女装男は、桃子と名乗った。
恐らくは偽名……、いや、源氏名というやつだろう。
実際に案内されたのは、駅前にあるオカマバーだったので……。
オカマバー『ブルボン』……。
駅前のバーにしては広めの敷地を持つ店で、十人ほどのオカマが勤務している。
「店長の祥子ママよぉん♡」
店長を名乗るおっさんは、角刈りに青髭の癖に暑化粧をしたバケモノのようなマッチョオカマだが、他のスタッフのオカマ達はかなり美人だ。まあ男なんだけども。
「私は、杉之浦女子高校の調達部第一班リーダーの、砂鷹光です」
砂鷹さんが挨拶した。
「あらぁん!杉之浦女子高校〜?!良いわよねぇん!制服がとってもキュートなところよ!」
「ありがとうございます」
「私も学生時代に願書を出したんだけど、『男だからダメです』って言われちゃったのよねぇん……。ま、良い思い出よん」
高校の頃から既にオカマだったのか……。
ってか、そりゃそうだろとしか言えねぇんだが……。
「それで、そちらのハンサムさんはぁん?」
ちら、とこちらを見る祥子ママ。
砂鷹さんのような美少女を見る目には性欲が一切ないのに、俺を見る時だけ視線がやたらとねっとりしている。
LGBTとかにうるさい昨今、ホモであることそのものに文句は言わないが、ホモに流し目されて気持ち悪いというのは正直な気持ちだ。
そんなことを内心では思いながらも無表情な俺。
一方、そんなことを言われた砂鷹さんは、少し迷ってから……。
「……私の親戚のおじさんです」
と答えた。
「ふぅん……?」
どうやら、祥子ママは、嘘であることを見抜いたようだ。
まあ、距離感的に親戚ではないもんな。
その辺は分かるか。
だが、それを咎めようとはしてこなかった。
この反応からすると、無能ではないな。
表面上は気持ちの悪いふざけたおっさんだが、少なくとも、本音と建前を分けるくらいはしてくれるようだ。
「それで……、木材が欲しいんでしょう?」
「はい。取引で手に入るなら、それに越したことはありませんから」
「理由は薪かしら?これからの季節、ないと大変だものねぇん……?」
「そうですね。こちらは大所帯なので、たくさん必要です」
「そうなのぉん?でもぉ……、ウチって、大学とも取引があるのよねぇん?」
大学……。
ここから東北側の高科区にある、霧島大学という国立大学だったか?
偏差値はまあまあそこそこに高く、医学部もあるそうだ。
とは言え、国内最高の帝都大学には及ばないが。
にしても、大学との取引がある、か。
つまりは、大学以上の利益が出ないと、交易に前向きになれないということか?
砂鷹さんはそう言った駆け引きに疎く、直情的な面が強い子だ。
祥子ママのその、色々な事情を仄めかすような言葉に対して、砂鷹さんはこう返した。
「取引ができないならそれでも構いません。大学の方が優先だというなら、そちらを優先してあげてください」
と……。
「んふ、ははは、あはははは!つまり、『別になくても困らない』って言いたい訳ねぇん?」
そう受け取った祥子ママ。
祥子ママは勿体ぶるような話し方をするが、あくまでも高く商品を売りたい以外に意図はない。嫌がらせをしようだのの、悪意はないのだ。
だが、「ないなら別に困らない」という姿勢の砂鷹さんには、少々驚いているようだな。
実際のところ、ないならないで、生木を燃やすことになるが、ここで生木を集めれば良いだけの話だしな。
「降参よ、こーさん。木材は必要なだけ渡すから、代わりに何かちょうだい?」
「はい、分かりました。こちらとしては……」
話がまとまった。
女子高で余っている米と野菜を引き換えに、乾燥させておいた木をたくさんもらうという契約だ。
しかも、今後も定期的にやり取りをすることとなった。
どうやらこのオカマ達は、色々な組織と取引をしているらしい。
東の大学、自衛隊基地。
南のIT企業。
西の地主。
様々なところと繋がりがあるそうだ。
そこらに、燃料たる木々を供給する代わりに、物資を交換で得ているとのこと。
燃料の供給は上手い手だな。
この崩壊した世界では、大切なものはまず第一に「水と食料」「戦力」「住処」だ。
衣食住加えて自衛の為の力。
が、着るものについては、その辺の薬局や雑貨屋を探れば、すぐに出てくる。新品にこだわらなければ、民家からも得られるだろう。
食べる物や水は必須だ、なければ生きられない。
パラダイムシフト後のこの国では、食べ物こそが価値あるものになった。
また、モンスターの湧くダンジョンになってしまった建物も、ボスモンスターを倒して支配すれば、また住めるようになるのだが……。
その、また住めるようになった建物というのも、かなり貴重なものだ。
それこそ、命のやりとりをしてでも奪い取りたくなるほどに……。
だがしかし、燃料は違う。
薪なんてものは都会にはないし、その癖に必要性は「あったらかなり有用だが、無くても最悪は困らない」くらいのものなのだ。
そこそこに希少かつ、そこそこに有用。
滅ぼして奪うまでに欲しい訳ではないが、まあそこそこに必要なもの、か。
これをメイン産業にしているとは、目の付け所が良いな。
また、他のオカマ達も、人格に問題はないようだ。
その癖に、支配するには苦労する程度の戦力もあるようだな。
……ああ、いや、感知系のスキル持ちの女の子は、相手の強さを見抜けるそうでだな。
その子達が言うには、ここ周辺では俺がぶっちぎりに強くて、女子校のリーダー格はその半分くらいの強さがあるらしい。
しかし、ここのオカマ達は、女子校のリーダー格の三分の二くらいの能力があるそうだ。
スキルは分からないそうだが、油断できる相手ではない。
全体的に、「取引をする方が必ずお互いが得する」という形になっている。
この形を意図的に作り上げたこのオカマ達……、ひいては、指揮官の祥子ママは、かなり有能な人物だと言えるだろう。
ホットケーキ、ヨーグルト混ぜて焼くとふわふわになるってマジ?