州臣涼子は、朝、六時に起床する。
目覚まし時計も、スマホのアラームもないこの世界で、六時ぴったりに起床できる理由は一つ。
———『キーンコーンカーンコーン……』
学校のチャイムだ。
ふあ、と小さなあくびと共に上体を起こした彼女は、隣で共に寝ている愛娘に声をかけた。
「おはよう、摩子ちゃん」
「んぅー……、おはよ、ママ……」
寝ぼけ眼を擦る摩子は、今年で十八歳になるのにも関わらず、どこか幼なげだ。
これを恐らく、自分がここにいるからだということを、涼子は理解していた。
涼子がこの「杉之浦女子高校」に来て数日が経つが、周りの女子生徒達から伝え聞く我が子の勇姿と、今目の前で自分に甘えているこの子供の様子とでは違い過ぎる。
実際に、摩子は、涼子がいないところでは口調こそギャル系の気安いものだが、態度はかなり大人っぽい。涼子もそれは知っている。
だから、娘が子供っぽく振る舞うのは、自分が目の前にいるからだろうと、涼子は予想していた。
それが悪いこととは思わないが、親離れが遠のくなと少し困ってしまう。
しかし涼子自身も、我が子が可愛くて可愛くてしょうがないと思っているので、しばらくは離れられそうにない。
例え、「望まぬ行為」の果てに生まれた子だったとしても、愛しい愛しい我が子なのだから……。
そうして起床した涼子は、井戸の水で顔を洗った。
自衛隊駐屯地にいた頃は、水を出すスキルの使い手がいた為に飲水はどうにかなっていたものの、身を清めるほどの水は望めなかった故、顔を洗うだけのために水を無駄遣いできるこのコミュニティの豊かさには驚いている。
そして歯を磨き、髪を整え、シャツを着る。
エプロンとマスクを抱えて、調理場へ……。
調理場は、女子校の新校舎一階にある。
女子寮と化している旧校舎から外に出て、屋根付きの道を歩いて隣の新校舎へ。
途中、朝から訓練のために、自衛隊の男の号令の元に取っ組み合いをしている警備部や、夜通しの警邏任務の為に徹夜をして寝ぼけ眼を擦りながら旧校舎に戻る警備部が目に入るが、これがここの日常だ。
新校舎に入り、班長である摩子がチェックをする。
「みんなおはよー!点呼するねー!まず、会田昭子さーん!」
「はい!」
「伊藤神奈子さーん!」
「はい!」
「緒方佳恵さーん!」
「はい!」
こうして点呼をとった後に、摩子はこう言った。
「今日のメニューは、ホワイトボードにある通りだよー!みんな、怪我だけはしないように気をつけてね!じゃあ、今日も一日がんばろー!」
「「「「はい!」」」」
そして、三十人が動き回れるほどの広い調理場で、摩子の号令の元に調理が始まった。
休暇をとっている五人を除いた二十五人で、八百人もの人々の食事を作るという、かなりの重労働である。
朝のメニューは、芋ご飯と大根の漬物、目玉焼きと、ネギの味噌汁だ。
田畑の管理をしている皆川環介は、「人数が多いので白米の提供は難しい、しばらくは混ぜご飯になる」などと言っていたが、そもそも温かい炊き立てのご飯が食べられるだけで、今のこの世界では信じられないほどに幸せなことなのだと涼子は思っている。
芋ご飯は、旬のさつまいもとニンジンをたっぷりと混ぜたご飯で、油揚げも入っている。
大根の漬物は、冷蔵庫に作り置きしてあるもの。
目玉焼きは塩を振って焼いただけのもの。
ネギの味噌汁は、出汁の素を使った簡単なものだ。
まずは手を綺麗に洗い、倉庫から雑用班が運んできた食材を洗って、大型の電動スライサーに入れる。
そして分解された材料を、適切に調理していくのだ。
芋とニンジンは、油揚げと共に米と炊く。醤油、酒、味醂と出汁の素で味をつけて。
ネギは、出汁の素を入れた鍋で煮込む。
卵は割って、丸型の囲いの中で焼くだけ。
作業内容は簡単に見えるが、大型の電動スライサーは危険だし、食材は重いしで、かなり大変な仕事である。
尚、電動のスライサーが動いていることも、涼子は最早気にしなかった。驚き疲れたともいう。
八時頃に、民が皆食事を終えたところで、調理班は遅めの朝食を摂る。
甘くてホクホクの芋の、なんと旨いことか。
涼子は、この半年間の粗食で痩せ細ってしまった身体に、じんわりと温かな滋味が広がるような感覚を味わいながら、食事を楽しんだ。
そしてその後、二時間ほどの休息の後は、またもや仕事である。
昼食は、椎茸とニンジンの炊き込みご飯、鶏肉と大根の煮物、白菜の漬物。
