何故か笑われた俺。
「いや、すまんな。料理人であると聞いたが、宮廷雀のように諧謔を弄することもできると聞き、少し試したのだ」
なるほど?
「そうでしたか。ここは、閣下も人が悪い!とでも言うべきですか?」
「よせよせ、儂は言葉をぼやかす人間は好かん!」
はいはい、そう言う系ね。
武人といえば聞こえがいいが、政治的には無能って感じだ。
どうやってここまでの地位に立ったんだろうか?やはり、武勲を立て続けて……、と言うことだろうか?
見た感じの印象からして、実直そうだもんな。この質実剛健な人間性は、軍部では重宝されるだろうよ。
しかも、壁の中に隠しキャラ……、まあ、密偵とかそれ系の人を仕込んでいるのであろう辺り、搦手ができない訳じゃないみたいだしな。
「ところで、そちらの娘は何者だ?奴隷でも増やしたのか?」
ノエルの方に顎をしゃくって、質問をしてくるブレンダン様。
なるほど、辺境伯からの手紙には、俺とリンド、そしてヨミのことのみしか書かれていなかったって訳か。
「ああ、いえ、そうですね……。諧謔はお好きでいらっしゃらないとのことですからはっきり言いたいのですが、壁に耳とか生えてませんか?」
「……ほう、分かるのか?」
目をすっと細めるブレンダン様。
あー、やっぱり、壁に隠しキャラいますわこれ。
「いえ、人の気配が分かるほどの武人ではないのですが、部屋の大きさや音の反響に違和感を感じまして」
「なるほど……、面白い。だが、ここにいるのは儂の手のものだ」
ふーん。
儂の手の者ってことは、個人的に隠密部隊を抱えてるのかね?帝国では、基本的に中央に権力を集中する為と、反乱を防ぐ為に、諸侯に余計な兵力を持たせないようにしている節がある。
ブリュンヒルデ様も、私兵の近衛騎士団は数百名で、それ以外の兵士は中央から派遣されてきた帝国陸軍だったからな。
ブレンダン様は、中央である帝都から警戒され過ぎないように、表立って私兵を大量に抱える真似はせず、さりとて、武装勢力ではない隠密を多数用意した……、と言うことだろう。
まあ、それなら好都合。
これはもらしたくない話だからな。
「では、紹介します。こちらはノエル……、『勇者』です」
「えっ?!!!」
「なんだと?!!!」
前者はノエル、後者はブレンダン様。
「ぼ、僕は勇者なんかじゃないよ?!」
「ああ、すまん、ヨミにこっそり鑑定させた。その結果、お前の職業は勇者になっていた」
「き、聞いてないよぉ……」
項垂れるノエルを他所に、ブレンダンは即座に指示を出して、鑑定の水晶と呼ばれるアイテムを持って来させた。
その結果。
『ノエル
レベル:10
人間
勇者
体力:250
精神:255
筋力:260
耐久:188
器用:179
知覚:181
学習:245
意思:351
魔力:310
魅力:350
剣術:3
体術:3
跳躍:3
雷属性魔法:3
聖属性魔法:3
回復魔法:3
物理耐性:3
闇属性耐性:3
不死再生:1』
と、スーパーな勇者であると判明した。
これには、ブレンダン様も息を呑んだ。
「ところで、彼女が勇者なのは確かですが、勇者召喚で呼ばれた俺達は一体なんなのかご存知ですか?」
「……貴様ら異世界人は、勇者ではない」
あ、やっぱり?
だって、クラスメイトに勇者の職業を持ってる奴なんて一人もいなかったもんな。
じゃあ何なの?
「貴様らは勇者ではないのだが、勇者に必要な存在だ。その名も、『導師』……」
導師、ねぇ……?
「本来、『勇者』とは、魔王の復活と共に降臨し、『導師』と『聖者』の補助の元、その世代で一番の戦闘者を伴って、四人以上で魔王を討伐するものだ」
魔王、ねえ……。
聞いた話によると、あらゆるモンスターに絶対的な指揮権を持つモンスターの頂点だとか?
所謂、生物災害……。
地震、雷、火事、大山嵐(おおやなじ)……、そう言った災害が、モンスターの形を模って生まれたものを魔王と指すそうだ。
それよか……、勇者と導師の役割が入れ替わっている、だと?
「現代では、導師が何故か勇者と同一視されている、と?」
「そういうことだ。この事実については、各国の上層部しか知らぬことだ。触れ回ることは許さぬぞ」
「ええ、それはもちろん。ですが……、何故こうなっているのですか?」
間違っているならそれを正せば良いだけの話。
何故、間違っていると理解しておきながらこんなことになっているんだ?
「分からん……。だが、今そうなっている以上、余計なことを言って民心を乱そうとは思えん」
なるほどね……。
ストローべでも、勇者印のハンバーグ!とか言ってたよな、確か。
今更、勇者は、導師という存在の異世界人が、この世界の勇者の武勲を剽窃した悪党だ!などと言ったら、面倒臭い話になりそうだ。
「それは大変結構なお話です。我々も口を噤みます。とりあえず、勇者はそちらに受け渡しますので……」
「や、やだよ!僕はまだ、ケンウェイに恩返しができてないもん!」
喚くノエルを無視して、と。
「勇者は訓練するなりなんなりしていただいて結構ですので、そちらで好きに運用なさってください。こちらから出せるのは、勇者と、俺の料理です」
「ふむ……、確か、食べるとステータスが向上するんだったな?」
「はい。勇者も、こちらの料理でステータスを倍以上に伸ばしました」
「よし、では、少々規模が大きくなるが、帝国軍近衛部隊の底上げをしたい。対価に何を望む?」
「そうですねえ……、俺はどこのギルドにも属していないので、モグリ扱いされてしまうのに困っています。その辺りを解決したいな、とは」
「では、儂の権限でギルドに許可証を出させるとしよう」
わあ、民間企業に軍が命令できるんだあ。
文民統制は何処かしらん?
まあいいや。
だって実際、真面目にギルドに入るとなると、親方の元で何十年も修行してやっと職人になれる……、みたいなのがこの世界だからな。
やってらんねーですわ。
それを、権力パワーで解決してくれるとか普通に助かるんだ。
「良いでしょう。では、近衛部隊の総数は?」
「軍事機密だ」
なるほど、そりゃそうだ。
「足りないと困るので概数だけでも教えてもらえます?」
「……そうだな、ならば、千と言ったところか」
うわ多い。
「その場合、一日百人として十日間、途中で休憩の日を挟みながらと言うことになりますが」
「構わん。やり遂げた場合は報酬金も出そう。辺境伯よりも少額の報酬しか出さぬようでは、侯爵家の名折れだからな」
ああ、その辺の金銭感覚とかは貴族っぽいんだな。
「それは大変喜ばしいです。では今日は、食事を提供する場の下見をさせていただきましょうか。その後は旅の疲れを癒すために早めに休ませていただきます」
「うむ、食堂の下見を終えたならば、来賓用の宿を空けている故、そこで休め。以上だ」
うん、話が早くて大変結構。
クソが、全然面白いのが書けない。