油とニンニクの奔流に身体が耐えきれんのか……?
俺、もうおじさんなのか?!
夢を見る。
子供の頃の夢だ。
『オラ!クソガキ!早く来い!さあ、どの台が勝つんだか言えよ!』
殴られた。
実の親に。
あたしの能力、『全知陣(オムニセントフィールド)』は、競馬でどの馬の調子が良いかとか、パチンコでどの台の設定が甘いかとか、そう言うのが見れば分かるから。
父親は、幼いあたしを連れて、夜遅くにギャンブルをした。
真面目に働く必要なんてない、私が能力を使えば、ギャンブルで食っていけるからだ。
『ちっ……、おめえがもっと美人なら、風呂屋に行かせてんのによ。男口調のガキなんざ誰もお呼びじゃねえとよ』
あたしも女だ。
初めては、惚れた男が良い。
父親に売春させられまいと、普段から髪をバッサリ切って、ヤクザ映画の三下子分のような態度をするように心がけた。
そして、その三下子分の物真似と言う仮面は、自分に張り付いて取れなくなった。
『ふ、ふざけんじゃねえ!このガキを持ってかれたら、俺は生活できなくなるだろ!!!』
ある日、超能力者の危険性を鑑み、一箇所に集めて教育を……、とか言って、私は親元から引き離された。
FB学園だ。
周りの、普通の家庭に生まれてきた超能力者達は、ライフルを持った軍人がたくさん、FB学園から逃げないように監視してるこの環境は、刑務所のようで嫌だったそうだ。
けど……、あたしにとっては違う。
ここにいれば、クソみたいな親に殴られないし、家事も余分にやらなくて良い。怯えて暮らす必要のない、天国のような場所だった。
年に一度、日本に帰れるって言われても、あたしは別に嬉しくもなんともなかった。
日本では、父親に見つからないように、沖縄でバカンスを楽しんだ。
FB学園で、バイトしたお金でのバカンスだった。
バイト!あれだけ身を粉にして働いても、一円たりとも私にくれなかった父親と比べて、最低賃金とは言えお金をくれるFB学園の、なんと優しいことか!
バカンスを楽しんで気力を充実させた後、飛行機でFB学園に帰ることになったが、この休暇の二週間は、とても充実した日々だったので、何の悔いもなかった。
……しかし、大変なのはここからだ。
飛行機墜落!謎の無人島でサバイバル生活!
ふざけんじゃねえ!
と、声を上げたいところだ。
最初に、こうして特級能力者のチームに入れなかったら、とっくの昔に精神が崩壊していたと思う。
創壱の旦那には、感謝してもしきれない。
ぶっちゃけ、あたしの身体で良ければ普通に捧げられるレベル。
旦那はイケメンだし、有能だし。
ってか、旦那の、あらゆる能力者の上位互換たる『再構築(リジェネシス)』を見て、尻尾振らない女とかいるかな?
旦那の女になれば、地の果て海の底空の彼方でもどこでも、セレブ並の生活ができるんだよ?
ってか、能力抜きにしても、本人のサバイバル技術も本当に凄いし……。
更に言えば、あたしの好きなタイプは、父親と真逆の男だ。
即ち、背が高くて、マッチョで、ハンサムで。
強くて頼れる、本当の意味での『男』の人。
つまりは、旦那みたいな色男。
いやー、本当に、周りの女の子達は何でもっと露骨に媚びないんだか、あたしは分からないね。
能力云々関係なしに、あんなに良い男って他にいる?
いやまあ、確かに、墜落した飛行機のところで建国(?)した、生徒会長さんも、まあイケメンだったけど。
旦那はこう、骨太系のイケメン?女が好きなタイプの線の細い美男子ってよりかは、男が惚れる男ってやつかな?こう、ハリブットのベテラン俳優みたいな……。
あんな筋肉でムチムチの二の腕で、強めに抱きしめられたら、あたしはもう、もう……!
