「『建国派』は駄目だ、あいつらはこちらの存在を知れば略奪しに来る」
「ふむ」
「かと言って『平等派』も駄目だ。協力依頼という名の略奪をしに来る」
「そうだね」
「『一般人連合』も駄目だな」
「え?どうして?例え超能力がなくても……」
正那が驚きの声を上げた。
「理由は二つある。まず第一に、無能だからだ」
「それは、でも……」
何かを言おうとした正那の言葉を遮る。
「無能ってのは、超能力が使えないからって意味じゃねえよ。何の取り柄もないって事だ」
「それは……」
「確かに、使えるメンツもちらほらといる。だが大半は、留年しながら遊び回るアホ大学生や、言われたことも満足にできないメタボ社畜のおっさん、身体にガタが来てる年寄りだ。足手纏いになる」
「そう、なのかな……」
正那が俯いた。
「そして第二に……、奴らは全員、歳上だ」
俺が言った。
「え?駄目なのかい?」
「歳上だぞ?駄目に決まってる」
「……どうしてかな?」
「……お前は、自分の半分も生きてないガキに指示されて、素直に従えるのか?」
「それは……、うん、なるほどね」
理解したようだな。
三十代四十代のおっさんやババアが、俺達、高校生かそれ以下の若造に顎で使われて、素直に話を聞くかと言えば、否だろうなってことよ。
さて、俺は新たに、足元にある石を『分解』して作った地図に、マークを書き入れていく。
川の南側……。
そこには、山脈があるのだが、それを迂回して南に行くと、草原があるそうだ。
その草原で、捕まえた馬っぽい生き物に跨って移動する連中……。
「こいつらは……、そうだな、『流浪民』としようか」
この流浪民は、総勢で四百人足らずいるが、一つの派閥ではないんだよな。
単に、南を目指して移動し続ける能力者の集団ってだけだ。
いや、集団ですらないらしい。
三十人から六十人くらいの人数で徒党を組み、それぞれがバラバラに安住の地を探しているとのことだ。
総まとめするリーダー役もおらず、全員で話し合いながら行動しているようだ。
要するに共和制ってのかね?
とにかく、誰か一人の突出した能力がある者がいる訳じゃないんだと。
これはこれで悪くない集団かもしれない。
俺のように、サバイバルの知識を持たない癖に、「この辺は寒いから南へ移動しよう」と提案した奴がいるんだろう。
一般人連合は、救助が来ると思っての篭城策をとっているが、こいつらは逆に、救助は来ないと割り切り、この世界で生きていくことを決意した連中だな。
だからこそ、暖かい南の地を目指したんだろう。
こいつらは、まあ、縁があれば仲間にスカウトするのも良いかもしれないが、遠くを目指してるので、追うのが面倒だ。
そして。
飛行機墜落現場から東側……。
「この東側にいるのが『能力者連合』だ。こいつらが、勧誘候補だ」
人数は総勢、百五十人くらい。
こいつらも、連合であるからして、一枚岩の集団ではないようだ。
大体三十人前後のグループが五つ集まった組織らしい。
総リーダーは特級能力者の遷貌是印(せんぼうぜいん)……、『変身(メタモルフォーゼ)』の使い手だ。
「こいつらをスカウトしようと思う」
「ええと……、少数グループだからだね?」
「そうだ」
何度も言うが、俺達の村の六十人が最大派閥となるように、別の派閥を吸収するのだ。
「まあ、もちろん、こいつらをスカウトする理由はそれだけじゃない」
「と言うと?」
「こいつらはまず、良いところが三つある」
まず、全員が能力者であること。
これは重要だよな?
同年代かそれ以下で、俺達と同じ能力者。使いやすいな。
次に、有能であること。
それ単体では使いづらい能力者も、チームを組み、工夫することによって活用されている。
チームワーク、協調性があるってことだな。
それだけじゃなく、全員が協力し合って働いているというのは、社会性のあるまともな集団という証拠だ。
能力も、見た感じではそこそこ使えそうな奴らが多いらしい。
一部、ギャグみたいな能力を持つ能力者もいるが、それすら有用に活用しているそうだ。
最後に、『平等派』とは違って、真の意味で平等な社会を築いていることだ。
全員が働き、全員が利益を得ている。
一部の超能力者を酷使して無理矢理平等を作り出している平等派とは違う。
少なくとも、一人一人にやる気があるってのは大きな違いだ。
自立の精神ってのかな、寄生しようって魂胆がなく、自力で生き残っていこうとするその精神性を俺は買ってるんだよな。
まあ、そんな訳で、こいつら能力者連合をスカウトするゾ〜。
そんな訳で東へ移動。
木に登って遠目から、能力者連合の様子を見る。
「キィ」
ん……?
不自然な動きをする鹿がいるな。
……ああ、なるほど、そういうことか。
これは、『建国派』と違って知恵が回ると認めなきゃならないな。
おやおや?!ビョーキの鹿なのかなー?!おかしいなー?!とでも言っておくか。
まあ、大体わかってるのでそれは置いといて、と。
さて、どんな感じだ……?
まず……、ふむ。
竪穴式住居か。
穴を掘った家に、骨組みを立てて、そこに屋根を作る。
造りはしっかりしているようだ。何らかの知識を持った奴がいるんだろうか?
付近の小川から魚を……、あれは網か。網で捕らえている。
他にも、恐らくは能力の産物であろうクッキーのようなものを食べたりしているようだ。
その他にも果物や、捕らえた獣の肉なんかも食べているみたいだな。
獣の肉は……、いや、何だあれ?
培養肉みたいなのだ。恐らくは能力の産物だろうな。
その他にも、ベタなSFマンガみたいな、培養ブロック食品を食っているのが目についた。
そして、見張りも、『建国派』とは違って二十人ほどが周囲を巡回している。
見張りの手には鉄の片刃剣がある。いや、剣というよりは薙刀、グレイブか。
リーチと重さがあるから、素人でも、振り下ろすだけで大きなダメージを与えることができるだろう。また、突くこともできる。
他にも、土塁を作るなどして、防衛力もあるみたいだ。
「うーん、評価はまあ、二重丸とは言えないが丸はくれてやれるぞ。B評価だ」
そう言って、俺は、先程のおかしな動きをした鹿に話しかけた。
「は?何を?」
と、正那が変なものを見る目をして言った。
いやいや、見てろ。
「……驚いたね、気付いてたんだ」
と、『鹿が』喋った。
「「「「喋ったあああ?!!!!」」」」
うーん、もっとこう、権力に対する欲求がない主人公。
隠者系主人公とかどう?
女抱いて美味いもん食って好きな本読めりゃ何でも良い系の世捨て人が、辺境の中小貴族に拾われて、娘の教育係に任命される。
その中小貴族の娘こそが、世界最大の帝国の初代女帝になるとは、このときはまだ誰も思っていなかったのだ!みたいな。
未来編とか?永遠に生きる系の隠者が、女帝が死んで数百年で小さくなった帝国に未だ居て、無能な現皇帝に追放!
同じく一緒に追放された、皇族の妾の子を適当に育てたら、またしても最大帝国を作る女帝になっちゃった!みたいな。