ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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あったかくなってきたが、まだ夜は寒いなあ。


7話 交換

何故医者を辞めたか?

 

そんなもんは決まってる。

 

「もう、疲れたんだよ」

 

「疲れた……?」

 

「医療業界は、君が憧れるような良いところじゃない。特に看護師なんて絶対にやめておいた方が良いよ」

 

マジでクソだからな。

 

お局のせいで人間関係はガタガタ、休みにくいし夜勤も多く体力的に難しいし、責任も大きい。

 

「そんな……」

 

「っと、だが、世界がこうなった以上はね」

 

俺はそう言って、周囲の風景を見回す。

 

ひび割れた道路、倒壊した建物、突然現れるモンスター……。

 

こんな状況で、将来の夢もクソもあるかって話だ。

 

「あはは……、そうですね……」

 

さて、砂鷹光さんはいいとして……。

 

「そっちの、待場さん」

 

「は、はい」

 

「ひょっとして、君の親戚に、山中村に住んでいる人っていたかな?」

 

待場なんて苗字の人はまずいない。

 

珍しい名前だ。

 

「あっ……!い、います!おじいちゃんとおばあちゃんが!」

 

あちゃー……。

 

「待場米男爺さんと、きよ子婆さんだね?」

 

「は、はいっ!」

 

うわー……。

 

これ、俺の口から言わなきゃならないのか?

 

はあ……、嫌だな、全く。

 

「待場さん……、お爺さんとお婆さんだが……」

 

「……やっぱり、そうですか」

 

あーあ、泣いちゃった……。

 

「分かってました……。こんな世界になれば、お年寄りなんてそうそう生きていられないって……。覚悟は、できていました……」

 

「一応、粗末ながらも墓は立てておいたし、埋葬もしておいた。爺さん婆さんの敵討ちもしておいたから、その……、なんだ……」

 

「はい……、ありがとうございました……」

 

泣き笑いの顔を向けてくる待場さん。

 

良い子だな。

 

出来の悪い子供なら、俺に当たり散らすことだってあり得たはずだ。

 

だがこの子は、気丈にも笑って見せた。

 

素晴らしい。

 

こんな二人には、是非幸せになってもらいたい。

 

具体的に何かをしてやろうとまでは思わないが、好感は持ったし、多少の手助けならしてやってもいいと思える。

 

ムカついてたんだよ。

 

自分の親を病院に押し込めて、普段は見舞いも碌にしないくせに、いざ親が死にそうになると、医者である俺に延命しろとキレ散らかすゴミ共……。

 

薬を飲め、酒やらを飲むなと指示している医者に逆らって寿命を縮め続けたくせに、いざお迎えが来そうだって時には、医者に当たるクソ共……。

 

そういうのを山ほど見てきた俺からすると、この子のように純真で礼儀正しい子は大変に感心する。

 

素晴らしい、良い子だ。

 

あ、それと因みにだが、今の世の中だと若い子の方が礼儀正しいな。

 

まあそりゃそうなんだよ。

 

学生の頃に、学生運動とか言って機動隊に火炎瓶を投げていた殺人未遂者共が今の老害さんな訳だから。

 

国家転覆を叫びながら、警官に暴力を振るっていた奴らと、今時の、「映える」とかいいながらその辺で写真撮りまくるアホガキ……。

 

どちらがマシかと言えば、なあ?

 

それはさておき……、そうだな……。

 

とりあえず、待場さんを慰めておくか。

 

「待場の爺さんと婆さんは、俺にかなり良くしてくれたんだ。いつもお世話になりっぱなしだったよ」

 

「おじいちゃんは……、最後に何を言っていましたか……?」

 

「村の仕事を手伝ってくれてありがとう、と俺に……」

 

「おじいちゃん……、おじいちゃーん!うわあああん!!!」

 

うわ、俺に抱きついてきた。

 

うーん……、困るんだがなあ。

 

今は事案だのなんだのとクソうるさいからな。

 

あとこの子、臭いんだよね。

 

香ばしい猫みたいな匂いがする。

 

女の子が入浴できないほどに困窮しているのか……。

 

キッツイな。

 

「ところで、先生は何してたんですか?」

 

と砂鷹さん。

 

「何って……、まあ、旅かな」

 

「は、はあ……、旅、ですか?」

 

「ああいや、その……、旅行とかじゃないよ?住んでいた村が滅びたというか……」

 

「なるほど、避難ですね。村というのは……?」

 

「医者を辞めてからは、実家のあった山中村で農家をやってたんだ」

 

「へえ、そうなんですか」

 

「でも、村は襲われてしまってね……」

 

何に、とは言わない。

 

殺人については、あえて言う必要はないだろう。

 

「そうなんですか……」

 

「牧場でたまたま拾った馬に、自作の馬車を牽かせて、住むところを探しているんだ」

 

「それなら、私達の高校に……、いや、ダメですね……、すみません……」

 

んん?

 

高校?

 

「高校に住んでいるのかい?」

 

「はい、高校に避難してます。でもその……」

 

なるほど……。

 

要するに、男は嫌われてる、と。

 

女子高生のグループだもんな、変な男に目をつけられて苦労したことが多いんだろう。

 

そんな感じの話をオブラートに包んでお伝えされた。

 

男は立ち寄れないみたいな雰囲気になってるそうだ。

 

「それなら仕方ないよ。気持ちだけ受け取っておく」

 

「すみません、本当に……」

 

「ああ、そうだ。それなら、何か持っていくかい?物資の交換には応じるよ?」

 

「物資の交換、ですか」

 

ちらりと馬車を見る砂鷹さん。

 

「ああ。水とか、食べ物とか……」

 

「ほ、本当ですか?!」

 

「あ、ああ。何かおかしいかな?」

 

「こっちの方では、中々食べ物が手に入らなくて……。最近は、隣町まで遠征して物資を集めてるくらいなんです」

 

ああ、そうなんだ。

 

「あー、そうだな。しばらくは俺はこの辺にいようと思う。物資には余裕があるから、貴金属とか電子部品とかとなら交換できるよ。骸骨からとれる武具とかでもいい」

 

そうそう、さっき試したら、骸骨の死骸や武具は、一体分全て『変換』すれば金1gちょいくらいにはなる。

 

一体につき一万円と少しくらいか。

 

「じゃ、じゃあ、これ……!」

 

砂鷹さんは、バックパックを丸ごと渡してきた。

 

って……、何だこりゃ。

 

女の持てる重さじゃないぞ。

 

長距離登山用の100Lバックパックだ。

 

そこに目一杯の物資が詰まっている。

 

スキルとやらの力が?

 

それは良いとして中身だ。

 

どれどれ……?

 

おお、パソコンやカメラがある。

 

何でこんなものを集めていたのかは聞かないが、これだけあれば金20g分にはなるな。

 

「全部もらおうか。馬車にあるものは、何でも好きなだけ持っていって良いよ」

 

「ありがとうございます!」

 

いやー、儲けたな。

 

周りのやつに集めさせて、俺が『変換』するのはアリなんじゃないか?

 

他のところにも行ってみよう。

 




自炊のメニューに困る。

キャベツ買ったのでお好み焼きを作ろうと思うのだが……。

マヨが余ってるからタルタルソースを次回作る。

ホットケーキも焼きたい。

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