さて、改革だ。
まず、建物の建て直しだ。
族長の家、いや、王の家から作り直す。
「お、おいおい!なんだあの鉄の魔獣は?!い、家をガンガン崩してるぞ?!本当に大丈夫なのか?!」
フロワを無視して、家の中の荷物を運び出した後、家を崩す。そして撤去。
「あーあ、なくなっちまった……」
「ふむ、それでは、この辺りの家も全部撤去するぞ」
「「「「ええ?!!」」」」
俺は空に拳銃を放つ。
「文句があるやつはいるか?聞いてやるぞ」
「「「「………………」」」」
「ふむ、いないらしいので全部撤去だ」
住民共は不安に駆られたのか、泣きそうな顔でこちらを見ている。
……ところで、確認しておきたいのだが。
この、『武器庫』のカバーする範囲の話だ。
武器庫は、どうやら、単純な兵器弾丸燃料だけでなく、俺が戦略的物資と思ったものを出せるようだ。
その上、まだ正式採用されていないもの……、レールガンやレーザー砲なども出せる。
酒はロマネコンティからボジョレーヌーボーまで、大麻、覚せい剤、キューバの高級葉巻。
食料も何でも、兵器のマニュアルや本すら。
トランプやチェスまで出せる。
その気になれば、人工衛星、重機、前線基地まで。
何が言いたいのか、と言うと。
『城』と言うものも、戦略的価値があると思わないか?
「「「「………………は?」」」」
「ウィンザー城がモデルだ。さて、次は城下街を作るぞ」
「「「「お、お、お、おおおおおおお!!!!」」」」
「城が、一瞬で!!」
「王様は神様だったんだ!!」
「凄え、凄過ぎる!!!」
予想通り、城を出せた。
エネルギーを消費したような気配はない。『武器庫』という異能は魔法やスキルとは別なのか。
さて、俺には都市計画なんてものはできない。
しかし、戦略的観点から、どの辺りに家を建てるかなどを考え。
「こうだ」
ずらりと、数万軒、家を建てる。
「好きな家に入れ」
「「「「はい!!」」」」
「俺はここにしよう」
「この家は炉がある、ということは鍛治ができるな」
「ここ、宿屋に使えそうだな。やってみるか?」
「うちは子供が沢山いるから、この広い家が良いねえ」
次は、離れに家畜小屋を建てる。
ここでは、鶏、豚、牛、羊を育てようと思う。
ぞろぞろとついてきた連中が、興味深そうに質問してくる。
「あの、こりゃなんですかね」
「家畜を育てる」
「はあ?」
「……お前達は、狩猟をするそうだな。そんなことをせずとも、最初から手元に動物を置いておけば、いつでも食えるとは思わなかったのか?」
「あ、あー、一応は考えたんですがね、食わせておく餌もタダじゃないんですよ」
「そちらについては、ジャガイモやトウモロコシ、豆類を育てさせる」
「ジャガ、イモ?」
「ああ。畑を耕すんだよ、お前らが」
ジャガイモは、痩せた土地でも丈夫に育つ。腹持ちもよく、栄養価も高い。
ここなら、しっかり育つだろう。
他にもトマト、カボチャ、トウモロコシ、ビーツなどを育てる。
そう、ウクライナだ。
ウィンザー城擬きを建てておいてウクライナ風と言うのはおかしな話だが、俺はイギリスのような不味い料理を作る国は信用しないのだ。
ちょうど、先程人工衛星を飛ばして確認したが、この辺りはウクライナ辺りだしな。
少し肌寒い地域だな。
狼系獣人は、寒さに強い種族らしく、特にフェンリルは、今年の冬の倍以上寒い場所でも全く平気だそうだ。
「そうだ、飯がまだだった……」
「ああっ、王様をもてなすために新しい獲物を狩らなきゃならねえのに」
「おい、狩人!早く行ってこい、間に合わないぞ!」
昼過ぎにバタバタし始めたフェンリル族共。
「その必要はない!!!」
面倒だが、俺は大きな声で言う。
そして、豚の切り身を召喚しては、片っ端から蘇生魔法をかけていく。
