「栄ある聖堂騎士団の騎士様に、直々に供回りになれと命じられて、何故断るのですか?」
「い、いや、仕事とか……」
「騎士様にお仕えするよりも優先するほどの仕事は、ここにはないかと……」
まあ、そう言われればそうか……。
そんなこんなで始まった、遍歴騎士としての旅。
供回りに、『東方のホーライ』『曲刀のクロウ』『のっぽのグレイシア』『狂えるオルランド』の四人を連れて、クソデカ変異馬二頭が牽引するクソデカ馬車と、クソデカ変異軍馬に跨がる俺とカマラの、合計六人で旅に出ることと相なった。
で。
俺達も霞を食って生きている訳じゃないんで、いやまあ正確に言えば全員変異体だから食事と睡眠は不要だが、それでも諸経費はかかるので、何か稼ぎ口を探さなければならない。
「そんな訳で我々は酒場にやって来たのであった」
「何言ってんだお前」
はい、酒場。
このタムストールでは、領主の館や教会に次いで大きい建物。
それもそのはず、この時代の酒場は、公民館なども兼ねているからだ。
故にここは、一番人が集まり、一番情報が集まり……。
「店主よ、何か仕事はないか?」
「へえ、遍歴の騎士様に向けた仕事なら、こちらにございやす」
仕事も集まる訳だ。
「信用できない流れ者には言えない情報なのですが、実は……、領主様の娘さんが呪われているらしいでさあ」
「呪い?」
「ええ、この辺りで良くある、『火炙りの呪い』でさあ。何でも、手足が火傷跡のように膨れ上がるとか……」
うーん、何だろうか?
「で、領主様は、娘の呪いを解いたものには、300パラードを渡しても惜しくはないと」
「300パラード!そりゃ太っ腹だな。男爵の年収くらいか?」
「へい、領主のステーブル様は伯爵であらせられますし、この領地は水運で潤っておりますから、支払い能力は確実にあるでしょうな」
なるほどなあ。
「良い話を聞いた、褒美だ」
俺は、酒場のカウンターに1シェリン銀貨を置いて、領主の館へと足を運んだ……。
「おれは、くろう、です」
「そうそう、そんな感じ」
俺は、クロウにこの国の言葉を教えながら移動していた。
クロウは飲み込みが早く、簡単な単語くらいなら通じるようになってきた。
カマラに言葉を習っているホーライもまた、段々と言葉を覚えてきている。
「まあ!教会の神父様は、異人は人の言葉が話せない蛮族だと仰っていられましたが、教えれば話すものなのですね!」
キラキラの笑顔でナチュラルな差別意識を発露するのは、シスターのグレイシアだ。
差別していてもまともに応対してくれる辺り、グレイシアは有情なのだが。
一方でオルランドは……。
「ああ、今日も美しいよアンジェリカ……。素敵だ、輝いているよ……」
何か妄言を吐きながら、カマラをじっと見つめつつ着いてくる。
怖……。
完全にヤバい奴だが、会話はまあそこそこ普通にできるので、ギリ健常者として扱われるようだった。
だがまあ、カマラが直接、「怖いので近寄らないでください……」と半泣きで言ったら、それをちゃんと聞き入れて離れて護衛するようになったし、話はちゃんと聞ける奴だな。
さあ、領主の館。
聖堂騎士団から貰った金の印章と、騎士の証たる金の拍車、更に完全武装した巨体を見せれば、門番達も俺達が貴人だと納得して、速やかに領主の元へ案内してくれた……。
やっぱり権威権利は良いな、こう言う時に話が早く済むからな。
薄汚れた傭兵団では、領主になど会えなかっただろう。
殆ど待たされることなく、応接室に通された俺達。
ステーブル伯爵は、三十代後半ほどの、ピシッと背筋がまっすぐな、ヒゲを生やしたおじさんだった。
「貴公、聖堂騎士団の自由騎士、サー・アークで相違無いか?」
「はい、伯爵殿。俺がアークです」
「聖堂騎士団が、私に何の用がある?」
「伯爵殿が秘密裏に依頼を出していると聞き、それを解決するために参った。こちらには、学識がある知識人と、シスターもいる。娘さんの呪いを解く方法が分かるかもしれない」
「おお!では、早速、娘に会ってくれ!」
話が早い。
「ああ、ううう……」
痛い、痛いと譫言のように呟く、伯爵の娘ヒルザ。
黒髪のくっきりした目鼻立ちの、癖毛のかわいらしい少女だが……、その手足は、醜く赤く腫れ上がっていた。
これは……、もしかして……。
「伯爵殿、ヒルザ殿は普段、小麦のパンを食べていたか?」
「うむ……、我々は貴族だからな、小麦の白パンを食べている。特に娘は、将来与える予定の土地の麦を使ったパンを食べさせているのだが……」
こりゃ恐らくは……。
「「麦角菌」」
俺とカマラはそう呟いた。
「伯爵、娘に、娘の土地でとれた麦のパンを食べさせるのをやめろ。お前らの言う呪いとは病気で……」
「はーい、黙ってようねー」
俺はカマラの口を押さえた。
「んぐー!何しやがる?!」
「お前が何やってんだよ。『麦に寄生する菌核の、アルカロイドの毒性がー』なんつっても、この世界の人らは理解できないぞ」
「あ……、そうか、そうだな」
「で、ここの人らはこれを『呪い』だと思い込んでいる訳だから、ここの人達が納得しそうな、『それっぽい』解決方法が必要な訳だな」
「な、なるほど。流石だな。僕はぶっちゃけ、他人の気持ちは考えられないから、その辺の匙加減が上手いお前は本当に頼りになるぞ」
さて、となると……。
「カマラ、回復魔術をかけろ。……ではこれより、解呪の為に、エレメンツ教の聖句を唱えさせていただきます!」
俺が、意味ありげに聖書を開いてそれっぽいことを言い……。
カマラが回復魔術を唱えると、みるみるうちにヒルザ殿の手足の腫れは引いていった……。
「おおおっ!なんと!やはり神の力か……!」
驚く伯爵殿を他所に、俺は続けてこう言った。
「いいえ、まだです、伯爵殿。ヒルザ殿の呪いを完全に解くには、『聖地イルシール』まで『巡礼』をせねばなりません!」
まあ、要するに。
病気の麦を食べてなる病気なら、その病気の麦を食べなくて済む土地へ移動すれば良い。
つまり、『転地療法』というやつである。
サイバーパンク学園、頑張っているが手が進まない。
恐らくこれは知識不足……。
サイバーパンクの知識が、サイバーパンク2077とニンジャスレイヤーといくつかのやる夫スレで構成されているから……!
個人的には満月の狂人の続きを書くべきだと思う。あれは人気あるはず。