「なっ、何故だ?!同じ生存者じゃないか!お互い助け合って……!」
「……俺はお前を助けられるが、お前は俺を助けられないだろうが」
「だ、だったら!その女はどうなんだ!その女だって何もしてない!」
「この女は俺の性欲処理役と小間使いだ。お前みたいなキモいおっさんは要らねえんだよ」
「だ、だけど、だが!私は、ここの企業の役員でー」
「あー……、もう良いよお前。……死ね」
「なっ……、待っ!」
駆動音。
俺が改造したネイルガンのモーター音が鳴り響く。
引き金を引く。
風を切って射出された釘は、醜い中年男の額を貫いた。
ネイルガンのスイッチを切り、腰のホルスターに戻す。
「な、何も殺さなくても……っ!」
俺の後ろから、女の声が一つ投げかけられた。
佐竹凪……。
出会った頃は、石鹸の甘い香りが漂う栗毛のロングヘアが特徴の、城木女子附属高校……とやらの制服のブレザーを着た可愛らしい女子高生だった。
今は、大分薄汚れているが。
さて、何だったか?
何も殺さなくても?だっけか?
「はぁ……」
「聖也さん……?」
「お前、まだそんなこと言ってんのか?」
「ど、どういう……、ことですか?」
分かんねえのかよ……。
この世界じゃもう、「優しい性格」ってのは取り柄じゃなくって弱点なんだがな。
「あのおっさんを助けたとして……、お前が面倒をみたのか?」
「そ、それは……」
「ただでさえ食えてねぇのに、お前は自分の食う分を削って、あのおっさんに餌をやんのかよ?」
「で、でも!聖也さんなら、助けられたじゃないですか?!」
こいつ……!
良い加減にしろよ!
「助けてどうするんだよ!足手纏いのおっさんを連れて行けってか?!あのおっさんを守るために、命をかけろって言うのかよ!」
「あ……!」
「なんとか言えよ……!大体にして、俺に抱かれるしか能のないお前が、何で俺に指図できるんだ?!あぁっ?!!」
「ご、ごめん、なさい……」
チッ……、無駄にキレちまった。
体力は温存しなきゃならないのに……。
「……ほら、行くぞ」
「は、はい……」
朝。
墨田区の端の方にあった、小さな集合住宅の三階で目覚める。
昨日の夜、ピッキングで開いたんだ。
大学の頃、鍵屋でバイトしていた経験が役に立ったな。
思えば、あの鍵屋もブラックだったな……。
就職先の金属加工会社もブラック、転職先の車両整備会社もブラック。
世の中はクソだ。
女子高生を性奴隷にして飼いながら、ムカつく奴をぶっ殺せている今の方が幸せかもしれねえな。
こんなことになったから、上司は皆殺しにしてやったし……。
ああ、あれは気持ちがよかった……!
なんなら、前の会社に向かってみるか?
まだ前の上司が生きていたら、殺してやる……!
……いや、無駄な体力を使う必要はないか。
それに、あんな無能ども、とっくにくたばっているだろうよ。
ああ、やめだ、やめ。
くだらねぇことを考えるのは、無駄だ。
とっとと、今日の飯を探しに行くぞ。
最終目標は、車両と、大量の水と食料を手に入れて、ゾンビがいなさそうな田舎の方に逃げることだ。
凪と一緒にな。
車両はその辺にあるが、もうバッテリーが上がっちまっているし、街中で車の駆動音を響かせたらゾンビ共が寄ってきやがるだろうからな……。
もちろん、スターターは持っているが、良い車も見つからん……。
バッテリーを直しても、どこも事故車ばっかりだ。
まあ、何か考えなきゃな。
朝起きて、コンビニを見つけた。
コンビニはもう、生鮮食品は腐り、強烈な腐敗臭を漂わせているだろう。
とは言え、バックヤードに水や食べ物は残っているはずだ。
近くの集合住宅の住人達が荒らし回ったと、この辺で拾ったメモ帳に書かれていたから、望み薄だが……。
それでも、コーヒー缶の一本、カップ麺の一つでもあれば、行く価値はある。
「あ、あのっ、聖也さん!」
「どうし……、なんだありゃ?」
コンビニの看板。
白と青の、ミルク缶の看板。
その、白い部分に、真っ赤なペンキで『FOOD』『WATER』『MATERIAL』と書かれている……。
まあ、まず、疑うのは罠。
昨日、軽く覗いた限りでは、こんな落書きはなかった。
「凪!盾を構えろ!」
「は、はいっ!」
凪は、崩壊した警察署から拾ってきたポリカーボネートの盾を構える。
俺は、改造ネイルガンを起動して、構える。
ゆっくりとコンビニに入る……。
腐敗臭がしない?
腐った食べ物が片付けられているのか?
棚は……、『覆面ライダーブリード』?あー、特撮ヒーローか。ライダーの一番くじが手付かずで並んでいる。
本棚も異常なし。カップ麺やジャーキー、缶詰などは全部持ち去られているか……。
生鮮食品や弁当のコーナーには……。
「……あ?こりゃ、どういうことだよ?!」
生鮮食品の成れの果ての、腐った生ゴミがあるはずが、それらは綺麗に片付けられており……。
くすんだ透明なプラスチックのボトルと、瓶詰め、紙に包まれた何かがずらりと並んでいた……。
その他にも、黒い瓶や、折り畳まれた布と革、紐に、鉄の棒なんかがあった。
まず、俺は、プラスチックボトルを手に取った。
蓋は、回転して開けるキャップだが、硬いゴムでできていた。
ここにあるものは、工業製品というより、何故か生物的な……、ランダムさを感じる。
事実、ゴムキャップは、しっかりと密閉できる機能性はあるが、形はまちまちだった。ボトルの方も、バリが多く見られる。
しかし……、半透明なボトルの中には、何か液体が入っているのは分かる。
毒物だと怖い……、外で開けてみよう。
外でボトルを開ける。
匂いは……、しない。
地面に溢す。
……酸とかではない、か?
手に引っかける。
水……、水じゃないか、これは?
一口、口に含む。
……、異常なし。
俺は、喉を鳴らして水を飲んだ。
もしかしたら、水じゃないかもしれないが、そうだったとしても、水分を取らなきゃまずいんだ。
どの道死ぬなら、可能性がある方に賭ける。
「……っぷはあ!うめえええっ!!!」
久々に、こんな大量の水を飲めた。
喉が一気に潤う。
物欲しそうな顔をしている凪にも、半分ほど残ったボトルを手渡して、飲ませる。
「美味しい!水、綺麗な水だ!」
俺は、急いでコンビニに戻り、物資を検分した。
ゴムキャップのボトルは全部水で、合計で20Lはある。
瓶に入ってるのは、度数が高いアルコール。
資材はどれも使えるし、食料も全て食えるものだ。
俺達は、乾パンやチョコバーなどの保存が効きそうな食料と、水のボトルをバックパックにパンパンに詰めた。
そして、余った水で、ここにある布を濡らし、身体をよく拭いた。
アルコールも、消毒用に一本だけ持っていく。
持ちきれない食材は、ここで食べた。
フルーツの瓶詰めと、野菜のピクルスを二人で分け合って食べた。
久しぶりに食った野菜と甘いものは、最高の味だった。
全然書けない……。
書く速度十倍になってくれ……。