それでええんかチャイニーズさん……。
ラダム王国。
二重の城壁に囲まれた城郭都市にして、このアルガレフ大陸でも屈指の大都市。
四百年前の『ヘイサム王』が作ったとされる『ヘイサム王の赤屋根』で有名なラダム城を中心に、広々とした街がある。
第一城壁の内側は貴族街、第二城壁の内側は下位貴族や金回りのいい街人の街で、城壁のない外側は様々な身分人種が入り乱れる雑多な街。
主な輸出品は奢侈品で、王都に住む様々な芸術家達の手によって作り出された細工物や絵画などが有名だ。特にその中でも、ラダムの一番の特産品は布である。
蚕業と畜産を行っており、絹や獣皮によって、絨毯や服、毛布などを作っている。
これらは、世界的に見てもトップクラスの出来と言われており、外国にも輸出されているそうだ。
事実、『ラダム産毛布』という寝具アイテムがゲーム中にあるのだが、これは睡眠によって得られる能力値成長がかなり多く、また交易品としても軽く高値で捌けて有用なアイテムだった。
公式設定での人口は数百万人ほどだったのだが、MODやら何やらを全部乗せされたこの世界では、人口は数千万人にまで達しているようだ。
地球の国で例えれば、ペルーくらいの規模はあるのではないだろうか?
国単位の話をすれば、最初の村であるイームル村もラダム王国の一部である訳だし、この近くの街や村は基本的にラダム王国の配下だ。
ラダム王国の面積そのものは、大体、テキサス州二つ分ほどらしい。
これから向かう王都には、三百万人くらいはいそうだ。
文化レベルについても、古代文明の遺産……、という名目で、下水道がまあそこそこに整備されており、農業やら畜産やら用のマジックアイテムもあるお陰で食料自給率もそこそこに高い。
倫理観は中世並みで、治安は正直に言えば悪いのだが、それでも生活するのには困らない街だそうだ。
中世並みの世界にしては相当に豊かで、孤児のガキでも日に一度か二度はパンにありつける。
最悪、浮浪者になっても生きていけると言うのはかなり大きな利点だな。
失敗しても生きていけるとなると、掛け金を大きくできる。
失敗したら一家全員で首を括るしかない!という国だと、中々、何かに挑戦しようという人間は現れないだろうが、何をやっても最悪死ぬことはないと思えるなら、挑戦者は増える。
それだけじゃなく、この世界はファンタジーであることも、民のやる気が増す原因の一つだ。
ファンタジーであればこそ、腕っ節さえあればどこまでも成り上がれる。
地球の中世、王権神授説が罷り通る世の中では、平民などどう頑張っても成り上がれやしない。精々が商人や傭兵で、どれほど上に行っても、「青い血の流れぬ成り上がり」と後ろ指をさされた。
だが、このファンタジーの世界なら、何かしらの優れた技能さえあればどこまでも偉くなれる。
プレイヤーも、爵位を得るに留まらず、建国することすらできたのだから。
無位無官の異邦人が、剣一本で成り上がるなどという英雄譚を編める辺りは、やはりゲームだなと言ったところか。
さて、そんなラダム王国まで、このイームル村から歩いていくとすれば、大体半月はかかると見ていい。
この半月の移動期間に必要なのは、物資とスキルの二つだ。
物資はまあ、保存食の類やら装備やら何やらだが、これはまあ、金さえあれば順当に集まる。
そしてスキルは、前も言ったが『荷運び』と『収納』……。これらを訓練をして身につける。
この二つがなければ、そもそも旅に出れない。
また、旅に出てからもこのように……。
「敵だ!」
レベル1〜8程度のクリーチャーの襲撃がある。
一日一度くらいのペースでの襲撃だ。
故に、最初の村を出るには、資材、スキル、戦闘能力を高めてからじゃないと無理な訳だな。
さて、クリーチャーを倒して前に進むか。
……と言っても、この辺の雑魚はうま味がないから、周りの異形組に任せる。
そう、異形組。
こいつらも、平均レベルは12前後となり、グローバルマップに現れる雑魚クリーチャーくらいなら余裕で対処できるようになっていた。
別に俺は、こいつらがどうなろうと知らないのだが、助言の代わりに力を借りるという契約なら構わない。
なんだかんだ言って、金を貸し付ける事もできたから、後で利子をつけて返してもらえる予定だ。
貸した金は馬代だから、そこそこに大きな額だ。
同郷のよしみで、年内に貸した額の二割増の金額を返してくれればそれで良いと言っておいた。
カラス金どころかトイチとも言わないのだから、感謝してもらいたいところだ。
その辺、ここにいる異形組は弁えていて、無理のない返済プランを計算していた。
まあ、馬と馬車の代金は、イームル村で依頼をこなして生活していたら三ヶ月前後で揃えられていただろう。
なので、物凄い借金と言うほどでもない。大学の奨学金のようなものだと全員理解したようだ。
「倒したよー!」
「解体の練習するぞ!今回は一班と二班がやるから、三班と四班と五班は見張りだ!」
ローズが指示を飛ばす。
いつの間にか、一班につき八人のグループが五つできており、それらがローテーションを組むことによって、夜間の見張りや、今のように解体時の見張りなどを調整していた。
ローズにはやはり、人を使う才能があるな。
因みに俺は班には入っていない。性能差が隔絶しているからだ。
さあ、そんな感じで剥ぎ取りが終われば……。
「さあ、調理するぞ!」
「「「「おう!」」」」
ローズの号令の元、焚き火と鍋を背嚢から出して、そこで調理を開始する。
もちろんこれは、食べられそうなクリーチャーの時だけだが。
今回倒したクリーチャーは、『あばれ牛』と『大蟹』『歩きサボテン』だ。
全部食えると判断した異形組は、剥ぎ取った肉を調理し始めた。
もちろん、剥ぎ取るのは『解体』のスキルレベルが低く、失敗したりなんだりと難儀していたようだが、『料理』については、地球で人間だった頃の経験もあり、そこそこ上手くやれているようだ。
まあ、難しい料理をする訳でもない。
肉を切って、それをその辺の木を材料に『工作』スキルで作った串を打って、塩を振り焚き火で焼くくらいのものだ。ゲーム的には『串焼肉』だな。
「……ふむ、サボテンは意外に美味だな」
おっと、どうやら食事も済ませることにしたようだ。
ワイワイと食事をするのだが……。
あれは……。
「こうすると美味しい」
「なるほど、流石だ妹」
イームル村であらかじめ買っておいた『酵母パン』に、『きゅうりのピクルス』と『串焼肉』を挟んで食べている……?
なるほど、なるほど。
まだ俺もゲームの感覚に囚われていたな。
システム上できない料理もできるってことか。
俺は調査のため、イームル村で村人と会話を交わして、単なるNPCではなく人間であると確信を得たところだったのだが……。
なるほど、なるほど。
いや全く、面白いな。
どこまでが現実で、どこまでがゲームか?
面白い命題だ。
では、食事も終えたところで移動だ。
なろうに転載……。
何か一作でも終わらせないと……。