「気をつけるにゃ!ブラックスケルトンだにゃ!」
『カタカタカタ!』
腕が四本ある骸骨が、シミターを振りかざす。
「はい駄目」
『カタッ?!』
十文字槍で足を掬い上げる。
馬鹿みたいな、腕四本とかいう奇形。
故に、身体のバランスが悪く、重心が不安定。
よく考えてほしい。
重い鉄の剣を思い切り片手で振るったとしよう。
一般人ならば、剣の重さに振り回されて、上半身が大きくブレるはずだ。
片手で剣を持ってもそれなのに、四本の腕で四本の剣をバラバラに動かすだと?
しかも、重さの足りない骨の肉体で?
馬鹿が、重心が面白いくらいにブレてるんだよ。
十文字槍で少し引っ掛けてやるだけで、面白いくらいに転がる。
倒れたところを、頭を踏み砕いて終了。
どうしようもない雑魚だ。
「ダンジョンスパイダーだ!」
『シャー!』
人の胴体ほどもある蜘蛛が、馬鹿正直に降ってくる。
「はいカス」
知性ゼロかよ。
訓練された『聾の者』に対して単なる奇襲とか舐め過ぎだ。
『聾の者』は奇襲され過ぎて、前後左右どころか上下に別次元まで疑っているものだからな。
もっと、日常生活の最中とか、隙がありそうなタイミングに奇襲してくれよ。
ダンジョンにいる時点で奇襲の可能性は頭の中にあるのが普通なんだから無意味だろ。
居合攻撃で両断。
「ポイズンスネークです!」
『フシャー!』
二メートルほどの蛇。
「論外」
そもそも、蛇って形状が戦闘に向いてねえだろうが。アホか?
蛇は、小さく細い身体で閉所を通り抜けて忍び寄り、音もなく毒を注入してくるから怖いんだよ。
何でこんな、遮蔽も何もない穴蔵で真っ正面から襲いかかってくるのかね?
それも、ダンジョンのモンスターとやらならば、ムーザランのエネミーが如く、こちらをあっと驚かせるような面白攻撃をしてくれば良い物を……、単なる噛みつきだけとは。
最大の弱点である頭を直接間合いに持ってきてくれるなんて、殺してくださいと言っているようなものだろうに。
槍で突いて終わり。
「ボスだよ!オークの群れだ!」
『『『ブオオ!』』』
「相手にならん」
だからさ、力任せに棒切れ振り回すだけの豚とか、負ける要素がないんだわ。
槍で突いたらすぐ死んだ。
あと個人的な話だがデブを三体並べられるとトラウマで頭痛くなるからやめてくれ。
「雑魚だな」
俺は、十文字槍を血振りしてから担ぐ。
「いやいや…….、この階層の適正ランクはDって公表されてるけど、最後のオーク三体なんて初見殺しじゃない?」
アニスはそう言った。
周りの囮共も頷く。
「甘えるな。あの程度なら同等のスペックがなくとも倒せるだろう」
エネミーと同じステータスがあって、それで勝てなきゃカスだ。
往々にして、エネミーの方がステータスが上なのは当たり前なのだが……。
だが、あの程度のしょーもないAIしか積んでないエネミーなら、立ち回りや戦法を工夫するだけで、純魔のシーリスでも無傷で倒せる。所詮はその程度の差だ。
少なくとも俺なら、シーリスの肉体を操作したとしても、デブ(オーク)三体を倒す自信がある。しかも剣で。
「ま、まあ、儲かったしそれで良いかなっ!ほら見てよ、オークの魔石!」
拳大の赤い水晶を見せつけてくるアニス。
これが魔石というもので、魔導具の燃料や、ポーションやマジックアイテムの材料、魔術の触媒などになるそうだ。
拳大の大きさのこれは、「Cランク魔石」と呼ばれるらしく、一つにつき3000Gはするんだとか。
それが、麻袋一杯に詰まっている。
そう、デブを周回したのだ。
我々「聾の者」は、デブを見ると周回してしまう愚かな生命体。
癖になっているのだ、デブを周回するのが。
半自動で動く肉体が勝手にデブを始末し、百を超えるCランク魔石が集まった……。
「税金で半分持っていかれたとしても、十五万Gくらいにはなるよ!」
山分けすれば二万五千。
二万五千Gもあれば、一人暮らしなら一年暮らせるくらいの金になるそうだ。
「それにゃんですが……」
おや?
ランファとナンシェが返金してきた。
「我々は何もしていないからな、こんなに受け取ることはできない」
とのこと。
ふーん。
それならそれで別に良いだろう。
「えっ……、で、でも!全く貰わないのも駄目だと思いますよ?!」
と、シーリスは横から口を出してきた。
「エドは、他人に頭を下げたりとか絶対にしないタイプなので私が言いますけど、エドみたいな頭のおかしい人について来てくれる人って貴重なんですよ!だから、最低限は貰ってください!」
は?ムカつくなこいつ?
「そ、そうだよ!それにもし、君らに抜けられたら、パーティはもう集まらないだろうし……。解体も手伝ってくれたし!」
と、アニスも頭を下げた。
「ついでに言えば、貴女方が抜けてダンジョンに入れないとなれば、エドワード様が今度はどんな非道を成すか、私には予想できません。お願いします、この街の平和のためにも、報酬を受け取って、これからもパーティを組んでください」
と、クララも頭を下げた。
ムカつくなあ。
俺はちゃんとルールは守っているのにこの言い様。
法の抜け道やルールの抜け道を探す姿勢を批判しているのか?
グリッチを使わないのはそれこそ無礼だろ。
その手の抜け道は、頭の良い人に対する「ご褒美」なんだからな。
少なくとも、俺がルールを作る側だとすれば、プレイヤー達にルールの穴を突かれれば「よくやった!」と褒めるのだが。
「だ、だけど……」
「次からは三階層……。今まで私達が攻略していた階層なんだ」
は?
だから何だよ。
レジェンズアニマ民は読解力があるようでないからそういう言い方はやめろ。
我々は文章の行間を読むのは大得意だし、何なら行間に勝手な考察をも挿入するが、端的な言い方だけだと妄想力が暴走して面白いことを深読みしてしまうんだよ。
「つまり?」
俺は聞き返す。
「つまり……、これ以上貴方について行けば、我々は『寄生』になってしまうんだ!」
ステーキを食って「力」を手に入れた。