ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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そろそろ痩せるか……♠︎


9話 醜悪

俺は、富谷区から東に移動して、真山区という地域に来た。

 

ここには、市民体育館があるらしい。

 

そこは、緊急時の避難所となっているらしいので、避難民がいるはずだ。

 

さっきの砂鷹さんとの取引のように、物資の交換をしよう。

 

とりあえず、市民体育館から出てきた人に声をかける。

 

おっさんだな、普通の。

 

「こんにちは」

 

「な、何だお前は」

 

おっと……、挨拶ができない。

 

減点だな。

 

いやしかし、何だお前は?と言われるのは仕方ないか。

 

なら、警戒を解くために軽く受け答えするか。

 

「秩父の山の方から来た者です。貴金属や機械があれば、物資と交換しますよ」

 

「物資だと?!食い物があるのか?!」

 

「ありますよ。そちらに貴金属や機械はありますか?貴重品なら何でも……」

 

「食い物をくれ!もう三日も食べてないんだ!」

 

「いや、だから、貴金属が」

 

「こんな時に何を言ってんだ?!助け合いだろうが!!」

 

あっ、駄目だこれは。

 

「お騒がせしました」

 

俺は、踵を返して去ろうとした。

 

しかし……。

 

「これだな?!ここに食い物があるんだな?!」

 

と、勝手に馬車に入り込もうとしてくるおっさん。

 

「汚い手で触るな」

 

俺は、おっさんを蹴り飛ばす。

 

「ぐわっ!」

 

そんなに威力は込めていない。

 

だがおっさんは大袈裟に痛がり……。

 

「みんな!食い物だ!食い物をもらえるぞ!」

 

と叫んだ。

 

すると、どこにこんなにいたのか?

 

ってくらいに人が集まり、瞬く間に俺を囲んだ。

 

そして、勝手に馬車から物を奪っていく……。

 

なるほど、殺して良いってことか。

 

俺が鉄棍棒を構えた、その時。

 

「やめなさぁぁぁい!!!!!」

 

クソデカい声で制止が入った。

 

彫りが深く、ゴツゴツした四角い顔と体格の大男だ。

 

「飛田さん!貴方はまた!」

 

「俺は悪くない!食い物を分けてくれないこいつが悪いんだ!」

 

「人から奪うのは良くないことです。まず、誠心誠意お願いしましたか?」

 

「した!けどこいつは……!」

 

は?してねえだろうがよ。

 

お願いしますなんて言葉、聞いてねえぞ。

 

「そうですか。私の目には、皆さんが、この方の馬車から勝手に物を持ち去っていくように見えましたが」

 

「そっ、それは」

 

「荷物を!!!!!返しなさぁぁぁい!!!!!」

 

声でっか。

 

おまけに低いから、腹の底にズシンと響く。

 

だがまあ、その甲斐あってか、略奪品は返却された。

 

そして、大男は……。

 

「申し訳ありませぇぇぇん!!!!!」

 

と、90度に腰を曲げての謝罪をしてきた。

 

「私は、石岡藍門(いしおか あいもん)と言います!こうなる前は、スポーツジムのインストラクターをやっていました!!!!」

 

ああ、通りで。

 

見せ筋だが、かなり鍛え込まれているもんな。

 

石岡さんは、この辺のモンスターを仕留めてきたらしく、村に出てきた黒猪の小さいバージョンみたいなのを小脇に抱えている。

 

他にも何人か、黒小猪を抱えている奴が来ていた。

 

見たところ、狩猟をやって生活をしているが、足手纏いのせいで色々上手くいっていない……、と言ったところか。

 

……ん?

 

あいつ、折角の獲物を、もも肉の部分を切り落としただけで捨ててるぞ?

 

「あの、石岡さん、あれは……」

 

「はい?……ああ、猪ですか。この辺りでは手頃な獲物なんですよ」

 

ふむ。

 

「この辺りでは、牙を持った獣型のモンスターが出てきます。小猪は最も手頃な獲物で、他には、中型の熊、大型のマンモスなどがいますね。小猪なら、戦闘スキルがあれば安全に倒せますよ」

 

へー、そうなのか。

 

「それは分かりましたが、何故、猪の胴体を捨ててしまうのですか?」

 

「それは……、解体ができないからです」

 

あー、なるほど。

 

「なら、これとかどうですか?」

 

俺は、馬車から『ジビエ解体指南書』という本を出した。

 

「これは……!よろしいのですか?」

 

「その代わり、一匹もらえますか?」

 

「ええ、もちろんです。もしかして、解体の心得が?それなら、よろしければ、お手本を見せていただけますか?」

 

「ええ、構いません」

 

俺は、スケルトンから奪った短刀(煮沸消毒済)を使って、小猪を解体した。

 

頭を落として腹を開き、内臓を掻き出して手足を切る。

 

ふむ……。

 

凄まじい脂の乗り具合だな。

 

まるで、冬眠前の雌だ。

 

ロースなんて真っ白で、これを熱すれば上等な獣油ができるだろう。

 

剥いだ皮も、ウサギか何かかと言うようにするりと剥げて、おまけに、鞣さずとも使えるんじゃないかと思えるくらいにしっかりしている。皮下脂肪もペリペリと手で剥がせてしまった。

 

元々獣の内臓はビタミン類を多く含むが……、この小猪の内臓は、なんとなくだが薬効成分もありそうだ。匂いが薬剤に近いからな。

 

牙は刃物や鏃として使えるくらいに鋭い上に、金属のように丈夫だ。黒曜石のような質感で、ハンマーなどで割ると薄く鋭くなった。

 

後で分かったことだが、骨は、すり潰せば高濃度なカルシウムになる……。

 

資源獣とはよく言ったもので、まさに全身余すところなく資源になるなと感心したぞ。

 

俺は、もらった猪を塩漬けにして、大型のタッパーに保存し、石岡さんに挨拶をしてから去っていった……。

 




感想欄で言われた、「お前の作品のヒロインいつも臭くない?」っての、マジで未だに思い出す度笑っちゃう。

性癖が見抜かれてて草なんだな。


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