クソ!!!!
ファック!!!!
『横浜租界』……。
世界各地の建物が一ヶ所に密集したそこは、さながらかつての上海租界のような有様だった。
互いに、利権のために争い合うところもまた、同じ……。
西暦2050年の、横浜租界を見ていこう……。
鉄骨コンクリートで作られた巨大な城壁に、石造りの砦が築かれている。
これは、ヨーロッパ系の領地の印だ。
ヨーロッパ諸国は、租界の支配地に丈夫な城壁を築き、要人の暗殺を防いでいる。
暗殺などと聞くと、「現代社会でそんなことあり得ない!」と思われるかもしれないが、この末法の世では当たり前になっていた。
特にアジア連合国は、租界の支配領域を増やす為になら、暗殺やテロ行為も辞さない。
それに対抗する為に、各国は重武装をしていた。
それとは逆に、建物そのものを核戦争時のシェルター技術で強化した金属製の地下シェルター。
これは、アメリカ領地の特徴である。
入り組んだ建物により侵入者を迷わせるのは中東系領地、ブービートラップが仕込まれた民家はアフリカ系領地……。
そして、隠すことすらせずに機関砲を取り付けた塔の建つここは、アジア連合国の領地……。
各国は、この租界の支配領域を少しでも広げる為に、骨肉の争いを繰り広げる。
足の引っ張り合いと分かっていながらも。
一欠片のDマテリアルを手にする為に、モンスターだけでなく人間とも争い合い殺し合う。
『横浜租界』……、世界の『代理戦争』の場……。
「なあ、ニック」
「何だよ」
「ジャパニーズは、気に食わないことがあるとセプクして抗議するってマジなのか?」
「俺が聞いた話じゃ、侮辱すれば勝てなくてもカタナで斬りかかるって話だったが」
「そうなのか、ジャパニーズって狂ってんなあ」
喫煙所でもなんでもない道端で、米軍の男二人がタバコを吸っている。
吸い殻はその辺に捨てて踏みつけるが、それを注意する者はいない。
この横浜租界では、どこもこんなものだからだ。
そんな米兵の肩には、赤い水晶玉が嵌め込まれたライフルのようなものがあった。
「しかし、ジャパニーズも狡っからいもんだぜ。この『魔法銃』があれば、モンスターなんて簡単に倒せるじゃねえか。何が、『本来使うべきではない武器』だよ、舐めやがって」
「ああ、そうだな。弾丸に使う魔力を稼ぐ為に、民間人に『魔石』を採掘させなきゃならないのが難点だが……、多少のコストパフォーマンス程度、我が国の技術力ならすぐに埋まるはずだ」
これは『魔法銃』……。
Dマテリアルを単純なエネルギー資源に変換した物質である『魔石』を消費して、強力な魔法弾を放つ、鉄砲に似せた『魔法の杖』だ。
日本はこれを、海外向けの輸出品として売り捌いている。
しかし……、実のところ、この魔法銃は「失敗作」だった。
貴重なDマテリアルを擦り潰して単なる弾丸に変換して、そして繰り出される威力が「そこそこ有効打」程度のものであるからだ。
そしてそれ以上に、この武器を使い続ければ、ステータスはほぼ上がらずにレベルだけが高まり、次のレベルアップに必要な経験値だけがどんどん伸びていく「成長阻害武器」でもあるのだ……。
レベルアップの仕組みというものだが、酷使したステータス……例えば筋力を酷使すればSTRが上がるようにできている。
そのステータスが上がる時は、レベルが上がった瞬間……。
こんな例がある。
凡人冒険者だが、何度も何度も自傷による自殺未遂を繰り返していたら、たったのレベル20程度でVITの値が50を超えていた……、というケース。
人間の才能限界は、基本的に、ステータスにして300の数値まで。それ以上の数値を得るには、超越種(エクストリア)に進化しなければならない。
そんな中で50という数値は、最弱のモンスターであるスライムの五十倍という意味を持つ。
あまり凄くないように感じるかもしれないが、とんでもない。
最弱のモンスター、スライムも、レベル0の一般人からすればかなりの脅威なのだ。
ある田舎剣士は、このスライムを、「体当たりされたら成人女性の全力ビンタくらいの威力がある」と称していたがこれは事実で、スライムの戦闘能力とは成人女性一人分くらい。
そう定義すれば、大体、ステータスの数値が2で成人男性一人分程度だろうか?
50ならば、成人男性の25倍だ。
人間の25倍の堅牢性を持ち得れば、それこそ「モンスター」だろう。
そしてこの魔法銃は、そのステータスを高める為に能力を行使する場面を著しく削ってしまうのだ。
これが魔法であれば、魔法を使うことによりMPやINTが伸びていき、魔法スキルそのものも磨かれていく。
だが、魔法銃を持った兵士が並んで発砲するというスタイルでは、どのステータスも使用されないため、伸びが悪くなる……。
そのために日本は、この魔法銃を失敗作だと断じたし、そう発表もしている。
しかしながら、海外の人々はそれを信じなかったし……。
「にしてもジャパニーズはバカだよな。戦意高揚のためなんだろうが、あんなモンスター相手にカタナとか!」
「レベルが上がれば戦えるなんて嘘だぜ、嘘!現に俺はもうレベル25なのに、精々300kgウェイトリフティングができる程度だ。確かに凄いが、世界記録よりいくらか上程度の身体能力じゃモンスター相手に格闘戦なんてできないね」
「一般市民はDチューバーとかいうフェイクを信じているらしいが、いい加減にしてほしいな……」
嘘呼ばわりをして、魔法銃の技術を日本が隠していた!とバッシングまでする始末だった。
アメリカの映画では、宇宙の彼方から来たエイリアンを銃器で殺害したり、捕まえて解剖したりなどするものがある。
つまり彼らは、エイリアンすら銃で撃てば死ぬと思い込んでいる訳だ。
小さな小屋程度のUFOで、人類の観測不可能な遠い宇宙の彼方から、こんな小さな未開の星にやってくるエイリアンを、たかが鉄の礫で殺せると考えている……。
冷静に考えて、あんな小さな乗り物を光の速さで航行させたり、ワープさせたりする技術格差のある相手に勝てる道理など全くないのだが、何故かそのことは誰も言及しない。
その程度の想像力しか持てないので、Dチューバーの動画も、「何らかのトリック」だの「Dマテリアルを使った新兵器」だのと考えられていた……。
「けどまあ、ジャパニーズの天下ももう終わりだな。この、『新型魔法銃』があればな……!」
「ああ、やっとだ!アメリカの技術の粋を集めて作られた『ZAPPER-004』なら、モンスターなんて楽勝だぜ!」
なのでこうして、魔法銃の方を弄る。
今はもう、人間の方を弄るべきなのに。
確かに、アメリカの技術力は凄まじいものだ。
第三次世界大戦の負債で没落したとはいえ、痩せても枯れても大国。
その技術力で、素晴らしい性能の魔法銃を作り出して前線に配備している。
結果も出している。その魔法銃の力で、Dマテリアルの採掘量は右肩上がり。対日貿易でも、日本への輸出を増やせている。
だが、その根本的な間違いのツケは、いつか必ずやってくるだろう……。
遅刻許して。
最近弛んでんなあ……。