 

『ガジジジ!!!』

 

「こ、いつ!鉄パイプを、食ってやがる?!!」

 

鋼鉄を噛みちぎる?!

 

こんなのに噛まれたら……!!!

 

「ぐ、この……!!!」

 

力もかなり強い!かなり鍛えた男くらいの強い筋力だ!この小さな肉体の何処にそんな力があるんだ?!

 

お、押し返せない!

 

体勢が不利過ぎる!

 

「ク、クソッ!おおおおおおおっ!!!」

 

『ギジジジジ!!!』

 

死ねるか……!

 

こんなところで死ねるか!!!

 

死んでるかのように生きていたが、他人に殺されて死ぬなんてごめんだ!

 

何が何でも生き残ってやる!!!

 

「うおおおおおおっ!!!」

 

『ガジジジ!!!』

 

 

 

そんな時。

 

とても、とても聞き慣れた声が聞こえた。

 

「先生っ!!大丈夫ですかっ?!!」

 




暴飲暴食くらいしか快楽がないのが悪い。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。