ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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間に合え!


38話 待場

この女子高最大の勢力を誇る遠征部は解体された。

 

何故なら、世界の崩壊からもう半年。

 

最早、漁れる物資は多くないからだ。

 

そんな遠征部のリーダー二人は、今は、俺の直接の護衛になっていた……。

 

「ふひ、ひひひ……、か、環介さぁん♡」

 

じめっとした湿度高めの雰囲気で話しかけてくるのは、待場翠。

 

のっぺりした黒髪の、陰気な女の子だ。

 

顔の作りは可愛らしいのだが、内気な性格のオタクで……、あとなんか臭い。

 

いや……、その、申し訳ないが、ちょっと臭い。猫みたいな匂いする。

 

最初に会った時と比べればまあかなりマシになったが、それでも鼻のいい人は気付くだろう。

 

恐らく、髪が結構長いのに、身嗜みに気を使わないからだろう。

 

ロングヘアというのは手入れが大変で、時間をかけて洗わないとすぐにダメになる。

 

それとこの子、どうやら多汗症のようだな。

 

おまけにあがり症で、緊張すると汗をかく。

 

いやまあ、可愛いから許せる範囲だが。

 

臭いと言っても、明らかにヤバいドブ臭さではなく、動物的な香ばしさの範疇。

 

まあ、本気で汚い奴はマジでヤバいからね……。

 

カードゲーマーが緊急搬送されてきた時の話をするか?

 

……まあ、クソみたいな医者時代の記憶は良いだろう。

 

で、この子は圧倒的にコミュ障だから、なるべくこちらから歩み寄るように心がけていた訳だ。

 

そしたら、異様に懐かれた。

 

ほら、あれだ。

 

コミュ障特有の、他人と打ち解けない癖に仲間認定したら異様に気安くなるやつ……。

 

うんまあ……、色々と可愛いなあ。

 

間違いなく、社会に出てもまともにやっていけないだろうから、世界がこうなって逆に助かったんじゃない……?

 

「えへ、えへへ、か、環介さん♡」

 

「……何かな?」

 

「よ、呼んでみただけ♡」

 

はあ……、そうですか……。

 

とりあえず、ふらふらと落ち着きない動作で目の前に立たれると、何だか不安になってくるので、座らせる。

 

俺が今座っているのは、ソファだ。

 

家にあったものを再現したものだな。

 

これは、畳めばベッドにもなるタイプのもので、二人座れるスペースはある。

 

なので、翠は、俺の隣にぴったり座った。

 

うわ、肌がぬるっとしている。

 

「ほら、汗拭いて」

 

俺はタオルを渡した。

 

「えへ、拭いてくださぁい」

 

全く、世話の焼ける……。

 

腕と首を軽く拭いてやる。

 

これくらい、患者にやってきたことだ。

 

「か、環介さん!だ、大好きっ!」

 

「そうかい、ありがとね」

 

「あうう……、好感度が足りない……。やはり、伝説の木の下で告白するしか……」

 

意味の分からないことを口走る翠に、俺は緑茶を出してやった。

 

「あ、どうもです」

 

普通にお礼が言えるあたり、育ちはいいんだよなあ。

 

「あのですね、私はですね、こんなじゃないですか?だから、男の人とか縁がないと思ってたんですけどね?なんか、縁が結べましてね?めっちゃ嬉しいんですよ!」

 

鼻息が荒い。

 

怖いなー。

 

「それに私、無類の歳上好きでして……!セクシーな中年最高に好きです!あー興奮してきた……!」

 

うわあ、陰キャ特有の性欲の高さ。

 

スポーツとかしてないから、昇華できていない精力が全部性欲になっているんだなあ。

 

怖いなー。

 

「はい、ごろーん」

 

とりあえず、膝枕する。

 

「おっふぇ♡」

 

そして、腹を撫でてやる。

 

「お"っ?ほお"っ♡ひぐっ、んおお"っ♡♡♡」

 

うわあ、汚ねえ喘ぎ声。

 

まあうん……、社会人としても、女としてもやっていけんだろうね……。

 

いやでも、本当に可愛くはあるんだよなあ……。

 

見た目だけはマジで一級品なんだよなあ……!

