全く、つまらない理由だ。
「君に、君の手をこれ以上汚して欲しくない!」
なんだ、それは?
手を汚す?
「他のクリーチャーは殺しても良いが、人型クリーチャーは殺してはならないのか?」
「問答をしているんじゃない!君は……、君は人を殺したんだぞ?!」
なるほど。
どうやらまだ、倫理観が日本人のままのようだ。
「それがどうした?」
「なっ……?!」
「力とは、屍山血河の頂にあるものだ。それに……」
「君が人殺しになるくらいなら、力など……!」
うーん、そんなに非道でもないのだが。
むしろ、盗賊退治は世のため人のためになる善行なのだが?
重く捉え過ぎだな。
「それに、この世界にいるのは確かに人間だが、ここは人間を殺すのが当然の世界だ。早く適応しろ」
俺はそう助言した。
実際、対人戦などこれからいくらでもあるのだから。
「適応だと?!人間の姿を捨てた次は、人間の心まで……、捨てなくてはならないのか?!」
ふむ。
「何か思い違いをしているようだから言っておくが……、盗賊は敵だぞ」
「敵……?」
「人型クリーチャーは、これから潜ることになるであろう、ランダムダンジョンにも現れる」
「そんな……」
「加えて言えば、この世界に『殺人を罰する法律は無い』んだよ。害そうとすれば殺しにかかってくる、誰でもな」
「だ、だが……!彼女を見ろ!」
ローズが指を刺したのは、失禁しながら必死に命乞いをする女盗賊だ。
先程の盗賊団の最後の生き残り。
「ひっ、ひいっ、いやだぁっ!助けて!お、お願いだよ、殺さないでおくれ!な、なんでもするよ?旦那に犯されたっていい!穴の方はまだそんなに使ってないし、具合も良いって評判で……!」
無様極まりないその様子を見ても、俺の心は特に動かない。
これはつまり、ゲームシステム上では『恐怖』のバッドステータスでしかないからだ。
もし、こいつをここで見逃したとしても、また別の盗賊団に入って襲いかかってくるに決まっている。
それはゲームシステムであると言う訳じゃなく、盗賊として暮らしてきた人間はそれしかできないから、またやらかすという至って当然の話でしかない。
俺はそう説明した。
「それは……、だが、更生の機会くらいは与えられても良いはずだ!」
そうか?
「この世界は全て、自己責任だ。盗賊となって他人を殺して犯して奪って生きてきた人間が、いざ自分が殺される番になったら『更生の機会が〜』だと?それを殺された人間達の前で言えるのか?」
「う……!確かに、それはそうだ……。そして、司法の手に委ねることもできない、のか……」
「そうだ。つまり、殺すしかない」
ローズは、悩む。
が、こいつはとても賢い。
だからすぐに理解する。
「……つまり、どうしようもない、のか」
俺の行動が最適解だと。
ここで、俺は一つ譲歩してやる。
「だが、このような無様な命乞いをする女を殺すのは心が痛む。故に、こうしよう」
「がっ、いだい!やめで!いぎゃあああ!!!」
盗賊団員の女を瀕死にして、と。
キャプチャーカプセルを投げつける。
そして、キャプチャーカプセルに入った女盗賊を出して……、『コンパニオン』にした。
「あー……、ええと、仲間にしたという理解で良いかな?」
頭を抱えながらローズがそう言った。
「そうだ」
俺がそう答える。
コンパニオン……、このゲームで言う仲間のことだ。
「そう、か……。それなら良かった。どうか、その人を大切にしてあげてほしい」
ローズは、そう言って、何が起きたかわからないと言った顔をして座り込む盗賊団員の女を見た。
だが、まあ。
このゲームにおける仲間と言うのは、事実上の奴隷である。
売ることもできるし、人体を改造することもできるし、馬車馬のように働かせることもできる。
家畜同然の存在である。
と、言うことは、あえて言わずとも良いだろう。
「あ……、えと?アタイ……、奴隷になっちまったのかい?」
女盗賊団員がそう言った。
見た目は、赤毛の短髪にそばかすのある、可愛い系の女だ。とは言え、アヤやローズの方が美人だとは思う。
「そうだ。俺に従え」
俺はそう言って、女盗賊に『首輪』をつける。
この首輪は、コンパニオンにつけると、プレイヤーから一定距離以上離れられなくなるアイテムだ。
「そ、そんな、奴隷だなんて……」
ほう?
先日は、馬車を牽かせる為の野生馬を瀕死にして捕らえたのだが、馬は特に怯えていたりだとか、絶望していたりとか、そう言った様子はないように思えた。
むしろ、自らを討ち破った存在に対しての敬意のようなものすら感じたくらいだ。少なくとも、コンパニオンになったことに対して嫌がるような素振りは見せなかった。
だが、目の前の女盗賊は、この世の終わりのような顔をしている。
ふむ……?
「奴隷は嫌か?」
「ひっ……?!い、い、嫌だなんてとんでもないよ!う、嬉しいよ旦那様!」
『好感度』が低いな。
『好感度』は、コンパニオンを含めてNPCとの友好度を数値で示したもの。
50が基本の数値で、0が『殺意』、100が『愛情』という形になっている。
好感度100以上のNPCとは、『結婚』ができる。
結婚すると、相手のNPCはコンパニオンとは別枠の仲間となり、『子孫を残す』ことができる。
生まれてきた子孫もまた、コンパニオンとは別枠の仲間にしたり、特定の仕事をやらせたり、果てはそのキャラクターで二週目をプレイすることも可能だ。
さて、この女は……、好感度はどう見ても初期値の50を下回っているな。
『*鑑定*』した結果で分かる。
好感度はたったの20で、ステータス的には『畏怖』とある。
畏怖……?
言葉の意味は理解しているが、そんなステータスは存在しない。
0で『殺意』、1〜15が『嫌悪』、16〜30は『嫌い』、31〜45が『苛立つ』だったはず。
また、状態異常でも『恐怖』というバッドステータスはあるが、『畏怖』というのは見たことがない。
俺ももちろん、人の心がない訳ではないので、相手の気持ちは理解しているつもりだ。
この女からすれば、自分の仲間を一瞬で斬り刻んだ謎の男という訳になるのだから、それはまあ、『畏怖』という気持ちを抱くのは当然のことだろう。
「正直に答えろ、奴隷は嫌か?」
「い……、嫌に決まってるじゃないか!アタイは一生、アンタに逆らえないんだよ?!殺されても、変異させられても、何をされても逆らえない!お願いだよ、逃しておくれよ!」
ふむふむ。
概ね、コンパニオンの仕様は間違っていないようだな。
「断る。これからお前は、実験材料として使わせてもらう。……ああ、安心しろ。なるべく殺さないし、変異も控える」
「う、うわあああん!」
よし、それじゃあ、先を急ぐか。
アーク、エンディングが最高すぎるんだよなあ。
あの曲は何度聴いてもいい……。
ところで今、超能力サバイバルの続き書いてるんですけど、割と恋愛話になってしまいました。
まあでも、三ヶ月もいい男に衣食住の面倒を見て貰えば惚れるのはおかしくないですよね。……え?どうなんですかねその辺。人の心の機微が全く分からんから……。