ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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咳が止まらない。

結核かぁ〜?


33話 伊坂

理科室での勉強会。

 

続いて俺は、奈凪に話しかけた。

 

「奈凪は、将来の夢とかあるのか?」

 

「ある」

 

うむ。

 

奈凪はコミュ障という奴だな。

 

普通、「将来の夢はある?」と聞かれたなら、「私の夢は◯◯になることです」と返すだろう。

 

だが、奈凪は、文章をそのまま受け取り、「あります」と返した訳だ。

 

いわゆる変わり者、恐らくは何かしらの発達障害などを持っていそうだ。

 

流石にそちらの方面は専門ではないので診断はできないし、その辺りのことに踏み込むのはな……。

 

発達障害を差別する訳ではないが、「貴方は発達障害を抱えていますか?」と聞くのは普通に無礼だろう。

 

「質問を変えよう。将来の夢は何だ?」

 

「兵器開発者」

 

ほお?

 

面白いな。

 

女の子が兵器開発者とは。

 

「兵器開発者になる為に、どんな努力をしている?」

 

「勉強。数学、工学、軍事について」

 

ふむふむ……。

 

「何故、兵器開発者を志したんだ?」

 

「……カッコいいから?」

 

あ、その辺はふわふわなんだな。

 

「人殺しの道具を作ることに隔意はないのか?」

 

「人を殺すのは人」

 

……あー。

 

翻訳すると、「人間を殺すのは道具ではなく、あくまでも人間の悪意である」と、そういうニュアンスのことを言いたいのだろう。

 

確かにそうだな。

 

俺も害獣を殺す用の空気銃などを持っていたが、銃は生活に必要なものだったと身に染みている。

 

都会で、害獣に出会わずに優雅に暮らしている連中は、銃を規制しろなどと言うが……。

 

我々、田舎の農家からすれば、害獣を追い払う為には武器が必要不可欠だとしか言えない。

 

動物を殺すのはかわいそう?

 

舐めやがって。

 

じゃあ、害獣に作物を駄目にされる俺達農家はかわいそうじゃないってのか?

 

まあそんな訳で、銃を持つ人間を何となくで悪人認定してくる文化人気取りのアホ共と違って、彼女達には色々と理解されているので助かる。

 

その、銃を持つことへの理解の根源が、この奈凪という訳だろう。

 

「確かに、武器は人を殺すための道具でありながらも、人を守るための道具でもあるな」

 

「この世に善悪があるなら、悪いのはいつも人。道具には善悪はない」

 

哲学的だが正しいな。

 

この世には明確に定義不能な善悪などというあやふやなものが、さも知ってて当たり前の基準です!と言うように蔓延っているのは周知の事実だが。

 

仮にその、善と悪という短い物差しで測れば、いつも人間が悪だろう。

 

だが、人間の作り出したものは悪なのか?と言えば違うよな。

 

オーガニック志向、不自然なものは悪などとは言うが、武器も汚染物質も核兵器もこの地球で造られたもの。言うなればこれらも地球の一部だ。

 

そこに、善悪は関係ないはず。

 

ただ、在るだけで、ただ、造られただけ。

 

か弱い動植物や人間が絶滅しようが、汚染物質がばら撒かれようが、それでも地球は回り続ける。

 

環境保護も人間の都合、地球が、仮に人の住めない死の星になったとしても、地球そのものは何も思わないし何も考えない。

 

「ところで、兵器開発者とは言うが、何が作りたいんだ?ライフルか?戦車か?」

 

「戦車」

 

ほうほう。

 

戦車か。

 

詳しい分野ではないが、自衛隊の現行モデルは10式と言ったか?

 

軽量小型化を実現しており、国内に展開しやすいんだとか。

 

軽いから日本の八割の橋を渡れる……、なんて話を本で読んだな。

 

「でも……」

 

ん?

 

どうした?

 

「でも、今の日本では兵器開発なんて殆どやっていない。だから、もし駄目なら車両開発でもいい」

 

ふむ。

 

確かに、近年の日本では、兵器開発なんてわざわざやらないだろう。

 

そもそも太平の世であるこの世界で、最新兵器をポコポコ作る意味はないからな。軍事産業そのものが下火だ。

 

奈凪に聞けば、自衛隊には新兵器を作るような予算はないそうだ。

 

そんな国で兵器開発をしても意味はないと言う訳だ。

 

故に、自動車の設計者か。

 

サブプランがあるのは賢いな。

 

とある有名な漫画家もこう言っていた。「夢は二つ持て。片方の夢が破れても、もう片方があれば挫折しない」とな。

 

そんな訳で、奈凪、この子こそが一番上手くやれている子かもしれない。

 

実際、自分の発達障害的な部分とも上手く付き合えているようだしな。

 

俺が担当医なら誉めそやしているぞ。

 

自分の障害とここまで上手く付き合える人はそう多くはない。

 

この子の度合いだと、ここでこうして席に座って勉強ができているだけで、感動的と言えるほど偉いだろうな。

 

俺がそう思って感心していると、奈凪は首をこてんと傾げて……。

 

「あ、そうか」

 

と呟いた。

 

「どうした?何が……」

 

「ごめんなさい」

 

何だ?