「だんなぁ〜、かっこいいでやんすよ〜……、むにゃむにゃ」
「何言ってんのよ、起きなさい肆嘉」
「はっ?!旦那は?!」
「もう起きてるわよ」
「ううー、旦那ぁ〜!夢の中でイチャイチャしてたのにー!」
「はあ……、良いから起きなさい!顔洗って歯を磨く!」
「はあい、啞零の姉御……」
あたしは、輿図肆嘉。
超能力者だ。
旦那の力でこの大陸に村を作って、二ヶ月と少し。
謎の巨大熊の襲撃を乗り越えて、みんなで宴会をした次の日。
あたし達は、今日も仕事に励む。
あたしは、体格はチビ助だけど、この能力があるから、能力を使って見回りをすることが仕事だ。
一応、所属は警備部門ということになる。
まあ、その前に朝食を摂るんだけど。
朝食はグラノーラだ。
朝から米を炊くのは大変だから、そういうことになった。
手作業で米を炊くなんて、確かに面倒だろうなあ。
あたしは、食育とかまるでされた覚えもないし、食に対するこだわりは特にない。
まあ、滅多に食べさせてもらえなかったお肉や甘いものは好きかな?
とにかく、こだわりはないから、朝はグラノーラ。
うーん、でもこれはこれで美味しいんだけどなあ。
「コラ!スプーンをグーで握るのはやめなさい!」
あ、啞零の姉御に怒られちゃった。
「す、すまないでやんす」
「全く……。あんた、意外と世間知らずって言うか、常識知らずって言うか……」
「えへ、へへへ、ごめんでやんす……」
過去のことは、話してない。
話すと、引かれちゃうだろうし。
「啞零、怒ってやるなよ。世の中には色んな人がいるんだぞ。ほら、肆嘉」
「わ」
いつの間にやら近くにいた旦那に、膝の上に乗せられて、スプーンの持ち方を教えてもらう。
ふ、ふおお……。
旦那は、何でこう……、あたしがやってほしいことを的確にやってくれるんだろうか?
ぶっちゃけ、あたしは父性に飢えている。
それを満たしてくれる旦那はもう、マジサイコー。
何度、優しくてハンサムな親に、こうして膝の上に乗せてもらって、箸の使い方や礼儀作法を教えてもらいたいと思ったことやら。
「美味いか?」
「美味いでやんす!」
「もうっ!甘やかさないの!」
啞零の姉御は、姉御で、まあ、何というか……。
結構、母性があるんだよなあ……。
ちょっと厳しいけど。
母親は、あたしが物心つく頃には死んでたんで、母性ってのがよく分かんないんだけど……。
でも、こうして、悪いところを注意してもらえるのは助かるな。
さあ、仕事の時間だ。
いつものように、午前の間は訓練か、もしくは見回りを……。
今日は訓練の日だね。
布を重ねて巻いた標的に向かって、槍の訓練だ!
前回の熊襲撃の時、防衛部の人達は、熊に近づかれてパニックになってしまった。
これを防ぐために、せめて、近づいてきたやつに槍を刺すくらいは出来なきゃダメだ!と言うことになってるらしいよ。
アレだね、警備部門の責任者の帯流の姉御の提案だね。
「やー!やー!」
「肆嘉!腰が入っていないぞ!ほら、こうだ!」
「はいでやんす!」
帯流の姉御は……、先生みたいな感じかな?
学校、まともに行ったことないから……、そういうの、ちょっと憧れてた。
結構、いやかなり、訓練は厳しい。
が、それを乗り越えると……。
からん、からん、からん!
「お昼ご飯でやんすー!」
ご飯の時間だ!
ご飯の時間は、ロングハウスの入り口に下げられた鐘を鳴らしてみんなを呼ぶ。
時間は、その日のメニューにもよるけれど、十一時半から十二時半の間までには完成してる。
それを食べに行くのだー!
今日のお昼は……、ステーキサンド!
ステーキ!ステーキなんて、食べさせてもらったこと、一度もなかった!
FB学園の学食で食べたけど、アレが初めてだったなあ。
ちょっと硬いんだけど、美味しいんだよ!
じゃあ、いただきます!
「んんん?!!」
な、何これ?!
FB学園の学食のステーキとは比べ物にならない!
柔らかーくて、齧れば肉汁が出てきて、噛めば旨味が溢れる……っ!
その野性的な肉の旨味を、玉ねぎとマスタードが受け止め、なおかつ、それぞれの放つ香りが、肉の臭みを帳消しにする!
これは……!
「う、美味いでやんすーーー!!!」
満点だ!
いっぱい働いた後に、美味しいご飯をお腹いっぱい食べる!
これぞ理想の生活!
