ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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ぬるぽ。


44話 ゲームギア

魔法で動くゲーム機、『ゲームギア』の販売の日がやってきた。

 

セ◯は関係ない。

 

単にゲーム機と言う意味合いなだけだ。

 

学校は午前中に数学科のゴート教授とバチバチ議論を交わしてスッキリしたので、清々しい気持ちで販売に立ち会えるな!

 

 

 

「おお、エグザス様!いらっしゃいましたか!」

 

馬油でテカテカの顔面にアルカイックなスマイルを浮かべる、オールバックのデブ親父。

 

ビークス商会のバックスだ。

 

カーレンハイト辺境伯家の伝手で知り合った商人で、ここいらじゃ一番誠実と専らの噂。

 

倫理観が終わっているこの世界では、商人は詐欺師とほぼ同義。

 

定価なんてものはなく、相手によって足元を見て値段を釣り上げるのは当然で、会計も平気で誤魔化すカスばかり。

 

もちろん、ギルドという組合があるので、露骨にやり過ぎて周囲の和を乱すようなら袋叩きにされるのだが、それでも、現代日本的価値観からすれば最悪の一言だな。

 

このバックスも、カーレンハイト辺境伯家というビッグネームがなければ、俺に対して値切りやら何やらをしてきただろうことは想像に難くない。

 

しかしこいつは「薄利多売によってゲーム機本体を充分に流通させて、その後のゲームカセットの定期販売で購買意欲を煽る」という俺のやり方に利益があると判断したから、全面的に手を貸してくるんだろうな。

 

とにかく、結果的には、このバックスという男は俺の事業計画を飲んで、その通りに行動すると契約をしたんだ。

 

別にその辺は何でもいい。

 

裏切れば消せばいいし……。

 

「さあさあ、開発者であるエグザス様に音頭をとってもらわねば、ことが進みません!一言、お願いできますかな?」

 

そう言われたんで、街のど真ん中でずらっとゲームギアを並べる。

 

ゲームギアは、10cm×23cmほどの魔液晶画面に、スティック二本とボタン四つ×二組とトリガーボタン二つ×二組のスタンダードな携帯ゲーム機だ。

 

それを、段ボール製の紙箱に入れて、店の前に数百個積み上げる。

 

……「何だこれ?」

 

……「玩具らしいぜ」

 

……「ビークス商会の新商品かあ」

 

そして、人が集まる……。

 

と、そこに俺は、ゲームギアを盗難防止用の鎖で繋いだ試用スペースを設けておいた。

 

「皆さんこんにちは、私はエグザスと言う者です。一応、魔導師の方をやらせていただいております……」

 

スピーチなんて慣れたもんだ。

 

一応、そこそこの立場ある社会人だったんだからな。

 

「今回、私が皆さんにお売りしたいのは、全く新しいゲームです。これは、大人から子供まで幅広く楽しむことが可能ですよ」

 

……「あらやだ……!ハンサムじゃない!」

 

……「うほっ、いい男だなあ」

 

……「カッコいい……♡」

 

俺がスピーチと共に軽く微笑めば、間抜けな愚民共は色めき立つ。

 

宣伝効果は抜群だな。

 

俺の面構えは、女には当然だが、ホモの男にもモテる。

 

それとは別に、普通の男には憧れられる。

 

美形はとにかく、何をしても様になり、得しまくるのだ。最高だな!

 

「とは言え、銀貨三枚の買い物は少々お辛いでしょう。なので、こちらの試用スペースでお試しください!実際に試して納得なされなければ、購入せずとも結構です!」

 

……「なにっ?!買わなくても試せるのか?!」

 

……「気に入らなかったら買わなくても良いんだな?!」

 

……「す、凄い!タダで試せるなんて!」

 

これも大きな宣伝要素だ。

 

無料で試用できるとか、試食ができるとか、そういうものはこの世界にはまだない。

 

必要なら買わなきゃならないし、一度買ったらクーリングオフとかもないのだ。

 

だがそれでは、玩具にしては高額なゲームギアは、購入してもらえないだろうと俺は思った。

 

故に、お試しだ。

 

ソフトを入れたゲームギアを店頭にずらりと並べ、遊んでくれと俺は言った。

 

試用ソフトは一回が短いテトロス。

 

……「な、ななな、何だこれはっ?!!」

 

……「す、凄い!こんなもの、見たことない!」

 

……「アドン魔導国にもないぞ、こんな魔導具は!」

 

驚きの声が方々から上がる。

 

プレイ中の動画は、試用場所の上部に取り付けたモニターから見れるようになっているぞ。

 

携帯ゲーム機だからな、プレイの様子を見やすくする為だ。

 

……「お、俺にもやらせてくれ!」

 

……「早く代われよ!」

 

……「もう一回だ!」

 

試用場所は大混乱だな。

 

だが……。

 

「はいはい、買えばいくらでもできますよ!本体価格はたったの銀貨二枚!銀貨二枚です!」

 

「「「「うおおおお!!!」」」」

 

買わせりゃ良いだけの話だ。

 

ああ、懐かしいな。

 

フレイステーションの発売日を思い出す。

 

誰が言ったか……、「モノ売るってレベルじゃねえぞ!」と……。

 

数千台は並んでいたゲームギアの山は、ほんの三時間で全てが売り切れた。

 

「おほ〜!」

 

バックスが絶頂している。

 

無理もない、今日の午前だけの稼ぎで、純利益が銀貨一万枚を軽く突破しているのだから。

 

現代の日本円に換算すれば、銀貨一枚が一万円ほどなので、一億円となる。

 

ビークス商会も、一日で一億円は稼いだことがないはずだ。

 

そもそも、貨幣経済もそこまで活発じゃないしな。

 

例えば、俺の村なんかでは物々交換が基本だったし……。

 

金本位制で、流通している貨幣が一定だから、信用創造が起きていないんだ。

 

そんなこの世界で一億円分の利益というのは、額面よりもよほど凄まじい偉業だった。

 

まあ、これから俺はゲームギアなどの端末でのみ使える電子通貨を流通させて一儲け!とかも考えているが、それはまた別の話……。

 

 

 

「エグザス様、今回は誠に、誠に……!」

 

俺の片手を両手で包み込むようにして握り、頭を深く下げるバックス。

 

利益は俺とほぼ折半くらいの感じなのだが、それでも、一日で稼いだ額としては商人を始めて一番だったそうだ。

 

最終的に、午後も多数の人々が商会に押し寄せてきて、貴族までもが現れ、純利益にして三億円にまで達したからな。

 

「ゲームギアが売れることは理解したはずだ。これからは、ゲームソフトが売れるぞ。あれだけの客がまた、銀貨を一枚握りしめて、この商会に押し寄せるんだ」

 

「おほ〜!堪りません!堪りませんなあ、エグザス様!夢が広がりますよ!」

 

「それだけじゃない、お前の商会が他の街にもゲームギアを供給するんだ。そうすれば、もっともっと儲かるぞ」

 

「はい、はい!そうですな!」

 

「重ねて言うが、値段は……」

 

「もちろんですとも!あれだけ数を売れるのであれば、一つ一つの値段を吊り上げる必要はありますまい。そんな簡単なことも分からぬ間抜けは、我が商会にはおりませんとも!」

 

ふん、どうだかな。

 

「まあ、どの道、起動時の音声ガイダンスで『このゲームギアは本体価格が銀貨二枚です』と言われるんだがな」

 

「ええ、そうですなあ」

 




カクヨムなー。

金になるんならやってみるのもアリか……?


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