イライラパートだ!!!
一晩が過ぎた頃の人間組は、というと……。
「へへへ、おらっ!」
『ピギィッ!』
レベル上げと称して、野営地周辺の雑魚クリーチャーを殺して回っていた。
しかしもちろん、このゲームで重要なのはレベルの数値の高さではなく、ステータス。能力値の高さがものを言うのだが……。
「レベル8か。まあ、《シャドウベインズ》では、MAXレベルは100だったし、初心者は脱却ってところか?」
それに気づく人間はいなかった。
さて、こんなことを呟きながら、その辺で刃物を振り回すのは、二年一組の不良生徒、安田守雄(やすだもりお)だった男、ホープである。
例えばレックスは、自分よりあらゆる面で優れている秋田大和……、シャールノスが気に入らないと言うことと、シャールノスが自分の支配を受け入れないと言うことがコンプレックスだった。
そして、このホープもまた、シャールノスに対してコンプレックスを持っていた。
実はこのホープは、シャールノスと……、そして細川文乃ことアヤと、中学校からの同窓である。
そして、アヤを虐めていた首謀者の一人でもあった。
当時のアヤは、今と変わらず、所謂『コミュ障』であり、物静かな少女だった。
だが、テレビに映るような、整形と入念なメイクで改造人間のようになったアイドルグループだのと比べると、格が違うほどに美しかった。
病的なまでに美人で、しかも気が弱くてコミュ障。おまけに、中学生とは思えないほどに豊満なスタイル。
周りの男達にとっては欲情の対象であり、女達にとっては敵そのものだった。
故に、一部の声の大きい女グループに虐めとまでは言わないが疎まれていたアヤであるが……、そこにこのホープは、こう言って接触を図った。
『俺の女になれば、助けてやってもいいぞ』と……。
だが、この時点でアヤは、疎まれていると言う自覚がなかった。
アヤは、好きな男である大和……、シャールノスと一緒に行動して、そうでない時は本を読み、一人の世界で楽しむタイプの人間である。別に周りの人間と好んで群れようとは思っていなかったのだ。
だが、それに気付かず、所謂、陽キャ寄りの考え方をするホープは、ぼっちというのは惨めだと勝手に思い込み、『俺に従えば女グループに取りなしてやる』だとか、そう言ったことを言って捲し立てた。
アヤにとっては、知らない男が急に訳のわからないことを言って迫ってきたことになるのだから、非常にパニックになる。
病気とまでは言わないが、自閉の気があるアヤは、非常に怖がり、パニックになり逃げ出し、シャールノスに泣きついた。
そしてシャールノスは、襲いかかってきたホープをあっさりと転がすと、そのままゴミを見るような視線を向けて去っていった……。
これはつまり、ホープにとってすれば、自分のものになるはずだった女を奪われた事になる。
それ故にホープは、女グループにあることないこと吹き込んで、アヤを虐めるように誘導した。
そしてその後、一年間ほど女グループに虐められるアヤを眺めてから、再びアヤに、『虐めをやめて欲しければ俺の女になれ』と迫ったのだが……。
紆余曲折の末、再び、シャールノスにボコボコにされて終わった。
もちろん、ホープも馬鹿ではなく、一度目にシャールノスに負けた後に、ボクシングジムに定期的に通い修行をしていた。
だが、あらゆる面で天才的な能力を持つ超人であるシャールノスは、凡人が一年努力をしたところで勝てる存在ではない。
ならば、と、今度はシャールノスを潰すために、十数人の不良を集めてシャールノスを囲んだのだが、二、三分で全員が病院送りにされてしまう。上級生すら混ざっていたと言うのに、だ。
好きな女を取られたこと、自分より強いこと。
それらのコンプレックスから、ホープはシャールノスを敵視する……。
さて、ホープのような戦闘職のレベルは、早々に8前後にまで伸びていた。
これは一重に、ヒューマンという種族が早熟であることと……。
「おら、豚ぁ!早くやれよ!」
「ひ、ひいいっ!」
誰かを囮にしての効率的な狩りの結果である。
今、囮兼露払いをやらされているのは、二年一組のいじめられっ子、荒桐慎一(あらきりしんいち)だった男、ガンゾウである。
