「ところで、『聾の者』であるお前には、アレが必要だろう?」
ああ、アレか。
リスポーン地点。
このゲームでは、リスポーン地点をある程度自由に設置できるのだ。
ここにも設置できるみたいだし、置いておくか。
俺は、捻れた管楽器と剣が融合したかのようなオブジェを、地面に突き刺した。
《AーRUーRAーRAー!》
オブジェは震えて、短い歌のような音を出す。
《MELODY FIXED》
はい、これでセーブポイント兼リスポーン地点が設置されました、と。
この奇妙なオブジェは、世界秩序を司る原初の旋律の加護を失いし哀れなる『聾の者』の、その寄る辺たる『音溜まり』だ。
秩序の根源たる旋律が聞こえぬ者の、最後の寄る辺が音溜まりとは。
酷い皮肉もあったものだ。
まあそんなことは正直どうでもいいんだよ。
それより、一刻も早くララシャ様にホーンを捧げねばならない。
俺はこの世界をDLCか何かだと思うこととする。
適当に殺しまくってホーンを集めて、ララシャ様に捧げて、ララシャ様の神格を上げるのだ。
さて、取り敢えず、リスポーン地点が正常に動作するか確認するか。
はい、切腹×10っと。
「ば、馬鹿者ぉっ!何をしている?!!」
「何って……、リスポーン地点のテストですが……?」
ララシャ様に叱られてしまった。
俺はただ、一度死んで蘇っただけなのだが……?
「……お前が死ぬと、私は悲しい。できる限り死ぬな。よいな?」
「はっ!仰せのままに!」
おおっ!
ララシャ様!
なんとお優しい!
何度も死ねる俺に対して死ぬなとは……。
愛を感じるな……!
にしても、最近はめっきり死んでいなかったから誤解されていらっしゃるな。
俺は最早、死んだ程度でメンタルにダメージがくるほどやわじゃない。
もう全ての感覚がおかしくなっているので、痛みは感じるが苦痛はバグって感じなくなったぞ!
爪剥がしとか目抉りとか性器刻みとかされても特にもう何も感じないな!
ぶっ壊れちゃった♡
さて、それより早速、敵モブを探そうじゃないか。
俺はいつもの、『平民の服+30』『平民のズボン+30』『平民の靴+30』に、『ショートソード+30』という出立ちで、歩き出した……。
え……?
いや、周回し過ぎて敵のレベルが洒落にならんほど上がってしまっていてだな。
例え、ゴリゴリの重装鎧で全身を固めても、その辺の雑魚敵に噛み付かれるだけでHPの三割が消し飛ぶ訳だから、最終的には全裸で武器だけ持つのが正解なんだよな。
だが全裸だとララシャ様に怒られるので、最低限の服は着ている。
でもまあ、極まってくると最適解は、褌にグレートソード二刀流だ。最悪の絵面だな!
魔法使いの場合は、褌に結晶仮面に杖。
神官の場合は、褌に太陽仮面に聖印。
全員変態じゃないか……、たまげたなあ。
人間性がすり減ったらこうなるんだな、怖い怖い。
俺はちゃんと、最低限パンツは穿いてるからまともだよなあ。仮面は被るけど。
おっと、それより敵だな。
俺は適当に、その辺にいる野生動物を剣で斬りつけた。
『ピィッ!』
ホーンは……、たったの10だと?!
何だこれは、一周目か?
何周したかは覚えていないが、俺の世界では、その辺の野生動物すら100ホーンは落とすのだが……。
まあ、ホーンが落ちると知れただけマシか……。
これでホーンが出なければマジギレしてたぞ。
「どうした?」
「ホーンがあまり得られません」
「そうなのか……。だが、焦る必要はないぞ」
ウサギ?的な生き物のホーンが10となると、この生き物を根絶やしにしても10,000ホーン行くか行かないか……。
効率が悪過ぎるな。
やはり、ホーンを集めるならば、強い奴を殺さなきゃならない。
ドラゴンでも殺せれば理想的なのだが……。
激烈な有能イケメンスパダリが、クソ重いバックボーン持ちの美少女ヒロインをあっさり助けてヤンデレデレされる、安っぽい物語を書きたい。
本来なら、シンフォギアやらまどマギやらなのはやら、そういう感じの「悲しみを乗り越えて強くなる」系の魔法少女アニメっぽい世界に、ありとあらゆる絶望を物理でぶち壊すスパダリを派遣して、全てをぶち壊しにしてもらおうって寸法よ。
もちろん、本来なら自分の力で乗り越えるべき困難を男に解決してもらったんだから、ヒロインちゃんの心は弱いままで男にガッツリ依存してダメになっちゃうけど、仕方ないよねっ!
舞台は現代ファンタジーで。
主人公はいつものマッチョハンサム天才、ちょいと善寄りにしておきますか。
プレインズウォーカーで、異世界からやってきたおっさんだ!
なんかこう、カードゲームっぽいことやって戦います。
そして今作の目玉として、ヒロインにはそれぞれ「トラウマ」があります。
世の中の戦闘ヒロインものには大抵、キャラクターに悲惨な過去があるじゃん?◯◯の哀しき過去……!みたいな。
一人!天才少女!
幼い頃から天才で、周りの人間が馬鹿過ぎて周囲に馴染めず孤立!「孤独」を恐れる!
賢くて強くてイケメンの主人公に守られてガチ惚れストーカーバカ女になるぞ!
二人!戦場帰り少女!
少年兵上がりで、辛い戦場で長く過ごしたせいで感情が薄くなっている!「死」が何よりも怖い!
夜寝てると戦場の悪夢を見て悲鳴を上げながら飛び起きてナイフを振り回す、典型的なPTSDなのだが、主人公によしよしされて鎮火。キモいくらい依存する。
三人!大事故から生き残った少女!
大規模なオカルト災害で親兄弟どころか街ごと滅んだ街出身!サバイバーズギルドバリバリの自罰的な子だ!「とにかく自分が悪いと思い込んでいる」ぞ!
そこを、イケメン主人公に無条件で全肯定されて、あっさりバカ女になる訳だ。
四人!虐待児少女!
親から虐待を受けている可哀想な子だ!とにかく「父性をもとめている」ぞ!
主人公がちょっと甘やかすと全力依存してきて、主人公のことを「本当のパパ」とか呼んでくるあたおか。
こんな感じで、ヤベーヒロインを並べて遊びたいと思います!
本来ならヒロインちゃん達は、自らのトラウマを乗り越えて大英雄になる運命にあったんですけど、トラウマの解決を「スパダリ主人公に依存する」という形で解決してしまい、ただのよわよわ女に成り下がってしまうんですね。
かわいいね!
いやほら、見たいでしょ?
本来なら魔法少女アニメの主人公になっていたような女の子が、チートオリ主君の賑やかしカキタレハーレムメンバーになってメス堕ち媚び入れするの。
俺は見たい。