 

人の言葉に被せるように喋る……、これは……。

 

「私、ADHDなの」

 

なるほど、やはりか。

 

「喋るの、苦手。空気読めてないよね?ごめんなさい」

 

「いや、気にしていない」

 

「本当?」

 

マジだよ。

 

「話が通じるだけマシだしなあ……」

 

俺は遠い目をして言った。

 

病院にはね、せん妄患者とかもいるからね……。

 

精神病院ではないけど、術後せん妄とか色々あるから……。

 

相撲取りが搬送されてきて、せん妄で大暴れしてきた時はヤバかったなあ……。

 

「……?」

 

不思議そうな顔をする奈凪。

 

「あ、いやね。病院には、話が通じない患者とかいっぱいいたから、日本語が通じて意思疎通できるだけ立派だよ」

 

「ん」

 

うん……。

 

っと、それより……。

 

「そんなことより、薬は持っているのか?」

 

「あー……。前無くなった」

 

おっと、これはいかんな。

 

「どれくらい前に無くなった?」

 

「忘れちゃった」

 

まあそんなこったろうとは思ってたぞ。

 

「あ……、そういえば、先月くらいから奈凪ちゃんの様子がおかしいって話が」

 

横から、雪姫がそう言ってくる。

 

「早く言おうね」

 

「あ、いやその……、えーっとですね。ちょっと失礼なんですけど……」

 

ああ……。

 

「奈凪が……、その、『変わり者』なのは周知の事実で、いつも『変わり者』だから気にされなかった、とかか?」

 

「はい……、そんな感じです……」

 

なるほど。

 

つまり、普段から多動だから、皆、あまり変に思わなかった、と。

 

えーと、ADHDだから、メチルフェニデートだろうか?

 

薬品名は確か、コンサータ。

 

「奈凪、普段は何ていう名前の薬を飲んでいた?」

 

「えーっと……、コンサータ?」

 

コンサータか。

 

「他は何か飲んでなかったか?」

 

「んー……、名前が……、思い出せない。興味ないから、忘れた」

 

なるほど。

 

「グレープフルーツジュースは飲んで駄目とか言われてないか?」

 

「言われてる。何で分かったの?すごいね」

 

グアンファシン……、あー、インチュニブだな。

 

この薬はグレープフルーツジュースと合わせると副作用が酷くなる。

 

「何ミリグラムのを飲んでた?」

 

「忘れた」

 

「よし、じゃあ今体重を測って」

 

体重計を出す。

 

えーと、47kgってところか。

 

となるとこれくらいで……。

 

いや、様子を見ながら少なめに……。

 

ああ、クソ、俺は薬剤師ではないんだがなあ。

 

 

 

「ありがとう、環介さん。私……、私は……、上手く言えないけど、とにかくありがとう」

 

結局、診察までやってしまった。

 

痩せ過ぎであるから、もっとたくさん食べなさいと言いつけておく。

 

最初の頃は、不思議ちゃんだなと思っていたが、薬が切れている今は露骨にADHDだな……。

 

目線はぼーっとしているか、よそ見をしているかの二択。

 

喋りも酷く、会話も通じにくい。

 

髪型もモジャモジャだし、不衛生。

 

圧倒的美人なので、化粧っ気がなくとも可愛いのだが。

 

薬切れか、そうかそうか……。

 

まあ、これでまともになるだろう。

 




アァッ……、新作書いちゃった……。

なろう主人公みたいないじめられっ子のカスがボロクソに貶されるけど、これ大丈夫?

「お前がそうやって周りのクラスメイトのこと全員をフワッと嫌って見下してんだもん、みんながお前をフワッと嫌うのは当然だろ」

「別に一匹狼を気取るのは結構だが、能力がないくせに孤高を気取っても損しかしないぞ。お前が一番嫌いなキョロ充?ってのの方が社会に適応できてる分マシじゃねえかな」

「同じアウターカーストの俺がクラスメイトから信頼されて、自分が嫌われてるのはおかしい?何言ってんのお前?俺とお前が同じな訳ないだろ。会話もしない目も合わせない、プライベートの話も付き合いもない奴を、何で信頼してくれると思ってんだ?」

とか、そう言う感じで、テンプレなぼっちいじめられっ子なろう主人公さんが、本作主人公さんにボロクソに論破されてしまうお話です。

悲しいなあ……。




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