ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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あーもう駄目ですよ、肩が、肩が。

かつて壊した肩が今頃悲鳴を上げ始めた。


9:武蔵

『武蔵』『サラトガ』『アークロイヤル』『木曾』『U-551』『時雨』『夕立』……。

 

普通、提督とは、平均して五人も建造できれば良い方である中、計八人の建造に成功して、なお枠に余りがある狂死は、有望どころの騒ぎではない最優秀者であった。

 

それに付け加えて、未確認艦である『武蔵』と、更に、未確認艦でありその上に海外艦である『サラトガ』『アークロイヤル』『U-551』……。

 

更に更に、軽巡洋艦である筈の『木曾』が、重雷装艦という艦種で顕現。

 

『時雨』『夕立』双方も、通常の『時雨』『夕立』とは少々異なる艤装と相貌を持って顕現した。

 

教官も慣れたもので、即座に聞き取り調査の後、一時間もしないくらいで釈放。

 

狂死は、艦隊メンバーと親睦を深め合うように指示された……。

 

 

 

「おう!初めまして、だな!相棒!」

 

武蔵である。

 

「中々の色男だが、まだ少年だな。良いじゃないか!私好みの男に育ててやろ……っあ"ぁ」

 

武蔵の顔面に、狂死の拳が突き刺さる。

 

狂死は、野生の獣のような男だ。

 

武蔵のように、パーソナルスペースにずかずかと踏み込んでくる、デリカシーのない人間は大嫌いだった。

 

「相棒、やるな!強さは合格だ!だが、初対面の女子のツラをぶん殴るのはいただけんな。良いか、男子たるもの……」

 

しかし、艦娘である。

 

武蔵にとって、狂死が繰り出す殺人の拳は、仔猫に戯れられているのに等しい。

 

狂死の機嫌が驚くほど悪くなっていることに気づかず、武蔵はドヤ顔で狂死に説教をした。

 

「分かるか?貴様も男だ。男は女を守ってやらねば……、ん?どうした大和……、グワーーーッ!!!!」

 

「提督!こちらの艦娘達を全員教育してきますのでッ!暫くお部屋でお待ち下さいッ!!!」

 

「や、やまと、きさま、本気で殴ったな……、き、効いたぞ……!う、うおおっ?!は、離せーーー………………ッ」

 

武蔵の土手っ腹にプロボクサーも真っ青なボディーブローをぶちかました大和は、武蔵を担いで、新入り艦娘を連れて資料室へと向かった……。

 

 

 

「……なんだ、これは」

 

資料室、武蔵の口から震えた声が漏れる。

 

それは、冷たい静寂を保つ資料室に、低く響いた。

 

「ご覧の通りよ」

 

大和は、淡々と事実のみを告げた。

 

そうしなければ理性を保てなかったからだ。

 

この資料を見るたびに、慚愧の念と、怒りと悲しみがない混ぜになった激情に包まれる。しかし、説明せねば、狂死を傷つけることになる故に……。

 

仕方のないことだった。

 

「畜生、畜生!何故だ!何故今なんだ!私ならッ!私が、私が親なら!友人なら!もっと早くに提督を見つけていたならばッ!!!」

 

武蔵は叫ぶ。

 

「こんなことにはならなかったんだッ!!!!」

 

「武蔵……」

 

大和は、武蔵を慰めるような目で見つめた。

 

武蔵の悲しみが痛い程理解できたからだ。

 

そう、新入り艦娘達が読んだのは、狂死の今までのデータである。

 

「そんな、そんなことって……」

 

サラトガは、静かに涙を流した。

 

敬愛する提督が、泥水を啜り、地べたを這いずって生きてきたその悲惨な半生を想像してのことだ。

 

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!japanは豊かな国ではなかったのか!何でだ……、どうしてだ!!!」

 

アークロイヤルは世界を呪った。

 

「どう、して……?なんで?なんでユーは、今更……ッ!!!Admiralが一番助けて欲しかった時に、どうしてユーはいてあげられなかったの……ッ!!!!」

 

U-551は絶望した。自分が、今更召喚されてどうするのかと、自責の念を覚えた。

 

「……ねえ。この、提督をこんな地獄に叩き落とした『親』とか言う生き物、どこにいるの?僕がこの手で引き裂いてやらないと」

 

「それだけじゃないっぽい。提督に人殺しをさせた『反社会組織』とかって奴らも、縊り殺してやらなきゃ……」

 

時雨と夕立は、据わった目で静かに呟いた。

 

少しでも、少しでも狂死の呪いを解いてやりたいと心から思った。

 

「クソが……ッ!!!大和ッ!俺の、俺の提督を慰めてやりたい!俺の胸で泣かせてやりたい!」

 

木曾は、不器用ながらも狂死のことを想った。

 

「木曾さん……、駄目です。それは、駄目なんです」

 

「どうしてだ、泣きたい筈だ!あいつは、あいつは……ッ!」

 

「提督は、とても誇り高い人なので……、慰めるとか、哀れまれるとか、そう言ったことをされると、御心を掻き乱されます……」

 

「じゃあ、じゃああいつは、いつ泣けば良いんだ?!辛かっただろう!苦しかっただろう!あいつは、あいつの心は!」

 

「木曾さん……。もう、駄目なんです。その段階は、過ぎているんです。私達は、提督を『救えませんでした』……。だから、だからせめて、今後は、提督を支えましょう?提督の手足となって、御心を掻き乱す万象一切を灰にして……、提督の支えになりましょう?それしか、できないんですよ、私達は……」

 

「う、あ、うわあああああああっ!!!!」

 

 

 

この世で最も、自分の命よりも大切な人間が、自分と出会うずっと前から『壊れて』いた。

 

初めて出会った『運命の人』は、冬の鉄のような冷たい目をして、自分を一目見て。

 

興味がなさそうに視線を切った。

 

これが、艦娘達の心を如何程に傷つけるか。

 

言わずとも知れているだろう。

 

「あ、あいぼ……、いや、提督」

 

「………………」

 

「さ、さっきはすまなかった。謝罪する……」

 

「どうでも良い」

 

「あ、ええと、あの、提督……。私は、武蔵だ。貴方の役に立ってみせる。だから、その、できれば……」

 

「言ってみろ」

 

「仲良く、してくれ」

 




いやあ……、やっぱり、三人称は駄目だね。

愉快なゲス野郎の軽快な一人称で進む話が一番書きやすいです。


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