動いてないのにあついよー。
「では、サー・アーク!貴公を、『神の子とアゼル王神殿の清き戦友達』の自由騎士に任命する!」
「ははーっ!」
任命式が終わって、旅立ちの時。
昨日、クラスメイトとの挨拶は済ませた。
皆、思い思いの道へと進み始めた……。
見送りはいない。
俺と、カマラの二人で。
盗賊騎士から奪った馬(変異済)に跨り、出発を……。
「待て」
いや、呼び止められた。
この声は……。
「総長殿」
『神の子とアゼル王神殿の清き戦友達』、通称『聖堂騎士団』……。
この周辺国家では、最強の武力と権力を持つ修道騎士団。
その、総長。
フローレンス・ゴッドランド・サラマンドラ殿だ。
男尊女卑の風潮が激しいこの世界で、王族とは言え、女が騎士団長になることは、並大抵の努力で成せることではない。
卓越した指揮能力と、深き信仰、政治経済に明るく、そして何よりも最強の力を持っている。
だから、女の身で総長をやれている……。
そんな総長殿が、白銀の鎧に、赤い羽飾りの兜を付けて……。
伝説の魔剣、古代魔法文明時代の遺産の最たるもの、アーティファクトたる『ストームルーラー』を掲げて、俺の前に立った。
豪、と。
ストームルーラーが破壊の嵐を撒き散らす。
最上位加護『破砕騎士』の力たる、破壊の属性が乗った魔力の燐光が迸る。
「何故?」
俺は問うた。
分からないからだ。
総長殿とは、俺の思い違いでなければ、かなり仲が良かったはず。
プライベートでも飲食を共にしたりと、絆があったはずだ。
何故、戦わなければいけないんだ?
「報告があった。失格勇者のスズキなる者が、貴公がモンスターである、と」
うわあ……、あいつ、まだ懲りてなかったのか。頭おかしいだろ……。
「……が、それは、よい。貴公が仮にモンスターであっても、私の全権力を使って立場を認めさせるからな」
「えっあっはい」
そ、そうですか……、ありがとうございます……?
じゃあ……。
「では何故、こんなことを?」
「貴公の全力が見たい」
ふむ。
「貴公の力はよく分かっている。他の勇者とは正直、別格だった。美しい巨体、剛健な筋肉、深き知性に、そして練り上げられた武技……」
風が、吹いた。
空気の味が変わる。
剣呑な雰囲気。
闘争の雰囲気。
チリチリと、目が焼けるような。
殺し合いの、気配。
「正直言って惚れ込んだよ。私は、私よりも強く美しい存在に、生まれて初めて会ったのだからな」
んぇあ。
何これ、告白?
「アーク……、貴公は美しい。その美貌、その肉体美を初めて見た私は……、その晩に、戒律で禁じられているにも関わらず、浅ましくも手淫をしてしまったほどだ。貴公の美しさは、この私をも狂わせる……」
えぇ……。
何これ?
何なの?
怖いんだけど????
総長殿ってまともな人じゃなかったっけ?
俺は思わず、助けを求めるようにカマラの方を見る。
「………………」
カマラは、俺の馬を連れて、遠くに避難していた。
クソっ、あの女……!
「ああ、ああ……。だが貴公、貴公はいつまで経っても、本気の力を見せてはくれなかった」
……む。
「あるのだろう、力が。貴公にはあるのだろう?!さあ、見せてくれ!貴公の美しき力を……!!!」
ま、まあ、散々一緒に訓練した友人が、隠し事をしたままどっか行くから、なんかモヤモヤしてる……みたいな感じか。
それなら理解できる。
それに……。
総長殿にだったら、見せても良いだろう。
「良いだろう、総長殿。だがしかし、俺の力は……醜いぞ?」
変異……!
白く染まった髪が、長く伸びて広がる。
肌は月夜のように薄暗く染まり、額からは赤く燃える双角が天を衝く。
甲殻が、あたかも鎧のように広がり、蛇腹構造の赤き大鎧と化す。
鋭い爪と牙、全身から、生体電流が極限まで増幅されたことによるプラズマの燐光が迸る。
破壊の神たる鬼の武者……。
それが、俺の変異後の姿だった。
『オオオオオオオッ!!!!!!!』
吼える。
そして、胸に手を突っ込み、肋骨を一本取り出す。
その肋骨は、急速な細胞分裂により巨大化し、巨大な牙の槍のようになる。
「は、はは……!はははははははは!美しい!美しいぞ、私が愛するアークよ!!!異教徒共が讃える……『破壊神』そのものではないか!!!!」
『宝蔵院流槍術、アーク!いざ参る!』
「聖堂騎士団総長!フローレンス!いざ参る!」
サイバーパンク、設定作るの大変だ。
サイバーパンクらしい世界観を演出する為に、それっぽい用語を作らなくては。