苦行である労働にやりがいを見出せる人間、脳改造でもされてんのか?
「とりあえず、今日の宿はどうするんだ?」
カマラが訊ねてくる。
うーん、宿か……。
「エレメンツ教の教会に行くぞ。こう言う時こそコネを使わなきゃな」
「ああ、そうか。この世界では、まだまだ人の行き来が多くないから、専業の宿屋は少ないんだったな。教会なら確実に休める、か」
教会に向かった俺達だが……。
「アンジェリカ?!何故ここに?!自力で脱出を?!!」
変な男に絡まれていた。
背が高く、体格も良く、重心移動から極めて優れた戦士だと分かる。
が、髪も髭も伸び放題で、ひどく薄汚れた、酒浸りの世捨て人といった様相の男だ。
「ひ、ひいいっ!何だこいつ?!!」
男が絡みに来たのは、よりにもよってカマラ。
カマラは、自分が一番嫌いな、「臭くて不潔で粗野で、僕の美少女ボディをキモい目で見てくる男」そのものに絡まれて、恐怖のあまりすくんでいた……。
かわいそう。
まあ、敵意はないっぽいし大丈夫だと思うんだが……。
『何だ貴様?!やめろ!』
九郎が引き剥がそうとするが、世捨て人の男は明らかに尋常ではない力でカマラに張り付いている。
脳のリミッターが外れているようだ。
「アンジェリカ!アンジェリカ!アンジェリカ!ずっと、ずっと君に会いたかったんだ!東方へ帰ってしまった君に、ずっと!想っていた!愛していた!アンジェリカ!ああ!アンジェリカーーーッ!!!!」
っと、少しヤバいか……?
と、俺が身を乗り出そうとした、その瞬間!
がつん!と、人体から出てはいけないレベルの音が響く。
「ごっふぁ……」
一人のシスターが、世捨て人男の後頭部を殴りつけたのだ。
このシスターも、またぞろ凄い。
顔は小さくてお姫様のようで、少しのそばかすがある、優しげな北欧美女って感じなのだが……、おっぱいが馬鹿みたいにデカい!
胸囲110cmはあるだろうか?信じられないほどの巨乳だ!
……が、申し訳ないが、彼女に欲情する男はそう多くはないだろう。
何故か?
デカいのは、おっぱいだけじゃないからだ。
身長、聖堂騎士団の総長殿より更に高い195cmほど!丸太のように太い手足!山のような肩幅!
信じられない程の巨体に、アンバランスな小顔童顔が乗っている、なんかもうギャグみたいなシスターなのだ!
「申し訳ありません、旅のお方。こちらの方は、当教会に住まわせているお方なのですが、少々頭が……」
申し訳なさそうに頭を下げる巨体シスター。
「ああ、いや……」
と、俺が何かを言おうとすると……。
細目のシスターの、目が見開かれる。
「金色の、拍車……?!まさか、騎士様でいらっしゃいましたか?!も、申し訳ございません!!!」
地に頭を擦り付けて謝るシスターさん。
ああ、そうだな。
金色の拍車……、カウボーイが踵につけてるピザカッターあるだろ?あれが金色なのは騎士の証でな。
だから、身分が上の騎士に失礼をしたと思ったシスターさんは、ガチ目に詫びてきてる訳だ。
だが申し訳ない。
「頭を上げてくださいよ、大丈夫ですから」
「し、しかし……」
「今晩泊めていただければ、それで充分です」
「まあ……!なんと慈悲深い騎士様なのでしょう!神に感謝を……!」
「わたくしは、エレメンツ教のシスター、グレイシアと申します。皆からは、『のっぽのグレイシア』と呼ばれています」
なるほど。
「アンジェリカ……」
「こちらの方は、アンジェリカという女性と離れ離れになり、世捨て人になったお方です」
「名前は?」
俺が訊ねた。
「それが……、覚えていないそうなのです。教会の神父様は、人は極度に辛いことがあると、記憶を失ってしまうことがあると仰られておりましたので……。恐らくは、騎士だった方なのでしょうが……」
世捨て人さんは、グレイシアと二人で、教会周りに出るモンスターなどを狩るアルバイトをして生活している、らしい。
なるほどなあ……。
うん、うん。
面白いじゃん。
「カマラ、どう思う?」
「アンジェリカに振られて気が狂った元騎士、か……。もうそれってアレじゃねーか」
「「狂えるオルランド」」
俺とカマラはそう言った。
「おい、オルランド」
「あ……?俺の、名前か?」
「いや違うだろう。だが、これからはそう名乗れ」
「そうか……、そうしよう」
「で、オルランド。こいつは、お前の愛しいアンジェリカではないぞ?」
「そんな馬鹿な!彼女はアンジェリカだ!見間違えるものか!美しい黒髪の、東方から来た姫君の!アンジェリカだ!アンジェリカに違いない!」
暴れるオルランドは、グレイシアに取り押さえられる。
「そうか?だがどの道、こいつは俺のものだ」
「にゃ?!」
オルランドの目の前で、カマラに口づけをして見せた。
さあ、どうなるか……?
「……そうか、アンジェリカ。君は、良い人を見つけたんだね。俺は……、俺は!アンジェリカ!君を愛していた!だが……、君の幸せが一番なんだ」
と、付き物が落ちたかのような顔を見せてくれた。
ふーん、なるほどね。
根っこの人格は善人なんだ。
良いじゃん、気に入った。
「『狂えるオルランド』よ、俺に仕える気はないか?」
「あ……?」
「愛したアンジェリカを守る騎士になれるぞ」
「俺が……、俺が、アンジェリカの騎士に……?な、なります!ならせてください!」
よし、仲間ゲット。
「ああ、ついでにグレイシアさん。貴女も強そうなので、旅のお供になりませんか?」
まあ、流石に無理だろうな。
ここでの仕事もあるだろうし。
ダメ元ダメ元。
「あ、良いですよ」
いや、良いんかい!
ロボットもの書きてえ……。
でも、書きかけで放置している近世ロボものがあるからなあ。