人間組から追放された異形組は、シャールノスの側に集まった。
「シャールノス君、我々はまず、何をすれば良いだろうか?」
こんな時でも率先して行動できるのは、やはりローズであった。
不安げな顔をしながらアドバイスを求める姿は、普段の自信に溢れた様子とは真逆で、それがシャールノスの嗜虐心を刺激した。
とは言え、シャールノスにもある程度の人心はある。
窮鳥懐に入れば猟師も殺さずとはよく言ったもので、シャールノスは、自分のことを頼ってくる弱者を悪戯に甚振り殺す異常性癖は持ち得ない。
「あっちに装備品とか保存食とかあったから、それを拾ってくるべきだな」
因みに、生徒会長たるローズに対してもこの態度だが、シャールノスにとってはこれがデフォルトだ。
「装備品?」
「あの神様がわざわざ用意してくださったようだな。最低限の装備品と、各種道具が置いてあった。量は限られているから早い者勝ちだぞ」
「それは……、彼らには伝えなくては……、いや、良いな。彼らは彼らで勝手にやるだろう」
人間組の方を一瞥したローズは、そのままシャールノスの導きにより、倉庫にたどり着いた……。
倉庫は、体育館に近い大きさがあった。
籠に、鞘に納められた剣が複数、乱雑に刺されている。畳まれた外套が平積みされ、革の部分鎧が胴だけのマネキンに着せられている。
山積みの木箱に詰まっているのは、乾燥した保存食の黒パン。干し肉もある。水については、近くに湖がある。
つるはしや松明、裁縫セットに調理器具なども、木製のテーブルの上にいくらか置かれていた。
「好きなのを持っていけ」
シャールノスは、適当にそう言った。
「待ってくれたまえ、シャールノス君」
だが、ローズがそれを制止する。
「何だ?」
めんどくさそうにそう聞き返すシャールノスだが、ローズには聞いておきたいことがあった。
「この世界では、装備に制限があると聞いたのだが……」
そう、装備制限である。
マジックユーザーは重いものを装備できず、聖職者は祝福されていない刃物を持てず、格闘家は武器の扱いが苦手で、アーチャーや斥候の類も軽い装備を推奨される。
「確かにそうだ、制限はある。マジックユーザーは軽いものを装備しろ、司祭は鈍器を持て、格闘家は武器を持つな、戦士は好きなのを持っていけ、それ以外は軽いものがいい」
そう言ってから、シャールノスは。
「だが、ここにあるものはどれも低品質だ。それに、素材も低級の軽いものばかり。どれを持っていっても変わらんよ」
と吐き捨てるように言葉を続けた。
事実、ここにある装備は低品質なものだ。
プレートメイルなどの高価な装備はない。
どれも五十歩百歩……。
しかし、DP(回避力)とPP(防御力)は、序盤では一つでも多く上げておきたい。
故に、この序盤で選ぶべきは……。
「『革の帽子』『革の部分鎧』『革の外套』『革の腰当て』『革の籠手』『革の長靴』、それと『鉄のロングソード』などの鉄製の武器、遠隔攻撃用の武器の二種類を持てばいい。盾も忘れるな」
「「「「はい!」」」」
「遠距離攻撃型も大体同じだが、近接武器はハチェットやマチェットのような軽く短いものにしろ。矢筒と矢も忘れるな」
「「「「はい!」」」」
「そして、鞄も持っていけ。鞄には食料を詰めろよ。それと、『革の水筒』で表の湖から水を汲んでこい」
「調理器具とかは要らないの?」
一人の異形種の女がそう言った。
「料理ができるんなら持っていっても良いんじゃないか?」
「じゃあ、フライパンと鍋とまな板と、ナイフだけ……」
「それと、寝袋とタオルを持てば充分だ。さあ、とっとと出ていくぞ」
「何をそんなに急いでいるのかな?」
元数学教師の海斗、この世界での名をオケアノスと名乗る男がそう訊ねてきた。
「ここから近くの村まで、一日中歩くことになるからな。できれば、夕方までには到着したい」
「なるほど、かなり歩くようだね。最悪、野宿も視野に入れなければならない、か」
「何言ってんだ、基本的には野宿だぞ。村にいきなりこんな大人数で押しかけても、宿はそんなに大きくないからな」
「ふむ……、そう言えば聞いていなかったが、この世界はどう言う世界観なのかな?」
と、オケアノスの質問。
「神によって既に五つの文明が滅亡させられた。この『第六文明アムンローグ』は、かつて滅びた文明の遺跡を漁って発展する文明だ。過去には、外宇宙へ旅立った種族が沢山いる文明や、魔法によって成り立つ文明など、様々なものがあった」
「つまり、科学と魔法が同居している、と?」
「そうだな。銃器にエネルギー兵器、人体の改造やクローン技術。そんなものがありながら、魔法や刀剣での戦闘技術もある。この世界はなんでもありだ」
「ふむ、想像がつかないな……」
「だがまあ、社会の倫理観は中世並みが良いところだな。基本的にはファンタジー寄りと見ていいぞ」
そんなことを言いながら、革の背嚢に荷物を詰めるシャールノス。
背嚢は、リュック型のものではなく、円筒型の巾着袋だ。
シャールノスは荷物を詰める、どんどん詰める……。
「待て待て待て!おかしい!おかしいぞシャールノス君?!」
ローズが止める。
「何だ?」
「その背嚢!明らかにおかしい量が入っていなかったか?!」
「『収納』スキルだ」
「ス、スキル?技能という訳か……」
「お前らの中にも……、そう、ハーフリング辺りは収納スキルを持っているはずだ。やってみろ」
シャールノスがそう言うと、ハーフリングの少女が荷物を詰め始めた。
「う、うわっ!本当だ?!なにこれこわい!!!」
大体、背嚢の大きさの1.5倍ほどの量が何故か詰まってしまう。
「あ、でも重さは変わらないんだ。ぐぬー、結構重いよー!」
と、ハーフリングの少女がそう言った。
「重いものを持ち上げるには『荷運び』のスキルが必要だ。『収納』と『荷運び』は最優先で習得すべきスキルだな」
シャールノスはそう言った。
「そんな必須スキルを最初から持ってないのか……?」
ライカンスロープの青年がそう呟いたが、それはここにいる人々の本音だった。
近頃流行っているVRゲームでは、アイテムをインベントリに保管する能力は、プレイヤーなら誰しもが持つ基本の能力だったからだ。
「甘えるな、ないものはない」
そう言って、そのままさっさと進んでいくシャールノス。
そして、荷物を整えた異形組は、近くの村へと旅立った……。
クソが!
全然面白い小説を書けない!
その人が読みたいジャストミートな小説を叩きつけられるのも素晴らしいが、その人が読みたいとは今まで思っていなかったのに、その小説を読んだら続きが欲しくてたまらなくなる小説!みたいなのに憧れる。
俺は所詮、俺が読みたいものを書いてるだけなので、数少ない、俺が好きなような小説を読みたい人が読んでくれてるんだと思う。
でも、より多くの人に読んでもらうには……、とか考えるとねえ?
……いや、でも、自分が書きたくないものは書きたくねえな……。
小説って難しいなー。