ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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そろそろ暖かくなるんだっけか?



43:道ゆけば

王都へ向けて出発!

 

……とりあえず、キャンピングカーはオート運転で。

 

歩きの人間に合わせて、時速数キロで二ヶ月半もハンドルを握るのは嫌なので、オート機能をつけさせてもらった。

 

なあに、この世界にもゴーレムがいるんだから、馬車のゴーレムですと言い張らせてもらうさ。

 

……まあ、世界観にもよるが、ファンタジー世界にSF的存在がいることは割とよくあるのでセーフだろう。

 

パスファイなんとかのテクニックリなんとかとか。

 

変愚なんとかというゲームにはサイボーグから吸血鬼まで幅広く出てたなあ。

 

eloなんとかでは、レールガンとか。

 

つまり俺も無罪だ。

 

どうせあれでしょ?

 

その内、古代科学文明のなんちゃらかんちゃらみたいなのが攻めてきたりするんでしょ?

 

俺は詳しいんだ。

 

ってか、その辺はほら……、GMの匙加減だからね。

 

この世界のGMのお気持ち次第で、敵モンスターがゴブリンからマシンガンを携えた兵士に変わるだけよ。

 

どの道、俺は死なないから……。

 

 

 

人が歩くくらいの低速でゆったり走行するキャンピングカー。

 

バッテリーが上がりそうだが、そんなものは搭載していないのでセーフ。

 

そんなキャンピングカーの上には、展開式の柵と屋根があり、そこで俺とアデリーンは見張りをしていた。

 

見張り、と言っても、そう本格的なものではない。

 

優しい香りを振り撒くセイロンティーを傾けながら、焼き菓子を楽しみつつ、というノーブルなティータイムの最中に、暇潰し半分に景色を見ているだけだ。

 

こんな舐めた真似が許されるのか?

 

許されるのだ。

 

まず第一に、この辺の道はかなり見晴らしがいい。

 

辺境の街『ボロネスカ』では、低ランク冒険者向けにやたらと「草むしり」の依頼が出ていた。

 

俺は、「何が嬉しくて異世界でボランティアせにゃならんのだ」とスルーしていたが、あれは、街道の見晴らしを良くするためだったのだ。

 

背の高い茂みには、モンスターや盗賊が隠れてしまうから、それを防ぐために道の近くの草を刈っているってこと。

 

そして第二に、この辺は人里が近いから、そうそうモンスターも蛮族も、盗賊も出ない。

 

ボロネスカに前に出てきたあの傭兵団が壊滅してから、辺境は驚くほどに平和だ。

 

そもそも、平和な道のど真ん中に、何十人もの盗賊団が出るとか、普通に考えてあり得ないんだよな。

 

盗賊団ったって人間の集団なんだから、食い物、水、衛生、娯楽、色々必要だ。

 

そんな大集団がいきなり街道のど真ん中にポップするとかあり得ん。

 

そもそも、この商隊の二十人ほどの護衛を正面からぶち殺して荷物を奪えるなら、そんな精鋭兵団は普通に働いた方が安全だし儲かる。

 

ゲームのような世界だが、ゲームじゃないからな。

 

道理に反したエンカウントはねーよ。

 

そして最後に……。

 

俺もアデリーンも、リラックスした状態だからと言って、敵を見逃すほどに盆暗ではないってことだ。

 

以上、複数の理由から、俺達はゆったりと息抜き半分で見張りをしている。

 

「……見張りなのに、こんなことしていて良いのかしら?」

 

物憂い気にそう言うアデリーン。

 

その横顔は、歴史に残る絵画よりもよほど美しい芸術だ。

 

かわいいなとか、エロいことしたいなとか、そう言う邪念が湧くよりまず先に、その美しさに心奪われる。

 

女の美しさも当然あるが、それ以前に、生きた彫刻というか、芸術品と語り合っているような不思議な気持ちになるな。

 

「どうしたの、シバ?」

 

「ああ、すまん。あんまりにもお前が美人だから、見惚れていた」

 

「にゃっ……?!も、もうっ!」

 

あらかわいい。

 

で……、アデリーンは、こうしてキャンピングカーの上でティータイムしながらの見張りに、罪悪感を感じていると。

 

「まあ確かに、気持ちは分からんでもないが……」

 

アデリーンのロウフル・グッドな思考回路は、聖騎士ロールプレイの経験がある俺には分かる。

 

ロウフルの好む平等という奴だろう。

 

ぶっちゃけ反吐が出る。

 

が、しかし、俺は大人だし、かわいいアデリーンに喧嘩売ってもしゃあないんで、妥協点を探す。

 

「じゃあ、休憩の時に、簡単な菓子と茶でも配ろうか」

 

「ええ!そうしましょうか!」

 

よしよし。

 

「……その、気を遣ってくれて、ありがとう」

 

んー?

 

「いやいや、アデリーンの考え方にも一理あるからな」

 

「貴方は、気に入った人は可愛がるけど、関係のない人には冷淡よね。そこにつけ込んだみたいで、ちょっと悪いわ」

 

「構わんさ。連中も真面目に働いてるんだ、多少は良い思いをしたって良いだろう」

 

もし、アデリーンが、俺のムカつく相手に情けをかけろと言ってきたならば断っていただろう。

 

だが、今回は、真面目に働いている護衛隊に餌やりをしろとのことだから、俺としては受け入れても問題ない。

 

それに、これから二ヶ月半の行動を共にする職場の人に差し入れくらいはするだろう、普通。

 

俺の人格はまあそこそこに歪んでいる自覚はあるが、少なくとも、知らない人に嫌味を言うような変な趣味はないのだ。

 

他人よりも立場が上で、優越感に浸りながら生きるのは大変に気持ちいいが、自分から他人を煽って「羨め!」と強要するのはなんか違くない?

 

敬意を表されると自尊心が高まるが、敬意を表しろと強制したとして、それで満足できるだろうか?って話だ。

 

そんな訳で、余分なくらいに作ったクッキーやチョコバー辺りを、茶葉と一緒に配れば良いだろう。

 

幸い、近くの川の水は、煮沸すれば飲めるらしいし、その時に茶でも淹れてもらって。

 

さあさあ、そろそろ昼が来る。

 

時計を持つ俺は時間が分かるが、この世界の人達の腹時計は中々に正確だぞ。

 

時計が十二時を少し過ぎた辺りで、商隊の先頭からカランカランと甲高い金属音。

 

休憩を合図であるベルの音だ。

 




肉が食いてえ。

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