『ナターリア、良い、よく聞いて。日本にお引越しすることになったわ』
『エッ、本当?!』
『そうよ、転校とかの手続きをして、荷物を送ったりしなきゃならないわ。ナターリアも荷物をまとめておくのよ』
『ウン、分かっタ!!』
『ごめんね、ナターリア 。急に転校だなんて……』
『ダイジョーブ!友達とはスクイプとかで会えるカラ!』
『そうかしら?それじゃあ、荷物はこれにまとめてね。はい、ダンボール』
ナターリアは、リオデジャネイロに住んでいる、普通の女の子、だと思う。
ほどほどに勉強して、結構ダンスの練習を頑張って、沢山好きな音楽を聴いて、それなりにゲームをやり込んで、割と漫画を読んで……。
そうやって過ごしてきた。
そして、ちょっとだけ……。
「シンクロー❤︎シンクロー、カッコイイヨ❤︎好き、好きっ❤︎❤︎❤︎」
憧れの人を想って、その、ちょっと、シちゃうことがある。
それだけの、普通の女の子だ。
ある日、ママが、お仕事が上手くいったから、家族みんなで日本にお引越しすると話された。
お引越し……。
日本。
憧れの人、大好きなあの人、シンクロー・カザミがいる国。いつか行きたいと思ってた。
実は、シンクローには、何年か前に会っているんだ。
数年前に開催された全国ツアーで、リオデジャネイロにも来てくれた。
その時に、一度会っている。
キスもされちゃったんだよ?えへへへへ。
シンクローは覚えてないかもだけど、日本に来たら是非会いに来て欲しいって言われたことがあるんだ。
あの時にもらった名刺、まだ持ってる。
会いに行ってみようかな……。
『さあ、お引越しよ、ナターリア』
日本に来て、少し時間が過ぎる。
日本は涼しいなー、とか思いつつ。
少しの希望を持って、名刺の住所へ行く。
家の中へは、名刺を見せれば簡単に入れてもらえた。
セキュリティ?とか大丈夫なのだろうか?
シンクローはお金持ちなのに。
でも、ニュースとかを見た限りでは、シンクローは恵まれない子供達に……、みたいなのには絶対に募金をしないけれど、才能があるのにお金がなくて勉強ができない……、みたいな人や、技術力はあるけどお金はない……、みたいな会社に対しては多額の投資をしているみたいだ。
シンクローは誰かに褒められるためにお金を使うんじゃなく、徹頭徹尾、自分が好きなものにお金をかけたいんだそうだ。
そもそも、お金にはあんまり頓着していないらしく、別に狙って金持ちになった訳じゃない……、とも、雑誌のインタビューで言っていた。
つまり、シンクローは好きに生きているだけ、なんだね。
「コンニチハー?シンクロー、いますカー?」
あっ……。
窓から漏れる優しい光を浴びる、黒髪の美男子。
絵筆を置くとこちらを向いた。
「アッ……、シンクロー!」
「おや、ナターリア」
「シンクロー……!ナターリアのこと、覚えててくれたノ?!」
「もちろん、美人の顔は忘れないんだ」
シンクローは、ワタシのこと、覚えててくれた!
ワタシは思わず、シンクローに抱きついてしまった。
「ダイスキ!」
「おー、俺も好きだよー」
シンクローは女に抱きつかれたのにも関わらず、気持ち悪がったりせずに優しくワタシを受け止めて、ぎゅっとしてくれた!
「ホント?!じゃあ、これって、ソーシソーアイってやつだナ?!」
「そうそう、だからナターリアは俺の言うこと聞いてくれるよね。じゃあほら、アイドル、やらない?」
え?
「アイドル?」
「楽しいよ、やろうよ、ね?」
シンクローが百万ドルの笑顔で告げる。
よく分からないけど、シンクローの頼みなら何でも聞く!
「ウン!」
シンクローがやれって言うなら何でもやるよ!
346プロダクションってところで、お母さんと契約書にサインして、正式にアイドルになった!
アイドル……、少なくともダンスは得意だよ!
ダンス用のジャージに着替えて、レッスンルームでシンクローにダンスを披露!
……レッスンルーム、広いなあ。シンクロー、お金持ちなんだなあ。
「おお、ダンスは上手だね!その調子でトップアイドル目指して頑張ろう!まずはレッスンだ!」
「そのっ!ナターリアが頑張ったラ、その……」
「良いよ、何が欲しい?」
「ナ、ナターリアと結婚シテ!!!」
騒然とする周りの人達。
でも、こう言うことははっきりと言わなきゃダメだと思う。
好きって気持ちは抑えられないから……。
「んー?ああ、良いよ、トップアイドルになったら結婚しよう、ナターリア」
「ワーイ!」「「「「えええええーーー!!!!」」」」
「ず、ずるい!そんなこと言ったら私も!私も新九郎さんと結婚する!」
「私も!」
「私だって!」
他のアイドル?の女の子達も便乗してきた。
むっ、ライバル?
「良いよー、みんな頑張ってトップアイドル目指そうねー」
……シンクローは全員をお嫁さんにしてくれるのかな?
「ナターリア、頑張ル!お嫁さんにナル!」
「おー、頑張れー」
「「「「私達もトップアイドルになったら、新九郎さんと結婚したいです!」」」」
「良いぞー、頑張ってー」
ンー?
シンクロー、安請け負いしちゃって大丈夫なのかな?
レッスンルームでの軽い能力確認が終わると、さっとシャワーを浴びる。
汗かいたままシンクローの前には出れないもん……。
特に、日本人は綺麗好きで毎日お風呂に入るって聞いたから、ワタシも綺麗にしておかなきゃ。
シンクローにクサイとか思われたら……、二度と立ち直れないと思う。
「シンクロー!」
「っと、ナターリア、シャワーを浴びてきたのか?」
「ウン!ナターリアは綺麗好きだゾ!」
「どれどれ……?」
シンクローはワタシの首筋に鼻を近付ける。
「ひゃ、あん❤︎」
「おお、良い匂いだな」
シ、シンクロー……❤︎
女の子の匂いを急に嗅いでくるなんて……、刺激的、だね!
「く、クサくなイ?」
「良い匂いだよ、もっと近くにおいで」
「あ、んっ❤︎」
シンクローはワタシを抱きしめて、匂いを嗅いできた。
「ナターリアはお日様の匂いがするね」
「お日様、太陽?」
「そうだよ、ナターリアは俺の太陽だ」
「ーーーッ❤︎」
ワタシ、シンクローの太陽?
シンクローの太陽になれる、かな。
むしろ、ワタシにとって、シンクローこそが太陽みたいな人だよ?
シンクローは、たくさんの人の太陽になっている。
シンクローが描いた本やアニメ、ゲーム、映画、ワタシはやったことがないけど、ギャンブルや風俗まで。
彼は、世界の『娯楽』を支配していると言われている。
彼のおかげで、明日への希望を持てた……、そんな人が沢山いる。
シンクローこそ、みんなの太陽だ。
「それじゃあ、頑張ってトップアイドルになってね、俺の太陽さん」
「……ウン!」
でも、ワタシ、シンクローがそう言うなら。
太陽にだってなってみせるよ!
ナターリアは天真爛漫なので陰湿なエロはない。