はあー、食休みにお茶でも飲もうかな。
うーん、香りの違いとかそう言うのはよく分からないけど、美味しい!
デザートにプリンも出た!
プリン!美味しい!
「はあ……、にしても、あいつのセクハラ、最近、エスカレートしてきてないかしら?」
お、啞零の姉御。
「そうだよなぁ、創壱は最近、耳を舐めたりしてくるんだよな。あれ、ぞわっとするぜ」
涼巴の姉御。
「求められるのはまあ、悪い気はしませんけれど……」
睦の姉御。
うーん?
「でも、旦那に触られると気持ちいいでやんすよ?」
「んなっ……?!あんた、何言ってんのよっ?!」
「姉御はあんまり、性欲とかないでやんすか?あたしは、旦那に触られるの、めっちゃ嬉しいでやんす!それに……」
「そ、それに何よ?」
「旦那に触ってもらえなきゃ、ここにいる全員、とっくの昔に死んでるでやんすよ?」
と、あたしが言った瞬間、周りが静かになる。
「えっ?えっ?あたし、何か変なこと言っちゃったでやんすか?!」
「……どう言うこと?」
「どう言うことも何も……、え?!気付いてなかったんでやんすか?!!」
ちょ、ちょっとそれは……。
あ、いやでも、あたしの能力がないと気づけないのが普通、なのか。
「創壱に触られてなければ、私達が死んでいたって、どう言うことなの?教えて、肆嘉」
啞零の姉御に問い詰められる。
うう、怖い……。
けどこれは、みんなが気付いてないなら、旦那の名誉のためにも言っておかなきゃ!
「旦那は、セクハラするついでに、触った人の病原菌やら寄生虫やらを『分解』してるんでやんすよ」
「っ!それ、本当なの?!」
「はいでやんす!啞零の姉御は、『分解』してもらえなければ、マラリアと病原菌持ちのダニと風邪で、三回は死んでたでやんすね!」
あたしがそう言うと、周りは騒めいた。
……「あれ、病気を治してくれてたんだ……」
……「創壱さんって凄いね……」
……「今まで誤解してたかも……」
おお、創壱の旦那のお株が上がった!
「あいつ……!それならそうと言えば……!」
啞零の姉御が、悔いるかのような表情をしている。
そんなところに、創壱の旦那が来た。
「おっ、なんの話?おれがイケメンだって話か?」
「そうでやんすよ!」
「おーおー!肆嘉はよく分かってるなあ!偉いぞー!」
「ひゃん!」
抱きしめられた。
気持ちいい……。
「あんた!」
「はい、あんたです」
「ねえ、セクハラするついでに、触った人の身体から、病原菌を『分解』してるって話、マジなの?」
啞零の姉御が、旦那に訊ねた。
「え?言ってなかったっけ?」
「ーーーっ、もうっ!言ってくれれば、いくらでも触らせてあげたのに!ごめん、創壱っ!あんたがセクハラする度に、私、殴っちゃってた!ごめんね、ごめん!」
あ、啞零の姉御……。
「んー?何でだ?俺は趣味でセクハラしてるだけだぞ?何で謝るんだ?セクハラのついでに、病原菌やら寄生虫を『分解』してるだけで、メインはあくまでもセクハラだぞ?」
「それでも、ごめんなさい。それと、ありがとう……!」
旦那は、マジでこう、凄い人だな。
頭も良いし、腕っ節も強いし、優しいし。
今回の、この、セクハラついでに病原菌やら寄生虫を分解してることだって、あらかじめ言っておけば、女の子達も怒らなかったと思う。
けど、旦那は、恩着せがましくそれを口に出したりはしなかった。
これが、あの生徒会長や他の男なら、必ず、病原菌の分解に対価を求めただろうね。
でも、旦那は違う。
最初にあたし達に宣言した通りに、「出来る限り守る」って言葉を、律儀に実行してくれてるんだ。
旦那はこう言う人だから、みんながついてきたんだと思う。
あたしは、一生旦那についていきます!
肆嘉のモデル?
アリアンロッドのベネットです。
まあぶっちゃけ、やる夫スレでよく見るだけで本編は知らんのですが。
あと、双夢のモデルはロングの頃の三浦あずささん。
あずささん、どう考えてもロングの方が可愛かったんだよなあ。