 

 

 

「ふう……、パンツ替えてきて良いですか?!」

 

「ああうん、はい、どうぞ」

 

なーんで俺が女子高生の劣情の解消をお手伝いせにゃならんのじゃ。

 

これでブサイクならキレていたぞ。

 

 

 

「あの、えと、話は変わりますが、環介さん。おじいちゃんとおばあちゃんは、村でどんな感じでしたか?」

 

どんな感じか?

 

まあ、元気だったが……。

 

質問の仕方が下手くそだなあ。

 

適当に、村での出来事を話してやるか。

 

「待場の爺さんは、猪狩りが上手かった猟師なんだが、数年前に腰をやってしまってなあ。それ以降は、猪狩りは俺がやるようになったんだ」

 

「へ、へえ、そうなんですか」

 

「基本的には、爺さんは農家なんだがな。猟師ってのは田舎には必要不可欠な存在なんだが、その実全く儲からなくてな……。いやもう、命の危険がある仕事なのに、マジで儲んないんだアレ。ほぼボランティアだぞ」

 

「何で儲からないんですか……?国からお金とか……」

 

「貰えるけど、命懸けの仕事で一万円そこらだよ?まあやってらんないよね。あ、因みに、猪も普通に人間殺せるくらい強いから」

 

「あ、でもその、農家は儲かるって……」

 

「ハハッ!そりゃ、上手くやればね?けど実際、サラリーマンと違って、不作もあれば豊作過ぎて作物が売れないこともある。……農業は国家の基幹産業なんだけどなあ、何でこんな扱いなんだろうなあ、おかしいね!」

 

「田舎暮らしとか、私は、結構良いと思いますよ?」

 

「おっ、良いねえ。俺もそうだよ。都会はゴミゴミしていてあんまり好きじゃないんだ。田舎は良い。空気も澄んでいるし、緑は目に優しいしな」

 

「い、良いですねえ〜!」

 

「まあ、ここもすぐ、田舎と同じ風景になるだろうがな」

 

「はぇ?」

 

「今までの世の中じゃ『環境保護』なんて声高く叫ばれているが、実際、自然は強い。あと十年もすれば、有機素材は腐って肥料になり、アスファルトはひび割れ雑草が生い茂り、建物は蔦だらけになるだろうな」

 

「ふあっ?!ポストアポカリプスぅ!」

 

ポストアポカリプス?

 

おお、難しい言葉を知っているなこの子は。

 

オタクというやつか。

 

「そうですよね!!!!ラスアスでも、崩壊後の世界は植物まみれでしたもんね!」

 

いやよく分からん。

 

オタクの人にしか通じない話をせんでくれ。

 

「いや、よく分からないが、漫画か何かの話か?」

 

「アッハイ、すみません……。ゲームとかやらない感じです?」

 

「やらないなあ……。ほんの小さい頃、マリオとかドラクエとかをちょっとやったくらいで……」

 

「うーん、そうですか……。そ、それじゃあ、今度、ゲームショップに行きません、か?」

 

……なるほど?

 

「まだ、電力に余裕とかないとは思うんですけど、娯楽がないのって辛いと思うん、ですよね!いや、私がやりたいだけと言われればそれもそうなんですが……!」

 

確かに、落ち込む女の子達のカウンセリングを一々俺が全部やってすり減らされるより、テレビゲームなどを与えて大人しくさせた方が得だな。

 

「こんな時だからこそ、なにかリラックスできるものが必要かなって……。それに、私もおすすめのゲームを環介さんに押し付けたいし……!」

 

まあ、うん。

 

炊事洗濯とか全部やってもらってるし、村のジジババ共みたいに面倒な仕事を投げてきたりはされないから、時間はある、な。

 

これを機に、一緒にテレビゲームとやらをやるのも悪くないかもしれん。

 




コロナぁー!!!

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