「「「「ブヒー」」」」
「お、おお?猪……、いや違う。何だありゃ?」
「に、逃げるぞ!捕まえろ!」
「でも、美味そうじゃないか?」
何も言わずとも、豚を捕まえるフェンリル族。
俺は炊き出しセットを複数出して、フェンリル族に指示した。
「家事ができるものは前に!料理を教える!」
「「「「はい!!」」」」
今回はパンプーシュカ(パン)とボルシチだ。
まず、豚の解体から教える。
解体用のナイフを支給する。
「おお……!」
「良いナイフだ!」
「本当にもらって良いんですか?!」
「くれてやる。さあ、まずは血抜きだ!そして肉を冷やせ!」」
どうやら、この蛮族共は、血抜きすら知らなかったらしい。
血抜きをしない獣の肉なんて、不味くてしょうがないだろうに。
まあ、正確には血が不味いのではなく、血が腐敗しやすいことに肉が不味くなる原因があるのだが。冷やすことが大事なんだが。
だが、この世界ではどこもやっていないらしい。
精々、ハラワタを破かないように気をつけるくらいのもんだ。
仕方がないので一から教える。
「よし、解体したな?次は料理だ!」
主婦や、怪我で引退した元戦士など、名乗りを上げた家事ができる者達に料理を教える。
「まず、豚肉を焼いて、水を……」
「おおお、このポンプってのは凄えな!ここを押すだけで水が出るとは!」
「これで水汲みに行く必要もなくなるな!」
「井戸なんかよりずっと便利だ!」
街中に設置したポンプの評判も上々だ。
「内臓や豚足、使わなかった部位は、支給した冷蔵庫に入れて冷蔵しておけ!」
氷を入れるタイプの冷蔵庫を支給しておいた。
「こりゃ良いな、俺達、フェンリル族なら、誰でも氷の魔法が使えるしな」
余った部分は、焼いたり茹でたりして食わせる予定だ。
「さあ、出来たぞ!ボルシチとパンだ!オラ、並べ!」
料理を受け取ったフェンリル族は、そこらに座り込み、祈りを捧げると、食べ始める。
どうやら、机や椅子と言う文化もないらしい。蛮族共め。
「!!!、美味え!」
「こりゃあ良い!」
「こんな美味いもんがこの世にあったのか!」
フェンリル族の食事と言えば、所詮、血抜きしていない獣の肉を黒くなるまで焼いたものか、適当に野菜をくたくたに煮たもの。それとガチガチの黒パンくらいだ。
「このパンは柔らかくて美味えなあ!」
「スープも酸っぱくて、肉の味が染みてて美味えぞ!」
「この野菜、甘くて美味しいわ!」
フェンリル族は、何度もお代わりをして、少し多めに作った筈の料理を平らげた。
「いいか?!これから毎日、昼には、家事ができるものに料理を教える!!毎日この時間に、この大広場に集まれ!!」
「「「「はい!!」」」」
「戦士達はグラースの元で訓練しろ!昼は広場に集まって、食事をして良い!!」
「「「「はい!!」」」」
「それ以外の、手が空いている奴らには、農作業と畜産を教える!しっかりと覚えろ!!」
「「「「はい!!」」」」
ふむ、手がかかるな、蛮族共め。
色々と教え始めて一月が過ぎた頃、各地からありったけの獣人が集まってきた。狼系獣人が基本だが、話に釣られたのか、他の種類の獣人や、エルフやドワーフなどの亜人、ゴブリンなどの鬼人などもちらほら見られる。
「す、凄え!城ができてる!」
「くんくん、肉の匂いだ!美味そうだなあ、分けてもらえんのかな?」
「丈夫そうな家だ、あそこに住めるのか?」
俺はそれを見て、街を拡張した。
「「「「おおおおおおお?!!!」」」」
「好きな家に入れ!それから、戦士になりたい者はあっち、家事をやる者はこっち、その他はあそこへ行け!!王命だ!!」
「「「「は、はい!!!」」」」
荷物を置くと、散って行く新住民。
ふむ……、千万ほどか?
