なので奮発して成城石井のケーキを買ったんですけど、とてもおいしいです。
やったね!
「でっ、でもぉ!私、私……!」
凪が駄々をこね始める。
無理もない、か。
温かいシャワーとまともな食事だと?
あそこに見えるシャワールームと、目の前で始まる煮炊きの煙、炊ける米の匂い。
こんなもん、耐えられる訳がねぇ……!
「ああ、だが安心してほしい。俺に善意は一ミリもないが、害意もまたないんだよ」
博士は、スマホを切ってポケットにしまいつつ、言葉を続ける。
「別に、お前ら人間のようなか弱い生き物を虐めて悦に浸る趣味はない。人間なんて、直接的にも間接的にも、数えきれないほどに壊してきたからな。そういうのは飽き飽きしてるんだ。俺はただ……」
何だ、あの目は。
人が人を見る目じゃないぞ。
「俺はただ、人間を観察したいだけなんだ。人間がどう生きるのか、それを見たい……、それだけなんだよ」
ああ、そうかよ……。
実験動物を見る目ってことか。
「は、はは……、なら、三回回ってワンと鳴いてやろうか?それで何か恵んでもらえるなら、やってやるさ」
俺はそう言い返した。
強気で言ったつもりだ。
だが、声は、みっともなく震えていた……。
怖い、怖いんだよ。
今まで、色んな奴がいた。
遊び半分で殺しにかかってくる半グレ、罠を張る賢しい奴、快楽殺人犯モドキ……。
そう言った奴らを殺して、殺して、俺達はここにいる……。
だが、こんな『バケモノ』は初めてだ。
快楽殺人犯モドキだって、人を人として殺すことに快楽を感じる奴だったんだ。
自分の手で、同じ人間を、努力して生きる同格の生命を打ち倒すのが気持ちがいい。その気持ちは、納得はできないが理解はできた。
だが、こいつはなんだ?
俺達をモルモットだと、そう言っていやがるのか?
理解できねえ、何が楽しいんだ?
人の心が感じられない、バケモノ……、バケモノだ!
「ああ……、心拍数が早まっているな。怖がらないでくれよ、人間。信じてくれ、危害は加えないんだ。そちらが攻撃してこない限り、俺はサバイバーと対等な立場で取引するさ」
ひび割れたかのような笑顔。
明らかに、人前で笑ったことがないことがわかる不気味な笑顔。
人じゃない何かが、人のふりをしている。
『人間ごっこ』という訳か。
良いさ、分かった、理解した。
それで理解が得られるなら、お前のごっこ遊びに付き合ってやるよ、バケモノ……!
「分かりました!ありがとうございます!これからは、あなたのルールに従うので、詳しいお話をお聞かせ願えますか?」
シャワーをたっぷり一時間浴びて、五回は身体を洗った俺は、シャワールームを掃除してから外に出た。
新しい服を着て、ファミレスの外にあるようなプラスチック製の椅子に座る。
向かい側には、凪が座っている。
目の前のテーブルには、マグロと……、タイ、だろうか?それとホタテの刺身。
キャベツと豚の生姜焼き。
具沢山の豚汁。
浅漬けのきゅうり。
デザートらしい、みかんゼリー。
それと何より、炊き立ての米が盛られた茶碗……。
「はぐ、んぐ……、は、はは、は……。こんなに、こんなに美味かったのか……」
「うう、おいしい、おいしいよお……」
俺達は、馬鹿みたいに泣きながら飯をかっ喰らった。
吐く寸前まで食うなんて、学生時代以来のことだった……。
ぽっこりと突き出た腹を抱えながら、俺は、この博士とかいう存在からルール説明を受けた。
聞いた限りでは、かなり公平で、それどころか、上手く使えば限りなく生活が楽になるものだった。
ん?
そういえば、さっきの正義漢さんはどこ行ったんだ?
