「いや、無理です」
まーた囮共が文句を言い始めたぞ?
「はあ?何言ってるんだ?」
「このままダンジョンになんて、いけませんから!」
涙目になってそう叫ぶのは、シーリス。
囮一号、痩せ犬のようなガキだ。
「だから、何でだ?何か問題でもあるのか?」
「そ、それは……」
そう言って、股を押さえるシーリス。
んん……?
ああ、失禁か。
「そんなもの、放っておけば乾くだろう?」
「にゃ、な、に!デ、デリカシー!!!」
そんな単語が異世界にあるとは驚き……、いや、また『建国王ヨシヤ』か。
めんどくせぇぞこれ、余計なことをしやがって。
扱いやすい馬鹿のままの方が、賢い奴が得するのにな。
かつて、中近世の権力者は、教育を受ける者を限定していた。
何故なら、馬鹿な人民は操りやすいからだ。
この世界も本来ならば、教育を受けていない馬鹿に溢れており、権力者や賢いものが好きなように振る舞えたのだろうが……。
某建国王が余計な真似をしたせいで、騙せなくなっている。
だが、まず。
「尿程度の汚濁がなんだ、ダンジョンに行くんだから、もっと汚れるに決まっているだろう?その程度誤差だ」
そう、ダンジョン。
ダンジョンに潜るのだ。
ダンジョンといえばやはり、地獄の釜で絶望を煮詰めたようなこの世の終わり空間だな。
死と、汚濁と、冒涜に溢れた魔境。
ものにもよるが、まあ、ダンジョンを一階層から順に攻略していけば、大抵は全身汚濁塗れになるものだ。
膝まで浸かる、糞と血と呪いが沸き立つ沼。
冒涜の言葉が壁いっぱいに刻まれた洞窟。
重痾に満ち満ちた穢れの山道、腐肉と死血が散らばる城壁、そして、ただただ広がる深淵……。
「……そう言うところを通るのだから、自然と全身汚濁塗れになり、漏らした尿など気にならなくなるはずだ。よかったな」
「だーかーらー!!!それはエドの世界のダンジョンでしょう?!!こっちの世界はそんなんじゃないんですよ!!!」
ん……、そうなのか。
だがまあ。
「なら、それならそれでいいだろう。尿なら、歩いているうちに乾く」
「にゃあああ!!!」
はあ……?
よく分からん。
「我が剣よ。私は、明日でも構わんぞ?」
「はっ、仰せのままに!良かったなお前ら、ララシャ様が今日はもういいと仰せだ」
ララシャ様がなあ!そう仰せだからなあ!
「ありがとうございます!!!」
そう言って、ララシャ様に土下座するシーリス。
今日はこんなところで終わった。
次の日。
ギルドにまた集まった。
が、ギルドは、なんか知らんが「呪いによる穢れの除染作業」?とか言って閉鎖していた。
仕方がないので、ギルド前に集まった。
「えい」
「にゅ、にゃーーーーーっ?!!!!」
俺は、シーリスがまた漏らしていないか、パンツに手を突っ込んで確認した。
漏らしていたらまた、明日に先延ばしになるかもしれんからな。
「なーーーにを!!!やって!!!いるんです!!!かーーーーーっ!!!!」
「漏らしていないかの確認だ」
「漏らしてないですがぁ?!!!!」
「昨日は漏らしていただろ?また、今日も漏らしてないかと思ってな」
ダンジョン攻略がまた中止にされたら堪らんからな。
「だからと言って、女の子のパンツの中に指突っ込みますか普通?!!!ってか、早く手を抜いてください!!!」
「おう、漏らしてないみたいだしな。……ん?若干ぬめりが」
「ああああああああ!!!あああああ!!!あーーーーー!!!!」
全く……、朝からうるさい女だな。
「もう良い、馬鹿は放っておいて、とっととダンジョンを攻めるぞ」
「「「「えぇ……?」」」」
困惑の表情を見せる臨公パーティ。
俺、また何かやっちゃいました?
ダンジョン、とやらに来た。
松明が規則的に並ぶ、石造りの迷宮になっており、それらは保守点検なしでも動き続けている。
つまり、松明は燃えているが、燃え尽きることはなく。
石の迷宮も、壊してもゆっくりと元に戻る。
地下にこんな空間はあるはずもない……、やはり、この世界のダンジョンも異次元空間なんだろう。
「うう……、もうお嫁に行けません……」
メソメソと泣き言を言い続けるシーリスを無視しつつ、俺は先頭に立って歩いた。
囮四号ことランファと、五号ことナンシェが何か言いたそうな顔をしていたが、それもスルーだ。
「あ、あの、先頭歩くのはちょっと」
囮二号、アニスが横から口出ししてくる。
「何故だ?」
「斥候役の私が前に出て警戒をしないと、立つ瀬がないって言うか……」
「不要だ」
「うう、はい……」
お、罠だ。
飛び越えて、と。
で、後ろからついてくるシーリスが、床のスイッチを見事に踏む。
そしてギギギと、壁が軋み、開く。
「きゃあっ?!!!」
床のスイッチを踏むと、壁から矢が飛んでくるトラップだ。
オーソドックスなものだな。
ムーザランにもそこら中にあるものだ。
身長がチビなので、デカい黒帽子のみが貫かれ、囮本体は無事のようだ。
「おわああああ?!!!な、何で言ってくれないんですかあ?!!!」
「いや、見れば分かるだろ?」
「分からないから斥候役が要るんですよォ!!!」
そうですか。
そんな感じで、まったりとダンジョンを進んでいくと……。
「モンスターだよ!気をつけて!」
『『『『グオオオオッ!!!』』』』
エネミーが出てきたようだ……。
あああ!書き溜めが!あああ!
旅人提督は四話くらい書けました。