このガンゾウは、エルフ忍者なのだが、見た目が非常に醜い。
異世界転生において、転生前の姿形はほぼ同じだった。
現実世界で、体重100kgで身長164cmのブサイク男だったガンゾウもまた、異世界でもブサイクという現実からは逃れられなかったようだ。
このガンゾウは、醜い見た目と曲がった性根により虐めを受けていたのだが、この世界でも同じように虐められていた。
重量装備を身に付けると弱体化する忍者であるにも拘らず、革鎧で全身を固めて、タワーシールドとスピアを持たされて、雑魚クリーチャーの相手をさせられているのだ。
囮になって攻撃を受け、更にクリーチャーにダメージを与えてHPを削り、とどめは他人に譲るという形式で良いように使われている。
とは言え、このガンゾウは、アヤのように美しいから目の敵にされていたのではなく、ただただ心身が醜いから虐められている、アヤと真逆の存在だった。
その内面は、身体と同じく肥大化した自意識と、油汚れのように凝り固まった妬心の塊で、レトロゲーム部の美しい女達を脳内で犯すことだけが生き甲斐のクズであるからして、同情の余地はない。
とにかく、このようにして、レベル上げの名目で刃物を振り回して遊んでいるのが、現在の人間組だった。
一方で、人間組の中でも、レベル上げをしていない集団がいる。
それは、商人や錬金術師などの、生産職と呼ばれる部類の存在だ。
彼らは、『自分達は生産職だから』という名目でレベル上げを拒否した。
だからと言って、生産職らしいことをする訳ではない。
この世界について知らずとも、レベルを上げた方がなんとなく有利になることは考えられるはずだが、何故何もやらないのか?
それは、この連中が、心底肝が小さいからである。
つまり、雑魚クリーチャーとすら戦えないくらいに気が小さいのだ。
血が怖い、感触が怖い……、だから生産職云々と適当な理由をつけて、戦う事を拒否したクズだ。
そんなお荷物のグループだが、レックスは特に何も言わなかった。
何せ、数だけは多いからだ。
レックスの予定では、まず自分とその周りの人間が、囮を使った狩りでレベルを上げて、それから、大多数の有象無象を働かせての左団扇……、と言う路線を考えている。
故に、ただ単に食料を浪費するだけのクズにも寛容なスタンスを表面上は見せている。
「……これからどうなるんだろう」
そう言って、暖かいところに集まる虫のように小屋の片隅に集まる一人。
日本での名をルル・キュルマネン。現在の名をスケッチと言う、元一年生男子、現ノーム商人の男だ。
名前から分かるように海外出身なのだが、外国の、欧米の人間とは思えないほどに主体性のない矮躯の小人である。
背中を丸めた自信なさげな態度は転生前と変わらない。キョロキョロと忙しなく周りを見て、他人に媚びる、正に小者そのものである。
小さい身体に、更に小さな肝魂が宿った最悪の例のような存在は、今回も、自分では何も考えずに、とりあえず人数が多いグループについて来た。
確かに、社会に限らず、自然界においても、大きな共同体や群れに所属することは安全性を高めるのには最適の手段の一つである。
尋常な判断であり、間違ってはいない。
だが、この世界は学校や日本社会とは違う。
求められるのは右に倣えの盲目さではなく、自己責任論に基づく自立の精神と、そしてなにより『力』そのものだ。
自立の精神を持つような人間ができた奴や、本当に強い奴を感じ取れる目端が利く奴、そして本当に強い奴は、異形種に転生して既に旅立った。
このグループは負け組側なのである。
因みに。
今作は、味方の名字は武将や貴族から取って、名前は適当かもしくはモバマス アイドルからとってます。転生後の名前は適当。
主人公の秋田大和は、大和王朝、つまり古の王=旧い偉い奴=旧神みたいな感じのことを思って名付けました
無能組の名前は、皆さんが嫌いそうなキャラの名前をもじって名付けました。
多分、霧谷竜也でレックスの時点でみんな気付いてると思いますけどね。
イライラパートはとりあえず残り3話で終わりますが、次からは本編です。イライラパートは本編がひと段落したときに挟みます。