「ん?お前の喧嘩相手なら、知り合いを呼んでくるとか言って帰って行ったぞ」
「ああ、そうですか」
なら、早めに取引とやらをしなきゃな……。
「取引材料は、あなたが街に配置した物資で、本当によろしいのですか?」
「うん、良いよそれで。でも、俺が配置した物資じゃないもの……、例えば、コンピュータとかなら高値で買い取るぞ。詳しい価格表はこれだ」
渡されたiPadは、取引アプリとやらがインストールされていた。
「……このアプリ、制作に、ゲームスタジオ『スターウェーブ』と『ガンブレスト』とありますが?」
「そうなんだよ!実は、知り合った生存者にいてさあ。こちらから依頼して、作ってもらったんだよ!」
なるほど、な。
「……その人達には、対価として何を渡したんですか?」
「インフラ」
「インフラ……?」
「ああ。無限に水を吐き出す生き物とかを渡してやった」
そうか……、専門技能を使った製品は、極めて高価に買い取りされる、ということか。
それなら……!
「三日……、三日だけ、時間をもらえませんか?!俺、車両整備ができるんです!近くに車両整備所を見つけたんで、そこの車を直しておきますから、それを買い取ってください!」
これが最善のはずだ!
「ほう!お前は、機械工学に造詣が深いのか!」
「はい!工業高校出て、工業大学も出てます!金属加工も行けます!」
「金属加工もか!それは素晴らしいな!刃物とか作れるか?」
「日本刀とかまでは無理ですけど、ナイフくらいなら……。その気になれば、ロングソードとかも作れますよ!」
「おおおっ!ファンタジーか!実に素晴らしい!専門技術によって作られる工業製品には、高値を払おう!それらを本当に作ってくれるならば……、前払いだ」
博士がそう言うと、黒尽くめの女が、ゴムで覆われたガラスの箱を持ってくる。
その中には、見たこともない、ナメクジのような、ウミウシのような、気色の悪い生き物がいた。
「うっ……、こ、これは?」
「これは、『電電虫』……。このように、コンセントを肉体に挿すと……」
うおお?!
通電した?!
「と、まあ、電気が使えるようになる。これを先払いしておくから、『車』を可能な限り用意してくれ。車両は、バイクかトラックだと助かるな。金属加工については、加工が可能な場所は……、ふむ、この製鉄所?と言うところから可能か?」
「そうですね、電力が使える前提なら、どうにか……。ですが、内部にゾンビがいれば無理です」
「なら、まずは車だ。車一台につき、頼れる護衛を一匹やろう」
「は、はいっ!」
お、俺の、俺の技能が必要とされている……!
ずっと、ずっと言われてきたんだ。
お前の代わりなんていくらでもいる、と。
そうか……、今はもう、俺の代わりはいないのか!
「あ、あの……、博士さん?」
ん……、凪だ。
どうしたんだ?
「取引してくださるんですよね?」
「おう、そうだ」
「だったら……、この食料と引き換えに、裁縫セットとかをもらえませんか?」
ふむ……?
こいつ、裁縫なんてできたのか。
「実は、私の実家は革細工のお店屋さんなんです。だから、私も少しは裁縫ができます」
「ふむ……、それで?」
「その、それで……、刃物を作るなら、鞘とかが欲しいですよね?」
「……なるほど!だが、革細工のための裁縫セットは流石に持っていないから、予約ということで良いか?明日、またここに来てくれれば渡そう」
「あ、ありがとうございます!」
寒くて死にそうだが、電気代が怖いのでエアコンを控えなくては……。
で、今は田舎剣士書いてるんですけど……、この前キリのいいところまで書いたから、書く必要はないんだよなあ。
でも今は田舎剣士の波が来てるんだよなあ。やる夫スレで面白い現代ダンジョンもの読んでたから……。
あ、それと、アンケート置いておきます。
読者層について知りたいのでよろしくお願いします。