蛇神神社に向かう。
蛇神神社には、ヒューちゃんらしき存在の目撃情報があったからだ。
さあ、行ってみよう。
と、思ったんだが……。
「おい!待てよ!」
人間の雄個体に通せんぼされた。
そいつは、金髪の……、ツーブロックってのかな?それで、見せ筋で固めた全身にトライバル柄の入れ墨がある男だ。
ボク知ってるよ、NTRもののエロ同人誌でよく出てくる人だよね。
こう言う見た目の人間って大体ロクでもない奴だよなー。
肉体的には、肥大化した全身の筋肉と、特に右側肩部筋肉が大きく発達しているな。腰部の骨に強めの負荷が定期的にかかってるのも分かる。
重いものを運ぶ仕事をやってるんじゃないか?
「で?何だ?」
「そ、そのっ、厚かましい話だけどよ……、く、食いもんを分けてくれねぇか?!」
あ、そんな程度のことか。
NTRエロ同人誌の竿役みたいな顔だし、そういう話なのかなーと。
まあ、流石に、人外の生物兵器女を寝取ろうなんて考える奴はいないか。
そもそも、寝とっただ何だみたいなことができる状況ではないからな。
俺が呆気にとられていると、男は何を勘違いしたのか、土下座し始めた。
おぉ、土下座。
リアルでは初めて見るな。
「この通りだ!頼む……!嫁と子供が腹空かして待ってんだ!頼む!!!」
なるほど、嫁と子供が。
「物資はくれてやっても良い。だが、どこに隠れてるんだ?」
「このマンションだ!」
「じゃあ、実際に、妻と子供とやらを見せてみろ」
別に、多少物資をくれてやるくらいは構わないのだが、騙し取るつもりなら許さない。
別に善人は救われるべきだ!などとは思わないが、とにかく俺を騙そうとする奴は許さん、殺す。それだけだ。
「分かった、呼んでくる!だから物資を!」
そう言って、近くの、大分古い集合住宅の一室から、茶髪の雌個体一人とこましゃくれたメスガキが現れた。
「おじさん誰?」
「コラ!模花(もか)っ!お兄さんでしょ!」
あら、生意気。
でも、人間のメスガキは守備範囲外なんで。
「うるせーぞメスガキ。うりうり」
「うにゅー?!」
頬をつねって遊ぶ。
「ほら、乾パンならあるぞ。食え食え」
「ハンバーガーとかないの?」
「模花っ!」
「はーい!分かってるって!冗談だよ、ママ」
乾パンを食わせて、水を飲ませた後に……。
「じゃあ、とっとと避難しろよ」
と俺が言ってやる。
「避難ったって、どこに……」
「あっちの方に警察署があったぞ。そこで避難民が……」
「け、警察署は、ちょっと……」
と男が言った。
「何でだ?」
「俺、あそこの警察署の警官に、昔、何度かパクられたことがあって……。多分、信用してもらえねぇよ……」
知らんがな。
「自業自得じゃん」
「待ってよ、龍斗は悪くない!私に絡んできたチンピラをノシちゃって捕まったんだから!」
と、雄個体の番が言った。
「やめろって、綾香。もう過ぎたことだし……、カッとなって手を出した俺が悪ぃんだよ」
ふーん。
まあ、喧嘩っ早いが悪人ではない、ってところか。
良いんじゃない?そういうキャラもいるでしょ。
そう、関係ないね。
「で?じゃあどうすんだ?このまま、ここで死ぬまで隠れてるか?」
「そ、それは……」
金髪の雄個体が悩む。
と、そこに……。
「ちょっとおじさんさあ、言い方がキツくない?そういうのは良くないよ」
と、メスガキが言ってきた。
何だこいつ、度胸あるな。
明らかにヤバそうな存在である俺に、よくもまあ意見できるもんだ。
見たところ、十二歳ほどか?
分別もつく時期だろうに。
親が低脳だと子個体も低脳になるもんなのかね?
「パパは頑張ってるんだから、虐めないでくれる?」
おっ、生意気ー。
「お、おい!模花!マジでやめろって!」
金髪の雄個体が子個体を叱る。
「おじさん、鬼殺の刃読まなかったの?強い人は弱い人を守ってあげなきゃならないんだよ!」
「まあ、読んだけどさ……。俺はどっちかって言うと、鬼側の存在だぞ」
「は?人間でしょ?良いから助けてよ!」
うーん……。
「キーちゃん、スーちゃん、どうする?」
「カワイソウダヨ、助ケテアゲタラ?」
「急グ旅デモナイデショ?ノンビリデイイワ」
んー、まあ、二人がそう言うなら。
この三人、海堂一家を連れて、安住の地を探す。
とは言え、海堂一家も全くのノープランって訳じゃない。
「良いっすか、博士さん。この辺りには、大型のホームセンターがあるんすよ」
と、歩きながら、地図を見せてくる龍斗。そう、こいつは龍斗って言うんだってさ。
「そうかい」
「っす。この辺りは、えーと、災害計画都市って言って、なんか凄いらしいんすよ」
「具体的に何が凄いんだよ」
「えーっと、上下水道の設備が丈夫で、災害時でも水が出るらしいっす。それと、すげぇソーラーパネルがたくさんあって、ちょっと曇りな感じの日でも電気が使えるらしいっすよ」
へー。
「今向かっているホームセンターは、設備があるんだな?」
「そうっすね。まあ、俺らが住んでたのは古い安アパートだったんで、そういう設備はなかったんすけど、この街の大きな施設には大抵、なんかそういう設備があるそうっすよ」
「へー、そうなのか」
「ってか、何で知らないんすか?」
「いや俺、この街に来てから、研究所を出るのはほぼ初めてなんだよな」
そんな話をしつつ、一路西を目指す。
「因みに、俺達に対するツッコミとかないのか?」
「え?博士さんはあれっすよね?最近流行の異世界転生者……」
「違うんだよなあ」
なろうやカクヨムでクソ小説を見つけた時、「俺も作家になれるんじゃねーか?」と自惚れることがある。
が、それでも、書籍化する人はやっぱり何か持ってるんだろうな。
俺とは違うんだろう。