狂死が、艦娘を、初期艦を召喚する。
「おい」
『おっ、なんやにいちゃん?』
ナチュラルに妖精と話す狂死。
「一番強い下僕を出せ」
『一番っつーと、アレだな。大和型だな』
「大和……、大和か。俺は学がないが、それくらいは知っているぞ。世界でも類を見ないほど巨大で、46cmの口径の大砲を積んでいるんだよな?」
『おっ!ネグレクトされた幼卒が知力を見せたァッ!!!』
何故かノリノリで煽ってくる妖精だが、狂死は幼卒どころか保育園にすら行ったことはない。
「死ね」
妖精の顔面に狂死の拳が突き刺さる。
しかし、妖精は、痛がるモーションは見せるが、ぬいぐるみのような質感がするばかりでダメージは受けていないようだった。
『AMSから、光が逆流する!ウワアアアアアッ!!!』
などと、妖精と話す狂死を見て、教官が声をかける。
「つ、槻賀多候補生……?ま、まさか、妖精と意思疎通ができるのか?」
「お前らはできないのか?」
さも、できて当然と言った態度をする狂死だが……。
「我々資格無き者達にはできない。他の候補生も、意思疎通までは不可能だ。……先程、大和と言っていたな?呼べるのか、大和を?」
実際問題、今までに、ここまで明確に妖精と意思疎通ができた提督はいなかった。
狂死は妖精に向き直る。
「呼べ」
『じゃ、祈ってくれよ。最強で最高の、あんたの従僕を呼べ!』
「良いだろう。来い……!」
狂死は命じた。
強く、強く、それでいて従順で。
自分に従う犬を。
『よーし!はれってほれってひれんらー!』
瞬間、炎が迸る。
焔火は龍神のように駆け巡り、雷が轟き、稲光が空を白く染める。
煌く烈火がうねり、赤い嵐が震霆と共に大地を打った。
そしてそこには、恐ろしいまでに容姿の整った美女が……。
「大和型一番艦、大和。偉大なる提督閣下の命に応じ、まかり越しました。よしなにお願い申し上げます」
跪いた姿で現れた。
「……お前は『使える』か?」
狂死が問うた。
その視線には、冷たい意思が篭る。
「はっ!提督閣下の為ならば、例えどのような命令であっても、必ずや成し遂げて見せましょう!」
「俺が死ねと命じれば死ぬか?」
「もちろんです!」
「ハハハ……、良いだろう。使ってやる。役に立たなきゃ処分する、良いな?」
「はいっ!光栄ですっ!」
「ま、まさか……!!緊急連絡!緊急連絡!大和顕現せり!大和顕現せり!!!」
教官は、すぐさま上層部に連絡を入れた。
そして。
「今日の授業は中止だ!諸君らは召喚した艦娘と親睦を深め合うように!解散!おっと、槻賀多候補生と大和殿はこちらへ!」
即座に解散となる。
そして、そして……。
「槻賀多候補生、つまり君は、妖精の姿を詳細に視認でき、妖精とコミュニケーションが可能で、妖精に触れることすら可能であると。そう言うんだね?」
「そうだ、がぶ、もぐ、だからどうした?」
狂死は、エサ(3ポンドステーキ)を与えられ、ご機嫌ゲージを調節されながら、聞き取り調査されていた。
その隣では……。
「では、貴女は本当に大和だと?」
「そうだと言っているじゃないですか」
大和が聞き取り調査されている。
そうして、エサがなくなるまでの間、色々と質問される。
「妖精とは、どんな姿なのかね?」
「海兵服の小人だ」
「深海棲艦について、妖精は何と言っている?」
「艦娘が表だとすれば、深海棲艦は裏の存在だそうだ」
「では妖精とは?妖精とは一体何なんだ?」
「精霊信仰により生まれた神威、奇跡そのものだ」
「精霊信仰?」
「例えばアメリカ。あそこは、精霊信仰をしていたインディアンを皆殺しにして土地を奪った。だから、妖精はいない。例えば中国。あそこは、文化大革命とか言って、信仰を焼き払った。だから妖精はいない」
「つまり日本は、古来から変わらない精霊信仰の宗教観から、妖精が、ひいては艦娘が生まれたと?」
「そうだ」
「では……」
「もう腹は膨れた。帰る」
そう言って話を切り上げて、席を立つ狂死。
「なっ……?!ま、まだ話は!」
質問をしていた教官の隣にいる海軍幹部が引き留めようとすると……。
「大和」
「はっ!」
大和が前に出て一言。
「控えろ、ニンゲン。提督はお帰りになると仰せだ」
先程、狂死から自分に向けられていたような冷徹な視線と共に言った。
艦娘は、付喪神にして理外の神威。
単なるニンゲン程度、素手で紙屑のように引き裂ける。
「ひっ……!」
「大佐!お退がり下さい!……もちろん、帰って良いとも!大和殿とコミュニケーションをとっておいてくれたまえ。では……」
その魔人たる大和を怒らせては、どんな被害が出るかわからない。
故に、この場の軍人達は、狂死と大和を帰した。
「ふん、気が向いたらな」
「ああっ、お待ち下さい、提督!」
そう一言、言い残して去る狂死。
馬鹿にハサミを与えるとはよく聞くが、サイコパスに艦娘を渡すとどうなるのか?
その結果は神のみぞ知る、と言いたいところだが……。
「ろくなことにはならん、だろうな」
空に溶けた教官の一言は、今後の全てを表していた……。
お
ち
ん
ち
ん