ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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眠い。


51話 心療

『環介さん?!大丈夫ですか?!!』

 

理絵のスキルにより、通話が来る。

 

俺はそれに、小声で応答した。

 

「心配かけてすまん。今、霧島大学に捕まっている。相手の戦力がどれほどか分からないから、軽挙はやめてくれ」

 

『……なるほど、分かりました。声のトーンからして、見張りとかいる感じですよね?これから私は、六時間おきくらいの間隔で連絡を入れます。もし何かあれば、そちらからの連絡をお願いしますね』

 

「ああ、ありがとう」

 

そうやって俺が、口を押さえて通話していると……。

 

「おじさんさあ、何喋ってんの?」

 

新丸平良が話しかけてきた。

 

そう……、この子もだ。

 

恐らくは、あの宮野とかいう男に洗脳されているのだろう。

 

元々はいい子なのかもしれないが、こうして洗脳されて、本人の意思を捻じ曲げられている現状では、どんな人間なのかは分からない。

 

ただ……。

 

「『新丸芳佳』……。この名前に聞き覚えは?」

 

「え?ママ?ママがどうかした?」

 

『新丸姉さん』の娘なら、助けてやりたい。

 

 

 

新丸芳佳。

 

幼少期、親を亡くす前に俺の面倒をよく見てくれていた近所のお姉さん。

 

生きていれば、今はもう四十代くらいだろう。

 

恩人の娘なら、助けてやりたいと思うのが人情というものだ。

 

さて……、まずはこの子の正気を戻すか。

 

軽く会話してみたところ、あの宮野という男と話している時以外は強い不安を感じてしまうらしい。

 

また、この子もしばらくはこの座敷牢に入っていたと聞く。

 

情報の遮断、強度の不安障害、そんな中であの宮野という男に会うことだけが報酬となる訳か。

 

オペラント条件付けだな。

 

持病の有無を聞き出してから、強めの抗精神病薬を投与したいところだ。

 

しかし、重度のうつ病の相手に「貴方は病気です、薬を飲みなさい!」と言っても、なかなか分かってもらえるものじゃない。

 

「平良ちゃんのお話が聞きたいな、おじさんとお話してくれるかい?」

 

「うん!そのね、そのね!……」

 

まずは、カウンセリングからだ。

 

依存相手が宮野一人になっているから狂うのだ。

 

いや、宮野もそのつもりなんだろう。

 

俺をこの薄暗い地下室にずっと閉じ込めているのは、孤独感とストレスを与えて精神的に追い詰めようとしている為だ。

 

心の弱った俺に対して、『洗脳』のスキルを何度も使い、心を折るつもりなのだ。

 

もし、『洗脳』のスキルが、目を合わせるだけで他人になんでも言うことを聞かせられるような強大な力ならば、こんな風に俺をここに閉じ込める意味はないからな。

 

とりあえず、格子の向こう側にいる新丸平良にじっくりとカウンセリングをし……。

 

「そうだ、お菓子は好きかい?チョコレートがあるんだ、食べてくれ」

 

「わーい!」

 

抗精神病薬を混ぜ込んだチョコレートを食べさせる。

 

新丸平良はどうやら看守の役割らしく、俺の牢屋の前にずっといるから、カウンセリングも投薬も容易い。

 

大方、自分のスキルを正確に理解していないんだろうな、あの宮野とかいう男は。

 

一度洗脳すれば、永遠に自分に従う奴隷のままだと思い込んでいる。

 

それは命取りだぞ。

 

「今日の気分は、十点中何点くらい?」

 

「そっか……、辛いね……。今、そんな辛い日々をどうやって乗り切ってるの?……そうなんだ!君は強いね」

 

「もし、明日、君の問題が全て解決してたらさ、何がしたい?……そっか!それは良いね!その時は俺も、女子校のみんなも君に味方するよ!」

 

素人の拙い洗脳よりも、医者の心理学を使ったカウンセリングの方が上だと分からせてやる。

 

さあ、宮野から新丸平良を寝取って脱出だ!