白菜の漬物は良いとして、炊き込みご飯は干し椎茸を水で戻さなくてはならない。
鶏肉と大根の煮物は、鳥を捌くのが大変だ。
雑用班が、学校で育てている鶏の首を断つ。
無論、こんなことに慣れている人はそう多くない。
顔面を蒼白させる人もいた。
そこで、涼子はスキルを使うのだ。
『鎮静』のスキルを……。
このスキルにより、涼子の近くにいる人々の心の乱れは落ち着いた。
皆冷静に、鶏の首を落として、羽をむしり、腹を割いて臓器を抜き取った……。
また、調理班の仕事は一日三食の料理だけではない。
普段食べる漬物や、調味料に加工食品などを作り置きしておかなければならないのだ。
皆川環介が、虚空から万物を取り出すスキルを持つことは、既に皆が知っている。
だがそれと同時に、スキルを使うには「対価」を要することを、今の世界の人間達は経験則で知っていた。
例えば、技術班の伊坂奈凪は、『工廠』というスキルを持ち、武器弾薬を生み出せるのだが、その為には原材料となる「鉄」や「窒素」などが必要だ。
研究班の氏居雪姫も『修復』のスキルを持つが、使用すると大きく体力が消耗される。先日、雪姫は手首から先を失った自衛隊員の治療をしていたが、完全に治すまで三時間もかけていた。その上で、体重が3キロ減少したらしい。
故に、皆川環介もまた、何かを対価にして物資を生み出しているのだろうと分かっていた。
もしも無制限に何でも手に入るのならば、巨大な街を作り、美酒や美食を作り出し、楽しめば良いのだから。
そうしないということは、能力に限界があるのだなと、民は勝手に想像して納得していた……。
そんなことを思いながら涼子は、昼に解体した鳥の鶏ガラを煮込み始めた……。
夜。
献立は卵とネギのチャーハン、小松菜の鶏ガラスープ、モンスター肉の角煮。
モンスター肉は、基本的には隣の区にいる「牙猪」の肉だ。
本物の猪とは違い、クセがなく、脂身が少なめの豚のような食味なので、皆が好いている。
無論、狩猟班のメインターゲットは、皆川環介に資金を貯めてもらうために「スケルトン」や「彷徨う鎧」のレア種が持っている黄金剣なのだが、それはそれとして食用の獣を狩ってくることもよくあった。
狩猟班はかなり強く、運搬用に馬車なども運用している為、一度狩りに出れば十頭以上もの牙猪を仕留めてくる。
そうなると、八百人の民全員が腹一杯に肉を食えるのだ。
もっとも、狩猟班の本題は今や、皆川環介の資金を稼ぐことがメインとなっているので、食肉の確保にばかり注力はできないが……。
そうして、丸一日料理をした涼子。
夕焼け空が暗い色に変わる頃、彼女は、学校のプールを改装して作られた大浴場で身を清める。
皆川環介が改装したというこの大浴場は、プールの浴槽と排水設備をそのまま利用したもの。
皆川環介の力の有限性を示すが如く、どこか不完全な浴室にて、涼子はシャワーで湯を浴びる。
そして、手作り感溢れるあまり泡立たぬ石鹸を使って身体を清めて、また湯を浴び。
プールを使って作られたのであろう浴槽に身を沈めた……。
「はあぁ〜……」
思わず、変な声を出してしまう涼子。
それも仕方がないだろう、湯船に浸かるなど久しぶりのことなのだから。
仕事柄、シャワーを浴びたり浴びさせたりすることは多かったが、湯船に浸かってこうして静かに休むのはいつぶりだろうか?
世界がこうなってしまう前から、仕事はかなり多く、ゆっくり休めたことなどほぼなかった。
どれもこれも、自分の命より大切な愛娘を、大学にまで行かせてやりたい一心だったから……。
娘には、自分のような、男に捨てられて水商売で生きるような、そんな人生を歩んでほしくはなかった。
……とはいえ、娘の様子を見る限り、自分とは違って男を見る目はありそうだと。
それだけは安心できたと思って、少し微笑み。
涼子は温かな風呂を堪能するのだった……。
あーやっぱりむせる系ロボットもの書きたくなってきた……。
ゲーム化地球は50話まで書いたんで許して許して……。
秒で興味が移り変わるからなマジで。
でも多分、みんなロボットものとか好きくなさそう。
当てにならないパーツがざっと50はある、ダグラムみてぇなダッセェデザインの鈍重なロボで、傭兵団を作って旅に出る話とか、俺は好きだけど読まれんのかな……。
こういう系の作品って、かなり作り込まれないと読んでもらえない印象。やっぱりなろうファンタジーが最強や!