異世界に来て合計三年。
俺達全員が二十歳になった頃……。
「就職成功を祝って!乾杯!」
「「「「かんぱーい!!!」」」」
俺達は、聖堂騎士団の宿舎で、祝杯を上げていた。
そう……、無事に、就職活動に成功したのだ。
今まで貯めてきたクラス基金で、「今まで養ってやった金を返せ!そうじゃなきゃ言うこと何でも聞け!」と脅しつけてきた火の国に借金を返して。
聖堂騎士団で人脈作りと訓練に明け暮れて、数年の従軍の代わりに安定した就職先と、身分の保障を約束され。
そうして今。
それぞれが、別の道を歩み始める、別れの日と相なった……。
「二年遅れの卒業式だ!仰げば尊し、でも歌うか?」
俺は、ワインの注がれたゴブレットを傾ける。
「はーい!一番、橘改めアヤ!歌いまーす!」
「おー!いいぞー!やれやれー!」
「……歌詞わかんないや!あはははは!」
「はははははは!」
ああ、良いなあ……。
今まで、こいつらもよく頑張ってきた。
俺は、元からかなりのバイタリティがあったから、異世界転移くらいで傷つく豆腐メンタルではないのだが……。
クラスメイト達は、心身共に傷つきながら、だがお互いに支え合って、頑張ってきた……。
凄いよ、こいつらは。
高校生だったんだぞ?それが、ここまでよく頑張ってきた……。
「何をしんみり言ってんだよ、阿字……いや、アーク?」
俺をアークという新しい名で呼んだのは、白道聖斗……、今の名をセイと名乗る、元ジョックの美男子だ。
「ははっ、慣れないな。日本人の名前は、この世界の人間にとってかなり発音しにくいし、苗字があるのも貴族だけだからって、みんな改名したけど……、変な感じだ」
「だよなぁ、俺なんて阿字だから、サンスクリット語最初の文字「ア」からアークだぞ?カッコつけ過ぎだよなあ」
「そうか?カッコいいだろ?」
「厨二だよ厨二。蓮華が……カマラが悪いよカマラが」
「カマラ……、お前と同じサンスクリット語の、蓮華って意味の言葉か。愛されてるなあ、お前」
「まあそりゃあなあ。あの女、俺のこと大好きだし。口が悪いのも俺なら怒らないからって甘えてんだよ、可愛いもんだ」
「ははっ、通じ合ってんなあ……。で、さあ。その……、ありがとうな」
「あ?何を……?」
酔っているのか、照れているのか。
頬を染めたセイが、こちらを見ないで呟くように独白した。
「俺らさ、お前みたいな超人と違って、一般人な訳よ。お前と違って、人殺しとか未だに苦手だし、野生の獣捕まえて食ったりすんのも苦手だし……、ぶっちゃけ何もできねーんだ」
「そんなことないだろ、お前らは頑張ってるよ」
「……お前さ、その気になれば、一人で出て行っても何とかやっていけただろ?俺達を見捨てても、さ」
あー……。
「まあ、そりゃあな」
それは、そう。
見捨てなかった理由は、八つ当たりで攻撃されたら怖いってことと、何となく寝覚めが悪いからってことだけだ。
俺の能力や加護はまあ強いが、だからといって世界の全てを敵に回して勝てるほどではない。
世界の全てに勝てるなら、世界で一番傲慢になって良いだろうが……、俺はそうではないのだ。
であれば、周りのことを考えなきゃならない。
敵に回さなくていい奴を敵に回さないような立ち回りを。
味方を増やすように、敵を減らすように、そうやって社会に溶け込まなければならない……。
「本当にさ、感謝してるんだよ。俺達全員、お前が支えてくれたおかげでここまで来れたんだ」
「俺一人の力じゃねえよ。知識はカマラが、力仕事は不良共がやってくれたし、お前はクラスのまとめ役をやってくれただろ?他の奴らも自分の加護を使いこなして、それで役立ってた」
「はは……、よく言うよ。本当の意味で役に立ってたのはカマラだけだろ?俺達は指示通り動いただけだ」
「……どうした?調子でも悪いのか?さっきから、後ろ向きなことばかりだな」
「いや……、わりぃ。でもさ、俺達はさ、本当にお前に感謝してるんだ。お前のお陰で、今までやってこれたんだよ」
「……そうか」
