元社畜の鬱病おじさん、倉井。
子供部屋おばさん、小森。
二人は、先日のシルバーウルフの件以降、コンビを組んで福祉依頼を受けていた。
陰気で無気力な二人は、とにかく性格が一致しており、いい友人として付き合うようになっていた。
「ぼ、僕は、その……、昔、ブラック企業で……」
「ゎたしも、あの、その、学校で、ぃじめで、不登校で」
弱者同士の傷の舐め合いだが、しかしてそれこそが彼らに真に必要だったもの。確実に二人の状態は快方に向かっていた。
倉井も、相変わらずの鬱病だが、最近は月に一度しか自殺しようとしなくなった。
小森は、少しだけだが喋れるようになった。
福祉依頼こと、「政府委託依頼」を受ける回数も増やして、政府からのレンタル品ではない自分用の武器と鎧を買った。
彼らは、少しずつだが確実に、前に向かって進んでいた……。
そして遂に、「政府委託依頼」をやめて、普通の冒険者として働くようになった。
倉井は、異常に高いVITを当てにして、あえて軽装の鎧を着込み、両手持ちの大剣を武器とした。
福祉の一環として配布されたスキルスクロール、『剣術』を活かす為だ。
低階層のモンスターを倒し、自力で『硬化』や『突進』『斬撃』などのスキルも得て、オーソドックスな大剣使いへと成長している。
小森もまた、魔法のドレスを着込み、ミスリルを少しだけ埋め込んだワンドを持ち、魔力増幅のネックレスを首に掛け、万全の装備だ。
また、『闇魔法』に加えて、『連続魔法』『速攻魔法』などを覚え、純攻撃魔法使いとして鍛えに鍛えた。
当然、ドロップアイテムも二人で山分けのため、実入りは信じられないほどに良くなった。
たまたま手に入れた『木工』のスキルスクロールなど、百万円近くの金額で売れたものだ。
金を稼ぎ、装備を揃え、レベルを上げて。
いつしか二人は、レベル50の大台にまで乗っていた……。
薬ももう飲まなくて良くなったし、死にたい気持ちも無くなった。外の世界を怖がる必要も。
むしろ……。
お互いに見つめ合う倉井と小森。
「小森さん……」
「は、はい!」
「け、け、結婚!僕と、結婚……、してください!」
「……喜んで!」
やっと、二人は。
人並みの幸せを、掴めた……。
一般的な冒険者として、資産と力を得た二人は、家を建てることにした。
頭金などとは言わず、一括で一軒家を購入できるほどの金を稼いだ二人は、物件を探す。
今、一番地価が安いのは、東北のど田舎でもなく、新出島だった。
何故か?
やはり、国民感情だろう。
嫌いな外国人がいる土地だから、住みたくないと言う訳だ。
もちろん、倉井達を含めて、大多数の人間はそこまで気にしてはいないのだが、テレビやインターネットでの「嫌外国」の風潮は実に痛烈だった。
不動産屋もそれを知っているので、地価を釣り上げることはできなかったのだ。
ダンジョンの近く、「ダン近」の物件は、信じられないくらいの高騰ぶりを見せていた。
地価の向上は、ある程度ならば政府機関もそれを望むところ。
かつてのバブル経済も、土地の価格の高騰が原因の一つだったのもある。
が、しかし、バブル経済とは違い、地価の高騰には「ダンジョンが近い」という明確な評価基準があるので、実態から乖離した数字上の金額だけが膨れ上がることはなかった。
さて、とにかく、ダン近は地価が高い。
よって、ダン近だが地価が安い新出島に新居を構えた倉井夫婦。
新出島のダンジョンはドロップ品があまり良くないのだが、それでも、レベル50付近の二人ならば、五十階層でやっていける。
五十階層ならば、ドロップ品が良くないダンジョンでも、それなりの生活は望めるだろう。
そうして、二人の、新出島での生活が始まった……。
新出島の家は、そこまで大きなところではないが、二人暮らしには十分過ぎるほどの広さがあった。
そして小森も、アラサーとは言えまだ三十歳手前ほどなので、子供を作ろうという話になる。
今の日本では、ダンジョンでの死傷率が高い為に、多産が推奨されている。
産んだだけでも六桁程度の補助金が出されて、その補助金は子供が増える度に増額し、更に子供が十五歳になるくらいまでは補助金が継続的に出るのだ。
それを抜きにしても、今は、亜人によるベビーシッターや保育園の類が山ほどあるのだから、子供が増えない訳がない。
酷い話だが、最悪、産んでくれさえすれば捨ててもらっても構わないのだ。そうしたら、政府が引き取って教育し、優秀な冒険者にするだけの話。
とにかく、今は人手が足りない。
一次産業、二次産業を、海外や外国人の手を借りずに充実させねばならないのだから、人手はいくらあっても足りないのだ。
そして、まあ、やることをやれば当然に妊娠するもので。
妊娠したことにより、妻の小森は冒険者を休職した。
倉井は、ダンジョンに亜人傭兵を雇って入り込み、仕事に励む……。
……その道中の事である。
「な、何だ、あれは……?」
倉井は、新出島のダンジョンで見たのだ。
五十階層ツインヘッドシャークの首を捩じ切る、大男を!
「フッフフ!フッフフフ!ハッハー!」
「人間じゃ、ない……?!」
超越種でも、人間でも、ましてやモンスターでもない。
アジア連合国の軍服を着た、異形の人型を……!
書き溜めはここで終わりです。
俺にはもう何もありません。
……なんか適当に新作投げて良いですか?マジで今ピンチです。