ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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暑かったり寒かったりで困るよ。


4:君は少女を害してもいいし、しなくてもいい

俺は、榛葉の持つ様々なスキルを駆使してゴブリン三体を一瞬で斬殺した。

 

ちょっと考えたが、やはりこの世界は『深淵のアルギュロス』ではない。

 

『深淵のアルギュロス』の戦闘はDEX順によるターン制だ。

 

1ターンでゴブリン二体を仕留めてから三体目に牽制で魔法をかけるとか、そんな欲張りセットは不可能だった。

 

しかし、この世界ではそれができる。

 

つまり、システムが根本からして違うのだ。

 

そもそも、ゲームの世界であるかどうかすら……。

 

まあ、Cogito ergo sumって言うし、あまり世界について考えておくのはやめておこう。

 

『セカイ』ついて考えるのは中学生まで、大人の俺はあるがままを受け入れますよ、と。

 

 

 

では、とりあえず……、人里を探そう。

 

いかに榛葉が半神でも、食事などは必要だろうからな。

 

この世界がどんなところなのか?とか、俺のアイデンティティがどうこうとか、そういうのは後回し。

 

とりあえず、今は生き残ることだけを考えるべきだ。

 

……まあ、食事と水と住処は問題ないんだが。その手のマジックアイテムは探索者の必須アイテムだ。

 

とりあえず、人に会いたい。話はそれからだな。

 

五感をフル稼働させて周囲を観察する。

 

まず、現状把握から。

 

ここは森の中。

 

だが、鬱蒼と言えるほどに深い森ではない。帰り道さえ分かれば子供でも来て良いくらいだろう。

 

ゴブリン達の死体はそのまま残っている。このまま腐敗して土に還るだろう。倒したモンスターは消えてドロップアイテムを残す……、とかではないみたいだ。死体を斬り刻んで検分したが、身体のどこかに「魔石」のようなものがあるとか、そんなことはなかった。普通に死体だ。

 

傾斜は?ない、平地だ。

 

木の密度は?林ってところだ。女の胴くらいの太さの木々がちらほらと見える程度。木漏れ日は眩しいくらいで、木の密度は高くない。

 

周囲の木の種類は?落葉樹。

 

落葉樹ってことは、冬、寒くなると葉を落とす木が多いということになる。つまりそれは逆説的に、冬に寒くなるということだ。

 

となると、この辺りの気候は温帯から寒帯と推測できる。

 

木の実が落ちているのを見つけたので、《看破》の魔法を唱える。

 

「Πες μου τις γνώσεις σου」

 

結果は害なし。

 

表面を拭いて齧ると……。

 

「これは……、杏か」

 

杏の旬は初夏なので、今は六月か七月ってところか。

 

そして……、木の房に反して、落ちている実が少ない。

 

つまり、何者かが実を回収しているということだ。

 

杏の実の匂いは、酸っぱい味に反して非常に甘そうな良い香りだな。酸っぱいから、基本的にはジャムなどにされることが多い。

 

杏の実を回収した何者かは、ここを通ったはずだ。匂いが残っている。

 

ゴブリンとの戦いで場が荒れたため、足跡は分かりづらくなっているのだが、こうして匂いを追えば……。

 

「……いたな」

 

杏を拾う少女を見つけた。

 

金髪をぱっつんとミディアムボブにした、柔らかな印象の美少女で、年齢は十三歳前後。

 

小柄で色白だが、健康的な肉体を持っているようで、杏がたっぷり入った大きめのカゴを持ち上げている。

 

瞳の色は透き通るような空色をしていて、他者の心を落ち着けるような優しげな顔つき。

 

《看破》……。

 

脅威は感じられなかった。

 

魔法でも、技能でも、直感でも、一切の脅威が感じられない。

 

だからと言って全幅の信頼は置けないが、とりあえず信用してもいいだろう。

 

俺は、剣を《ボルボロスの宝物庫》にしまってから、すぐ背後まで近寄った。

 

「っ……?!誰ですか?!」

 

小鳥の鳴き声のような高めの声。イメージ通りの可愛らしい声だ。過度な萌え声ではない辺り、洋物のTRPGっぽい。

 

「待ってくれ、危害は加えない」

 

俺は、両手を上げながら女の子に近寄る。

 

「あなたは……?」

 

「俺はシバ。道に迷った人間だ」

 

「迷子さん……、ですか?」

 

「ああ、とりあえず、近くの人里まで案内して欲しい」

 

俺は、素晴らしく美しい外見を利用した。

 

銀髪の美男子が優しい声で語りかけるのだ、女なら誰でも靡く。

 

「は、はい!分かりました!」

 

少女はかっと頬を染めると、ぎこちない動きで村へ向けて歩き出したようだ。

 

移動の途中で、二、三質問をする。

 

「お前の名前は?」

 

「ノ、ノースと言います!フィーユ村のノースです!」

 

苗字とかはないのかね?ヴィンチ村のレオナルド、みたいな感じの名乗りが普通なのか?

 

「ノースか、いい名前だ。俺は東の方に住んでいたんだが、冒険者になるために家を飛び出してな……」

 

と、カマをかけてみる。

 

「冒険者ですか?あの、モンスターを退治したりする?」

 

おし!

 

つまりは、冒険者がモンスターを退治するファンタジー世界であることは確定だ!

 

「ああ、一応だが、それなりに戦えるつもりだ。魔法なんかも少しはできるぞ」

 

「えっ!魔術ですか!それは凄いですね!」

 

魔法、否、魔術は存在している。

 

そしてこれは察するところに……。

 

「まあ、大したことはないさ。俺くらいの魔術師なんて、腐るほどいるだろうよ」

 

「そんなことないですよ、魔術師なんて、大きい街でも十人に一人いるかいないかなんですから」

 

ほらな、やっぱり。

 

魔術師は少ないんだ。

 

「それにしても、お前は働き者だな。まだ若いのに食料調達とは」

 

「むぅ……、子供に見えますか?私はもう十四歳なんですよ?あと一年で成人です。それに……」

 

「それに?」

 

「働き者なんかじゃありませんよ。村の他の子は、もっと働いてます。私の家は宿屋なので、少しだけ裕福なんです。だから、たくさん勉強もできて、僧侶見習いにまでなれたんですよ」

 

なるほど、中世レベルの世界で、子供も労働力にしないと生活できない、と。

 

大体分かった。

 




レオ
  パ
   ルドン

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