恐らくは様子見なのだろう、若い奴が多い気がする。恐らくは次男坊以降の、家を継がない者達なのだろう。
しかし、他の部族全てを吸収合併するのが目標だ。この程度では駄目だ。
フェンリル族の命令であれば、他の獣人種も断りづらいだろう。
さあて、次は貨幣を作るか。
こんな急ピッチでやると問題が起きそうなものだが、戦士に警邏をさせ、治安を維持している。
大体にして、この獣人というのは、同族意識が強いようだ。飢えさせない限りは馬鹿なことをやるやつもそうそう湧かないみたいだな。
さて、硬貨だが。
俺が軽くデザインした、鋭角な狼の頭を象った印をつけた、金銀銅の硬貨を発行する。
まあ、アレだな。デザインは、よく、戦闘機や車に貼り付けたりしていたからな。慣れている。
因みに、フェンリル族は、自分達が硬貨のモデルになったことを非常に喜んだ。
名誉だそうだ。
さて、それで、鍛冶屋に急ピッチで作らせた硬貨を、国庫に入れ、住民にばら撒き、まずは貨幣でのやり取りに慣れさせる。
戦士には一日につき銀貨三枚、その中でもより優れた者は銀貨五枚を渡す。
農家や鍛冶屋、釣り人、大工、木こりなどにも、物品の値段を教え、大体これくらいで売れと指示した。
ふむ、獣人は、自分より強い者に従順だ。
よく従ってくれる。
人間よりずっと良いな。
改革も最終段階だ。
ここに来て一年が過ぎた頃には、各業種の職業の習熟度が満足できるものになっていた。
貨幣活動も活発になり、賭け事などもするようになっていた。
農業や畜産も盛んに行われるようになり、教えたウクライナ料理も、この国の郷土料理として親しまれるようになった。
最後にやるのは、そう。
娯楽だ。
パンとサーカス。
これは、愚民政策への警句であるが、逆に言えば、食料とガス抜きがあれば、民衆は満足するということだ。
と、言う訳で、サイコロ博打を流行らせた。
クラップス、大小、シックボーなど。
これはまあ、中々に流行った。
だが、これだけではまだ足りないな。
ふむ、どうするか。
頭を悩ませながら、城下街を見て回ると。
「王よ、お願いがあります!」
フェンリル族の若者が話しかけてきた。
「王が降臨なされた時に見せた、前長を簡単に倒した技の数々を伝授して欲しいのです!!」
ふむ。
良いことを思いついた。
「拳闘だ」
思いついたら早く行動するべきだ。
まずは兵士の詰所に行って、拳闘に自信がある者を募った。
最初は、何が何だか分からないという顔をしていたが、俺が説明をすると、我こそはと皆、挙って手を挙げた。
それからは話が早かった。
フェンリル族は、脳筋で熱くなりやすいところがあるが、頭の出来はそこまで悪くない。
何より、戦いのこととなると真剣に考え、覚えようとする。
それにより、ボクシングのルール、技を覚えた戦士達は……。
「赤コーナー!鉄拳のネージュ!!!」
「「「「おおおおおおおーーー!!!」」」」
拳闘士として大いに持て囃された。
元々、血の気が多い野蛮なフェンリル族は、拳闘に大いにハマった。
付随して金銭のやり取りをさせたが、これも大いに経済が回る。
強ければ賞賛される種族だ、この殴り合いは大きく流行った。
安全面は微妙なところだが、フェンリル族は人間の数倍は丈夫で、その上、拳闘をやるならば必ず、回復魔法の使い手を呼ぶようにと言いつけてある。
回復魔法なら、まあ、大体は、折れた骨や歯くらいなら治るしな。
「ネージュー!!」
「きゃー!カッコいいー!!」
「打てー!そこだ!!」
うむ、数千人は見に来ているかな?
かなりの人気だ。
……因みに、現チャンピオンのネージュは、俺に最初に拳闘のやり方を教わりに来たあの若いのだ。
さて、それともう一つ。
酒だ。
蒸留器を作らせて、ウォッカを作らせた。
住民達からの反応は良く、この国の特有の酒として流行らせた。
輸出も始めようと思う。
しかし、住民は、この国に満足していて、出て行く気がないので……、たまに来る行商人とやりとりする程度だ。
しかし、行商人も結構来るようになったな。
国として認められて来たということか。
税金はまだ取らないが、後々人頭税や消費税、酒税などをかけたいと思う。
まあ、一度システムさえ作っちまえばどうとでもなるだろうさ。
実際、酒造や賭博は国営にして儲けているからな。
これで税金を取るようになれば、俺なしでも回るだろう。
食料の生産も、娯楽も揃った。
ここは都市として発展するだろう。
こういうのたまに書きたくなる。