ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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時間、ない。


23話 正論は人を救わないんだよ

「栄ある聖堂騎士団の騎士様に、直々に供回りになれと命じられて、何故断るのですか?」

 

「い、いや、仕事とか……」

 

「騎士様にお仕えするよりも優先するほどの仕事は、ここにはないかと……」

 

まあ、そう言われればそうか……。

 

 

 

そんなこんなで始まった、遍歴騎士としての旅。

 

供回りに、『東方のホーライ』『曲刀のクロウ』『のっぽのグレイシア』『狂えるオルランド』の四人を連れて、クソデカ変異馬二頭が牽引するクソデカ馬車と、クソデカ変異軍馬に跨がる俺とカマラの、合計六人で旅に出ることと相なった。

 

で。

 

俺達も霞を食って生きている訳じゃないんで、いやまあ正確に言えば全員変異体だから食事と睡眠は不要だが、それでも諸経費はかかるので、何か稼ぎ口を探さなければならない。

 

「そんな訳で我々は酒場にやって来たのであった」

 

「何言ってんだお前」

 

はい、酒場。

 

このタムストールでは、領主の館や教会に次いで大きい建物。

 

それもそのはず、この時代の酒場は、公民館なども兼ねているからだ。

 

故にここは、一番人が集まり、一番情報が集まり……。

 

「店主よ、何か仕事はないか?」

 

「へえ、遍歴の騎士様に向けた仕事なら、こちらにございやす」

 

仕事も集まる訳だ。

 

「信用できない流れ者には言えない情報なのですが、実は……、領主様の娘さんが呪われているらしいでさあ」

 

「呪い?」

 

「ええ、この辺りで良くある、『火炙りの呪い』でさあ。何でも、手足が火傷跡のように膨れ上がるとか……」

 

うーん、何だろうか?

 

「で、領主様は、娘の呪いを解いたものには、300パラードを渡しても惜しくはないと」

 

「300パラード!そりゃ太っ腹だな。男爵の年収くらいか?」

 

「へい、領主のステーブル様は伯爵であらせられますし、この領地は水運で潤っておりますから、支払い能力は確実にあるでしょうな」

 

なるほどなあ。

 

「良い話を聞いた、褒美だ」

 

俺は、酒場のカウンターに1シェリン銀貨を置いて、領主の館へと足を運んだ……。

 

 

 

「おれは、くろう、です」

 

「そうそう、そんな感じ」

 

俺は、クロウにこの国の言葉を教えながら移動していた。

 

クロウは飲み込みが早く、簡単な単語くらいなら通じるようになってきた。

 

カマラに言葉を習っているホーライもまた、段々と言葉を覚えてきている。

 

「まあ!教会の神父様は、異人は人の言葉が話せない蛮族だと仰っていられましたが、教えれば話すものなのですね!」

 

キラキラの笑顔でナチュラルな差別意識を発露するのは、シスターのグレイシアだ。

 

差別していてもまともに応対してくれる辺り、グレイシアは有情なのだが。

 

一方でオルランドは……。

 

「ああ、今日も美しいよアンジェリカ……。素敵だ、輝いているよ……」

 

何か妄言を吐きながら、カマラをじっと見つめつつ着いてくる。

 

怖……。

 

完全にヤバい奴だが、会話はまあそこそこ普通にできるので、ギリ健常者として扱われるようだった。

 

だがまあ、カマラが直接、「怖いので近寄らないでください……」と半泣きで言ったら、それをちゃんと聞き入れて離れて護衛するようになったし、話はちゃんと聞ける奴だな。

 

さあ、領主の館。

 

聖堂騎士団から貰った金の印章と、騎士の証たる金の拍車、更に完全武装した巨体を見せれば、門番達も俺達が貴人だと納得して、速やかに領主の元へ案内してくれた……。

 

やっぱり権威権利は良いな、こう言う時に話が早く済むからな。

 

薄汚れた傭兵団では、領主になど会えなかっただろう。

 

殆ど待たされることなく、応接室に通された俺達。

 

ステーブル伯爵は、三十代後半ほどの、ピシッと背筋がまっすぐな、ヒゲを生やしたおじさんだった。

 

「貴公、聖堂騎士団の自由騎士、サー・アークで相違無いか?」

 

「はい、伯爵殿。俺がアークです」

 

「聖堂騎士団が、私に何の用がある?」

 

「伯爵殿が秘密裏に依頼を出していると聞き、それを解決するために参った。こちらには、学識がある知識人と、シスターもいる。娘さんの呪いを解く方法が分かるかもしれない」

 

「おお!では、早速、娘に会ってくれ!」

 

話が早い。

 

 

 

「ああ、ううう……」

 

痛い、痛いと譫言のように呟く、伯爵の娘ヒルザ。

 

黒髪のくっきりした目鼻立ちの、癖毛のかわいらしい少女だが……、その手足は、醜く赤く腫れ上がっていた。

 

これは……、もしかして……。

 

「伯爵殿、ヒルザ殿は普段、小麦のパンを食べていたか?」

 

「うむ……、我々は貴族だからな、小麦の白パンを食べている。特に娘は、将来与える予定の土地の麦を使ったパンを食べさせているのだが……」

 

こりゃ恐らくは……。

 

「「麦角菌」」

 

俺とカマラはそう呟いた。

 

「伯爵、娘に、娘の土地でとれた麦のパンを食べさせるのをやめろ。お前らの言う呪いとは病気で……」

 

「はーい、黙ってようねー」

 

俺はカマラの口を押さえた。

 

「んぐー!何しやがる?!」

 

「お前が何やってんだよ。『麦に寄生する菌核の、アルカロイドの毒性がー』なんつっても、この世界の人らは理解できないぞ」

 

「あ……、そうか、そうだな」

 

「で、ここの人らはこれを『呪い』だと思い込んでいる訳だから、ここの人達が納得しそうな、『それっぽい』解決方法が必要な訳だな」

 

「な、なるほど。流石だな。僕はぶっちゃけ、他人の気持ちは考えられないから、その辺の匙加減が上手いお前は本当に頼りになるぞ」

 

さて、となると……。

 

「カマラ、回復魔術をかけろ。……ではこれより、解呪の為に、エレメンツ教の聖句を唱えさせていただきます!」

 

俺が、意味ありげに聖書を開いてそれっぽいことを言い……。

 

カマラが回復魔術を唱えると、みるみるうちにヒルザ殿の手足の腫れは引いていった……。

 

「おおおっ!なんと!やはり神の力か……!」

 

驚く伯爵殿を他所に、俺は続けてこう言った。

 

「いいえ、まだです、伯爵殿。ヒルザ殿の呪いを完全に解くには、『聖地イルシール』まで『巡礼』をせねばなりません!」

 

まあ、要するに。

 

病気の麦を食べてなる病気なら、その病気の麦を食べなくて済む土地へ移動すれば良い。

 

つまり、『転地療法』というやつである。

 




サイバーパンク学園、頑張っているが手が進まない。

恐らくこれは知識不足……。

サイバーパンクの知識が、サイバーパンク2077とニンジャスレイヤーといくつかのやる夫スレで構成されているから……!

個人的には満月の狂人の続きを書くべきだと思う。あれは人気あるはず。


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