ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

1142 / 1724
死にてえ。


EX3:脅し

異世界転移から十日。

 

丁度、異形組がラダム王国の王都『ラダム』を目指して旅に出たところである。

 

こちら、人間組は……。

 

「ね、ねえ、レックスさん?その、レベル上げっていつ終わるの?」

 

「ずっとここにいるのはちょっと……」

 

「街とか見つからないんですか……?」

 

「食い物も不味いしさ……」

 

無能組達がレックスに押し掛けてきていた。

 

レックスが指揮するのは、人間組の中でも積極的にレベルを上げて成り上がろうとしている……、所謂『戦闘組』だ。

 

このグループは、人数は三百人前後で、元運動部や不良など、運動経験がある生徒や教師で構成されている。

 

対して、こちらの……、生産職だと嘯きながらも、その実何も行動しない大多数の存在を、『無能組』と定義する。

 

彼ら無能組は、事実、確かに無能なのである。

 

だが、それは彼らが悪い訳ではない。

 

平成の世で語られた『勝ち組』『負け組』の理論がある。

 

勝ちと負けの二元論故に、半分が勝ち組、半分が負け組……、のように思えるが、事実は違った。

 

この世界の九割の人間は『負け組』なのである。

 

『勝ち組』と言えるほどに有能な人間は一割もいないのだ。

 

この無能組にしたって、地球では責められるような存在ではなかったのだ。

 

何せ、日本の高校生は、料理ができなくても、金が稼げなくても、運動ができなくても勉強ができなくてもコミュ障でも……、なんの能力もない無能でも、特に大きな問題はない。

 

精々、大学入試で落ちるとか、モテないとかなんだとか、『その程度』のものだ。

 

社会福祉の塊のような国家では、能力が低いと言うことは生存できない理由にはならない。

 

だが、この世界では違う。

 

『無能は死に繋がる』のだ。

 

無能が無能のまま生きていくには、物乞いか、そうでなければ最古の職業……、即ち娼婦にでもなるしかない。

 

この世界はそれなりに豊かではあるが、無能は富を手にすることができない。

 

福祉などなく、中央集権国家すらなく、明文化された法律なんてほとんどない。

 

こんな世界でどうやって生きていくのか?

 

やることは単純、己を鍛えて力を手にすればいい。

 

戦闘組は、真に有能な異形組と比べれば些か格は落ちるが、それでも極限まで無能という訳ではなかった。

 

少なくとも、戦ってレベルを上げて……、くらいの浅い行動はできた。馬鹿は馬鹿なりに考えて努力をした。

 

では、浅い行動、最初の第一歩ですら踏み込めない彼ら無能組は?

 

現在、戦闘組の平均レベルは16にまで達し、グローバルマップにいるクリーチャー程度なら、一対一ならば倒せるようになっていた。

 

もちろん、正しい訓練により能力値を高めた異形組には全く敵わないのだが。

 

このゲームでは、能力値の中央値を『戦闘能力』という数値で例える。

 

それで言えば、シャールノスを除く異形組の戦闘能力は『28』前後。

 

しかしこちらの戦闘組の戦闘能力は『16』前後である。

 

だが、こちらの無能組は『10』もあれば良い方。

 

レベルも1で、初期ステータスのまま。

 

こんなどうしようもない連中を、どうするか?

 

詰め寄られたレックスも考える。

 

「(確かに、レベルが上がって強くなった気がするけど、この人数は力では制御できない……!)」

 

と。

 

レックスは、勉強はそこそこできるし、地頭も劣悪と言うほどに悪くはない。悪いのは確かではあるが……。

 

まあつまり、無能組全員と戦闘組がぶつかり合えば負けるかもしれないと、その可能性を考えられた。

 

レックスの計画では、ここでレベルをできるだけ上げて、力で無能組を支配できるようになった後、その人数を活かして成り上がるということになっている。

 

だが、まだレベルは満足できる数値まで上がっていない。

 

「(クソッ!ゲームなら普通、十日もレベル上げすればもっと強くなれるだろ?!)」

 

と、本人は考えているが……、悲しいかな、その基準はヌルゲーのものだった。

 

この世界では、何も考えずに棒切れを振り回すだけで強くなれるほど甘くはないのだ。

 

レックスは、無能組に囲まれて、話し合いという名目で吊し上げにされていた。

 

だが、そこに……。

 

「黙れ、クズ共!!!!」

 

「「「「ひいっ!」」」」

 

大声を張り上げる男が一人いた。

 

彼は、戦闘組に所属するレックスの親友、富田飛太(とみたとびた)……。

 

今の名をブレーメンと言う。

 

ブレーメンは刀を抜いて、切っ先を無能組の方へと向けた。

 

「何もやらない貴様らが、何を上から目線で文句を言ってるんだ?……斬られたいのか?」

 

その脅しを受けると、なんの力もない無能組は萎縮した。

 

「ひ、ひいいっ!」

 

「ご、ごめんなさい!すみませんでした!」

 

「だ、だから俺はやめようって言ったのに!」

 

実際問題、戦力的な話をすれば、戦闘組と無能組も現時点では装備の質が同じで人数は無能組の方が倍以上である。

 

真正面から戦ったならば、無能組の方が勝つ確率は高いだろう。

 

だがまあ、戦えていたらそもそも無能ではない訳で。

 

実際、自分達の勢力の方が大きいのに、見かけが強い戦闘組がこうやって少し凄めば、無能組はすぐに引っ込む。

 

レックスはそれを見てこう思う。

 

「(なるほど、ああやって制御すれば良いのか)」

 

つまり、脅しが有効であると理解したレックスは、これから無能組を奴隷のように扱っていく……。

 




過去作の続きを書かなきゃ……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。