執事の案内で、館に着いた。
俺達は、スムーズに館の中庭に通されて、中庭でティー(香りからして紅茶ではない。何だろうねこれ?)を飲むヅカ貴族女……、ブリュンヒルデ様と対面した。
「あー……、すみませんが、我々は異国の平民でして、この国の礼儀作法は知りません。本来なら、正しい前置きから、貴女のことを褒め称え、それから本題に入るべきなのかと存じますが……」
「いや、良いとも。それは知っている。私には優秀な『耳』があってね」
つまり……、スパイ組織ってことか。
どこまで調べられたのやら……。
まあ、知られても、ここはアリスティア王国の敵国だからな。
俺達を召喚したアリスティア王国からの追手もない、はずだ。
「なるほど、流石は辺境伯の御令嬢ですね。いや、『私には』……、と言うことは、私設の『耳』をお持ちでいらっしゃるのでしょう。その若さで、情報戦の重要さを解しているとは、脱帽ですな」
いや実際凄いよ。
軽くこの世界で生活した感じだけど、男尊女卑はデフォだもんよ。
こんな世界で、女の身で辺境伯領の次期当主ってのも当然凄いんだけど、次期当主という身でありながら、自分の諜報組織を持ってる訳でしょ?そりゃスゲーでしょ。できる女だ。
年齢的には二十歳前後なのにこの有能っぷり……。
有能型かァ〜?
「……ふむ。ただの料理人ではないようだね。認識を改めよう」
おっ、と。
目付きが鋭くなった。
余計なこと言っちまったかねえ?
あんまり鋭いことを言うと消されちまうかもなー。
ヅカお嬢様は話を続ける。
「……前置きは分からないそうだね。では早速、本題に入ろう。君の料理について訊ねたい」
ふむ、やっぱりか。
だろうな。
お嬢様はまだ言葉を続ける。
喋り方と声に芯があって、演劇のワンシーンみたいだ。
「材料を聞いたよ。『希望の種』のパンに、『天龍の肉』を挟み、『鬼神の実』のソースをかけた、と……」
小麦、豚肉、トマトか。
「更に、このホットドッグを口にした者は、一日中、体力と筋力と耐久が50増加することが確認できた」
ああ、やっぱりバレてるか。
「不敬を承知で言っておきますが、誰かに仕えるつもりはありません」
それだけははっきりと伝えたかった。
「……ふむ。一応、何故かと聞いておこうか」
「争いの火種になるからです」
「……それは」
「料理の依頼なら喜んで引き受けます。ですが、どこかの専属となると、確実に暗殺の対象になるでしょう?」
「確かに、そうだ。私も、敵対する組織に君がいれば、真っ先に君を狙うだろう」
「もしそうなっても、守っていただけることは想像に難くないですが……、毎日を怯えながら暮らすのは、耐えられません。私はまだ、恋人と結婚もしていないのですから」
情パンチ!
うぉう!うぉう!情パンチ!
「ふむ、良いだろう。無理に仕えよとは言わん。だが、依頼は受けてもらいたい」
ほむほむ。
「ええ、それはもちろん」
「ありがたい。しかし、依頼の前に、君の腕というものを見てみたい」
は?
何だァ、テメェ……?
俺に挑戦状を叩きつけるってことか?
まあ、某お笑いタレントからの挑戦状よりはマシだろう。
こんな小説にまじになっちゃってどうするの?
「ふむ。失礼ながら、貴女は健啖な方でしょうか?」
とりあえず聞いとこうか。
それによってメニューを決める。
「うむ。我が騎士団と共に剣技を磨いているからな。女だてらに良く食べると周りからは言われているとも」
ふーん。
「大変結構です」
〜クッキングタイム!〜
「こちらは前菜の、不死鳥と魔神草のテリーヌです」
「ふ、む……!!!」
「こちらは大聖の種のパンになります。コースの合間にお楽しみください」
「あ、ああ!」
「こちらは、天神の実で作りました酒になります」
俺は料理に戻る。
お嬢様は、テリーヌをナイフで切り、フォークで口に運んだ。
その動作は、フランス料理のマナーからすれば失格だが、気品に溢れていた。
「あ……、む」
テリーヌを食べ、咀嚼するお嬢様。
「……んふっ、んふふふ」
本人は抑えようとしているみたいだが、キリッと締まった顔はどんどん緩み、満面の笑みに変わっていく……。
そして、パンを齧ると……。
「んんんんん!」
相当美味かったらしい。
「こちら、無病の若球根のスープになります」
「あっ、ああ!いただこう!」
そう言って、新玉ねぎのスープをスプーンで飲む。
液体が舌に乗った瞬間、お嬢様は大きく目を見開いた。
「……っあ」
声にならない声を出した、と思ったら、夢中でスープを啜り始め、スープはすぐになくなった。
次だな。
「こちら、燼滅龍のソテー、勇気の実ソースがけになります」
「うむ!」
鮭のオレンジソースがけ。
お嬢様は、凄い勢いで口に運び……。
「ひ、ひああぁ……」
あまりの美味さに腰を抜かした。
そして、メインディッシュ……。
「お待たせしました、メインディッシュの、陸神獣ベヒモスのフィレステーキ、天神の実酒ソースがけです」
和牛フィレステーキ、赤ワインソースがけ。
「……っあ、ああ……!」
ヤバイよなあこれ。
ベヒモスのステーキとか。
お嬢様は、意を決して、という様子でステーキを口に運ぶ。
すると……。
「あ、ああ、あ……!こんなに、こんなに美味いものが、この世界にはあったのか……!」
とか言って泣き始めた。
何ですかね、これ?
ま、良いや。
「こちら、デザートのクレームブリュレになります」
「こ、これは……?」
「食後に甘いものを食べる、という習慣が、私の知る地方にはありまして」
「そ、そうか!素晴らしい習慣だな!」
そう言って、クレームブリュレの表面をスプーンでパリ、と割り、口に運ぶ。
「こ、こ、これは……?!!」
そう言って、また泣き始めるお嬢様。
「甘い……!献上されるどんな果物よりも、甘く……、都の菓子とは比べ物にならないまろやかな口溶けと風味だ!!!」
最後に。
「コーヒーです」
「これは……?」
「少し苦い飲み物です。口に残る甘さを落としてくれますよ」
「なんと……!気が利くな!」
そう言って、コーヒーを飲むお嬢様。
「な……?!この香り……!」
あー、えっと、コーヒー豆は……。
「染影豆です」
「染影豆……!!!」
まあ、こんなもん。
ローグライク書いてます。
初めての殺人シーンとかじっくり書かなきゃ……。
書きたくはないが、追放してきた側の没落シーンも。