「マジで……、クラスのまとめ役とか、キツかった。俺の器じゃねえんだよな」
「いやぁ、頑張ってたろ。総長殿から聞いたぞ?お前が夜な夜な総長殿に、『人を纏めるってどうすればいいんですか?』とか聞きにきたって……」
「うえ?!あの人、それ言いふらしちゃったの?!!恥ずいんだけど?!!!」
「安心しろ、口止めはしておいた。総長殿も『今時見ない良い若者だ』って褒めてくれてたぞ?」
「そ、そうか……、そっかあ……!」
「で、結局……、お前はカマラと『自由騎士』として、諸国漫遊の旅に出るんだよな?」
セイがそう言った。
「ああ、そうだな。お前のように、本格的に聖堂騎士団に入って宮仕えみたいなのは、俺にはできない」
「転移術師の落合……リープは、騎士団の下請け商会を開いて、何年か働けば教会公認の運び屋を始める」
「ああ、そうだ。ついでに言えば、インテリ組は騎士団の内勤やって勉強しつつ法律家を目指して……」
「オタク達は、しばらく騎士団の持つ村で働いて、手に職をつけて職人を目指すんだったな」
「で、不良共は傭兵団を結成、と……」
ああ、そうだな。
みんなバラバラになるんだなあ。
「けど……、陳腐な言葉だけどさ。離れ離れになっても、俺達の心は一つだぜ!」
「ああ、そうだな」
そんな話をセイとしていると……。
「アーク!キサマ!」
ほろ酔いの槍崎……ドーリが話しかけてきた。
「立て!」
「どうした、ドーリ?」
「……キサマ、明日にはカマラちゃんとラブラブで旅に出るそうだな?」
ラブラブから分からんが……。
「まあ、そうなるな」
「そうか……」
そう言うと、ドーリは。
素早く拳を顔面に叩きつけてきた!
「っぶねぇ」
俺は受け流す、ついでに拳を掴もうとするが、ドーリは素早く拳を引いていた。
同時に、タックルが飛んでくる!
「っの、お前よぉ!」
俺はそれを飛び越えて、向き直る。
「ぐわははは!!!まだまだ行くぞ!!!」
下段の回し蹴り!
これを食らい続ければ、膝にくるぞ。
ローキックは毒のようにじわじわと効くのだ。
「何なんだ一体!」
俺は、前蹴りを放つ。
が、ブロックされた。
しぶとくなったなこいつも……。
「けど、まだまだ甘ェーよ」
二発目の前蹴りを……、変化させて回し蹴りに。
「っ?!がっ!!」
回し蹴りを当ててから、足の返しだけで打ち下ろしの下段回し蹴り!
「ぎいっ?!」
下がってきた顔面に膝蹴りぃ!
「ぐわあああ!!!」
っと、こんなもんか。
鼻血を流しながら仰向けにぶっ倒れたドーリ。
「く……、はは……、わあっははははは!!!!」
……いきなり笑い始めたぞ?
何だこいつ……。
「相変わらず、ムカつくくらいに強いな、キサマ!もう笑い声しか出んぞ!……だがな!世界一の傭兵団として、世界で一番モテモテでカッコ良くなるのはオレ様だ!キサマには負けんからな!」
……なるほどなあ。
こいつなりの激励ってことか。
「期待しないで待ってるよ」
「いつか吠え面をかかせてやるから!だから!またケンカしに来いよ、アーク!!!」
サイバーパンク学園、楽しいなこれ……。
なんか面白い部活とか委員会とかないですか?
とりあえずサイバーパンク学園の世界観では、「生徒会総会」という各学校の生徒会に、封建制のように自治権を与えている大きな「学園都市そのものの」生徒会があるとして、生徒の純粋な能力としては生徒総会長が一番強いです。
で、生徒総会の特殊部隊に「生徒総会執行部」があり、大きなテロとかを学園都市でやると、全員学ランみたいな詰襟黒制服着たサイボーグ女の子が「生徒総会執行部だ!死ね!」と襲いかかってきます。
そして、「風紀委員会」は、警察官のようなポジションで、逮捕権がある。警部以上だと場合によっては殺害権もある。
「ロボ研」はマイコンどころか戦闘用のロボットを作る(違法)し、射撃部は血の気が多い。兵器開発部は碌なことをしないし、機甲部もヤバい。
んー……、部活動も委員会もまともにやってこなかったから、良い案が思い浮かばないわよ……。