ラダムの街を、素晴らしく美しい異形と三人の少女が歩く。
薄暗い夕闇の最中でも、一筋の雷光のように輝く男は、非常に目立っていた。
実際、この異形の背中から生える翅は、月光を折り重ねたような光でできていた。
「シャー君の翅、綺麗だね!」
そう語りかけるのは、ピンクブロンドの少女。
異形の男の片手を握り、寄りかかるようにして甘えている。
「本当に凄いね……。それに、アウターゴッドなんて種族の人に会うのは初めてかな」
ミルクティーのような淡いホワイトの髪をした少女もまた、異形の男の腕を抱きながら歩っていた。
「そうね、珍しいわ。ま、夜もこうして照らされてるから、ランタン要らずで助かるわね!」
赤毛の少女は、そう言いながら異形の男の触腕を握っていた。
「そうか」
そして、異形の男は、幼いながらも美しい三人の少女に囲まれながらも、興味なさげに浮遊していた。
シャールノスである。
一見、冷たい対応のように見えるが、別に性欲がない訳でも女嫌いな訳でもないため、自分の邪魔にならない程度には可愛がってくれる。
こうしてくっつかれている程度で怒ったりはしない。
「あっ!ダークフラグメント!」
そして、ランダムダンジョンにて、目的の品である《★ダークフラグメント》を見つけるシャールノス一行。
炭よりも遥かに黒いダイヤモンドのような見た目のダークフラグメントからは、紫色のあからさまに邪悪そうなオーラが渦巻いていた。
「待ってシャー君!ダークフラグメントを封印するのです!」
そう言って、桃色の宝玉の付いた杖を振りかざすこのえだったが……。
「なあ、この世界って、『固定アーティファクトは再生成される』のか?」
と、シャールノスに聞かれて腕を止めた。
「……へ?どういうこと?」
「この、《★ダークフラグメントNo.7》を壊すのは駄目なのか?壊したら再生成されるのか?」
「……こ、壊す?」
そう、シャールノスの考えは、わざわざ封印などという面倒な真似をせずとも、破壊してしまえばいいのでは?ということ。
「シャールノス、駄目なのよ」
横から口出ししたのは、『獅煌纏』の異名を持つ魔法少女、やすはだった。
「何故だ?」
シャールノスが聞き返す。
「ダークフラグメントは、私も破壊しようとしたけれど、壊せなかったの」
もちろん、やすはも馬鹿ではないので、破壊は試していた。
だが、ダークフラグメントは、やすはの最大魔法を以ってしても傷一つつけられなかったのだ。
「なるほど。では、変質は試したか?」
「……変質?」
やすはが、そう聞き返すや否や、シャールノスは懐から『鍛治台』を取り出した。
「固定アーティファクトだろうとなんだろうと、『武器進化』の素材にしてしまえば良いだろう?」
「武器進化って……、何?」
「まあつまり、こういうことだ」
『稲妻のクロムグレートソード』
それは、斬撃属性のダメージを20〜65ポイント与える
・それは、電撃属性の追加ダメージを14〜32ポイント与える
・それは、『両手持ち』の時に20%の確率で敵の攻撃を防御する
・それは、知能を6上げる
・それは、筋力を5上げる
この、シャールノスのメインウェポンに……。
《★ダークフラグメントNo.7》
それは、邪悪なる魔導王の力を宿した欠片だ
・それは、使用者の血を吸う
・それは、魅力を50下げる
・それは、『暗黒』『混沌』系統の魔法の威力を50%向上させる
この、ダークフラグメントを……。
混ぜる。
「「「きゃあっ!」」」
シャールノスが、自分のグレートソードにダークフラグメントを乗せて、鍛治ハンマーで叩くと、白い光が周囲を包む。
そして……。
『黒雷のクロムグレートソード』
それは、斬撃属性のダメージを28〜80ポイント与える
・それは、電撃属性の追加ダメージを18〜38ポイント与える
・それは、『両手持ち』の時に20%の確率で敵の攻撃を防御する
・それは、知能を10上げる
・それは、筋力を10上げる
・それは、『暗黒』『混沌』系統の魔法の威力を50%向上させる
グレートソードは、進化した。
アイテムAにアイテムBの良い部分をコピーする。
これが、武器進化である。
「「「……ええーっ?!!!」」」
三人の魔法少女は、目を見開いて驚く。
あれほど厄介な問題が、一瞬で解決したからだ。
「な、ななな、何よそれーっ!」
「武器進化だ。特定の武器に、固定アーティファクトか、もしくはランダムアーティファクトを溶かすことができる」
しかし、付与できる特性は最大で十二種類までで、アーティファクト……、レアアイテムを消滅させることになるので、コスパも悪い。
「ダークフラグメントが、き、消えちゃった!」
驚くこのえに、シャールノスは訊ねる。
「ダークフラグメントの気配は消えたか?」
「ふぇ?!あ、はい!消えたのです!」
このえは、何が起こったのか理解できずに、唖然としていたが、反射的にそう答えた。
すると……。
「あ、あんた……!」
肩を震わせて俯くやすはが、シャールノスの腕を掴んだ。
「あんたねぇ……!」
そして、思い切り腕を引っ張り。
「ほんっとうに、ありがとう!!!」
下がったシャールノスの唇に思い切り口付けした。
30秒にも渡る長いキスの後、満面の笑みを浮かべ、一言。
「最高よ、あんた!愛してるわ!」
ダストール一族を裏切り、正義のために戦うやすはからすれば、この行いは最高の善行に見えた。
例え、ダストールを封印できたとしても、今度はその封印を守るために戦い続ける宿命であると、自らの未来を悲観していたやすは。
だが、その呪縛から解き放ってくれる男が現れたのだ。
そう、まるで、救済もの二次創作小説のように。
あまりにも都合の良いメアリー・スーが。
無論、この世界を生きる彼女達魔法少女にとっては、自分達が、ゲームにプログラムされた運命に沿って動くNPCだなどと思ってはいない。
ただ……、シャールノスは、無邪気に喜ぶ彼女達を哀れに思った。
確かに、彼女達はNPCではなく、紛れもない血の通った人間ではあるが、その運命はゲームという枠に囚われてしまっている……、と。
まあ、実際問題、彼女達が『武器進化』に気づかなかったのはゲームの都合ではなく、武器進化のような『鍛治』スキル1000以上を要求される神業の技能を持つ鍛治師は、ラダムどころか世界にも数人しかおらず、彼女達は存在を知らなかったと言うだけの話ではあるのだが。
要するに、シャールノスの技能が異常なだけである。
今、TRPGものを書いてるんですけど、やっぱり楽しいわ。
D&Dみたいな世界観は、書いてて楽しい。