盗賊共を殺した。
殺した盗賊が持っていたものは、慣例的に、殺した市民のものとなる。
故に、盗賊のねぐらを漁るのは、当然の権利だった。
それどころか、盗賊のねぐらにある、襲われた人間の遺品を回収して持ち主に適正な値段で売るのは、善行であるとされている。
尤も、これは街道に湧く野盗の話で、街に出てくる盗賊はその街の市民だったりするのだが……、まあそれはいいとしよう。
とにかく、俺は、戦利品を漁っていた。
「旦那、あった、変なの!」
そう言ったのは、この辺りの言葉を覚え始めた元サムライ、クロウだ。
「おー、何があった?」
「変なの!」
「変なのって何だよ?」
クロウの手元を見る。
そこにあったのは……。
「『吉崎食品シーチキンマイルド』……?!!?!?!!?!」
ツナ缶、だった。
流石に驚いた俺は、ツナ缶の写真を撮って、クラスSNSに投稿する。
しゅぽ。
俺の書き込みと写真がアップされる……。
《アーク》
『おい見てくれ(画像)』
すると、リプライがすぐに返ってくる。
《エイラ》
『わはー』
《リープ》
『これマジ?』
《ドーリ》
『キサマこれをどこで見つけた?』
俺も、すぐに返信。
《アーク》
『ぶっ殺した盗賊のねぐらで』
《ドーリ》
『もう全員殺したのか?』
《アーク》
『殺した』
《ドーリ》
『クソが』
何だこの野郎。
俺がツナ缶片手にしゅぽしゅぽしていると……。
「あの、サー・アーク?そちらのマジックアイテムですが……」
と、ヒルザ殿が話しかけてきた。
「ん、ああ、スマホです?これはその……」
「いえ、そちらの円筒状のマジックアイテムです。私、それが好きで……。良ければ譲っていただけませんか?」
………………は?
「ヒ、ヒルザ殿?!これが何なのかご存知なのか?!」
ツナ缶が食べ物だと認識しているだと?!
この女……、どう言うことだ?!
「え、ええ?お父様が、たまに持ってきてくれるのです。塩茹での魚や肉が詰まっていて、とても美味しいのですよ。ああでも、サー・アークが作るスープも負けておりませんわ」
なるほど……。
ステーブル伯爵が知っているのか……。
であれば、尚更に、この聖地巡礼を成功させねばなるまい。
そしてステーブル伯爵に、缶詰の出所を聞くぞ!
と、俺はそんなことをクラスSNSに書き込んだ……。
×××××××××××××××
「こらこら、ダメだよ、夜に出歩いちゃ」
「ひっ……!ご、ご主人、様……」
猫獣人の少女を、黒い鎧の騎士が呼び止める。
気色の悪い顔で笑う黒騎士は、少女の腕を強く掴んだ。
「君は、僕を裏切らないよね……?」
「ひいっ!はい、はい!そうです!」
「寂しいんだ……、僕は同郷の人間に裏切られて、傷ついているんだ!けど、いつかあいつらを見返してやる!『ざまあ』してやるんだ!」
そんなもの、私には関係ない!そう言えればどんなに楽か。
少女は、無理矢理歪んだ笑みを作って、黒騎士に媚びた……。
次の日。
黒騎士は、猫獣人の少女と共に街を出歩いていた。
「うわっ、酷い臭いだ。この街の人達には衛生観念ってものがないんだろうか……。やっぱり、ファンタジー世界は遅れてるんだなあ」
顔を顰めながら歩く黒騎士。
常に苛立っていて、周囲を見下し、小声で不満を口に出す黒騎士の態度の悪さに、少女は辟易としていた。
だがまた、それも、口に出せば、力だけは強いこの黒騎士に何をされるか分からない。
なので、少女は歪んだ笑みで……、黒騎士と同じ歪んだ笑みで、追従の言葉を吐いた。
「そ、そうですよねえ!街が汚くて嫌ですよねえ!」
自分と同じ意見を持っている、自分が尊重されていると錯覚した黒騎士は、少女にこう言って笑いかけた。
「やっぱり、リカは賢いなあ!この世界の人間はみんな、頭が硬いからダメだよ!さあ、どこに行きたい?リカは奴隷だけど、僕は君の前の主人のような酷い扱いはしないからね!」
「は———?」
少女の口から、声にならない声が漏れる。
少女の前の主人は、とても良い人だった。
休憩時間も充分にくれるし、食事も与えてくれて、仕事も教えてくれた。
良い主人だった。
エレメンツ教の洗礼も受けさせてもらえたし、祭りの日には小遣いと休みもくれた。
この世界では、自分の子供ですらまともに養育されないことがざらだと言うのに、魔族の子供である自分を育てくれた主人は……。
少女にとって、ほぼ親代わりと言っていい人だった。
それを、自然と見下す黒騎士に、少女は強い嫌悪感を覚えた……。
「……リカ?どうかした?」
「あ……、い、いえ。私は、特に、望みはありません」
怒りのあまり茫然とした少女は、適当に取り繕う。
黒騎士はそれを、無欲で良い子だと喜んだ。
「じゃあ、美味しいものでも食べに行こうか!リカは奴隷だから、美味しいものなんて食べたことがないだろ?」
「ッ……!は、はい、そうです」
見下し。
黒騎士は、どうやら少女に好意を持っている。
それは、少女も理解できていた。
だが、自分の好いた相手すらをも見下していないと気が済まない、黒騎士の狭量さと言ったら、酷く醜く、悍ましい。
食事の場でも酷かった。
何を食べても、「僕の国ではもっと美味しかった」と、眉を顰めて食事する黒騎士とは、食事を共にしても不愉快なだけ。
その不機嫌な黒騎士を宥めながら、ストレスで味のしない食事を口にする少女。
彼女はもう限界だった……。
だがある日、市場で何かを見つけた黒騎士は、一気に機嫌が良くなった。
「これは……、缶詰だ!日本に帰るヒントになるかもしれない!あのアジとか言う奴より先に、日本に帰る方法を見つければ……!よし!これが僕の復讐だ!」
しばらく上機嫌のままだった黒騎士を見て、少女は……。
「お願いです、神様。あの男の機嫌が良くなるカンヅメ?とか言うものを、もっと見つかるようにしてください……」
涙をこぼしつつ、神に祈った……。
あー俺もな、あー。
恵まれない美少女に腹一杯美味しいもの食わせてやりたくてなあ。
溶鉄のマルフーシャ的世界でよお、女の子をよお!助けてえよなあ?!!!
よしじゃあこうしよう、なんか、美少女がやたらいっぱい出るけど最終的にはみんな凄惨な陵辱の末苦しみ抜いて死ぬ鬱バッドエンドゲーム……の世界に転生した無敵マンの話。
無敵マンは無敵なので、あらゆる鬱フラグをへし折る虹裏コブラみたいな無敵性を持つ無敵だ。
……ジェネリック旅人提督みたいな話になりそうだな?はい、やめやめ!