 

 

 

『定時連絡です。今は、環介さんが捕まってから十二時間が過ぎてます。こっちは、警戒の為に警備部を倍の数巡回させてますけど、今のところ何もありません』

 

「ありがとう、俺は六時間くらい寝たところだ。これから、洗脳されている新丸平良という女の子と共に、脱獄をする予定で、今はその準備段階だ」

 

『新丸……?ああ、その子は確か、うちの生徒だった子だと思います。家庭の事情で一年生の頃に退学したらしいそうですけど……』

 

「ああ、本人から確認した。金銭的な理由での退学らしい。この子は洗脳されているようだが、抗精神病薬の投与やカウンセリングなどで洗脳を解けばこちらの味方になってくれるはずだ」

 

『う〜ん……。ですけど、その宮野って奴も馬鹿じゃないはずです。自分の手駒が洗脳され返したら、分かるんじゃないですか?』

 

「それはない。洗脳できたかどうかが明確に分かり、洗脳が二度と解けず、多数を洗脳できるなら、今頃洗脳された兵士うん百人を率いて女子校に攻め入っているはずだ」

 

もしも、その、暫定だが『洗脳』のスキルにそこまでの万能性があれば、もっと大々的に動くはずだし……。

 

俺が半年も準備期間があり、自由自在に他者を洗脳できる能力があったとするならば、光や翠のような戦闘タイプの能力者で親衛隊でも作っているだろう。

 

そうしないのは、この座敷牢に閉じ込めても逃げられないような奴しか洗脳してこなかったということになる。

 

話を聞けば、この目の前にいる新丸平良も、『肉体変化』というスキルを持ち、ある程度に戦闘できる能力もあるが、この分厚い木でできた座敷牢を壊せるほどのパワーはないそうだ。

 

つまり、座敷牢に閉じ込めて拘束し、じっくりと時間をかけないと洗脳はできないということになる。

 

物理的に座敷牢をぶち破って脱出できる戦闘タイプは洗脳できない、要するに洗脳には時間が必要。見事な論法だ、一点の曇りもない。

 

不安になりそうな心を抑え込み、冷静に推理すれば分かる。

 

『確かにそうですね……。素人の意見で恐縮ですけど、聞いた限り、その宮野とかいう奴は自分が賢いと思っています。そういうタイプの奴は、実際に頭が悪いことよりも、他人に頭が悪いと思われることの方を恥だと思うはずです。だから、その新丸さんも近くに置かないんでしょう』

 

「栄光浴だな。いや、CORFingか。ヤンキーの馬鹿女とはつるみたくない訳だ」

 

『えっと……、社会心理学でしたか?』

 

「そうだ、よく勉強しているな」

 

『ありがとうございます。……じゃあ、新丸さんって、あんまり好かれてない感じなんですか?』

 

「少なくとも、自分の大切な側近を、看守としてこの寒い地下牢の前に十二時間も張り付ける支配者はいないはずだ」

 

『……そいつ、本当にゲスですね。女の子を十二時間も?』

 

「ああ。新丸平良は、俺の出してやった毛布に包まり、牢屋の前で寝ているよ」

 

『はぁ〜……。そんな悪党、私、絶対に許せません。時期が来たら絶対に叩き潰します』

 

「まあまあ……、落ち着いてくれ。いつか、そんな時も来るはずだ。まだその時じゃない。良いか、とにかく軽挙な挙兵だけはやめてくれよ?本当に死ぬからな」

 

俺が。

 

『でも……、やっぱり心配です。確かに、その新丸さんも助けたいですけれど、私達にとって一番大切なのは貴方なんですよ。それだけは、どうか忘れないでください』

 

「……ありがとう。君と話すと、俺の不安も和らぐよ」

 

そうそう。

 

そして、こうして、俺自身のカウンセリングも通話先の理絵にしてもらう。

 

これもまた重要だ。

 




書き溜め、ここまで。

次は田舎剣士かなあ……?



ところで、旅人提督の話なんですけど。

何十話とか続くような大長編を書いてみたいんですよね。

具体的には、いつものように崩壊しそうな世界をみんなで救う感じの。

旅人が首輪付きと軍曹殿を両肩にマウントしながら、蠱毒皿をばら撒きつつ敵を倒し、世界中を巡って支援していく話。

オトモの艦娘、誰にしようかな……。


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