鉱物小ダンジョン、百階層ボス。
ミスリルゴーレム……。
代表的なDマテリアル鉱物、『ミスリル』によって全身を構成された、鋼の巨兵。
戦車の正面装甲を、ボール紙のように引き裂く剛腕。
そのパワーから生み出される馬力と、そして機動力。
更に、ミスリルの、地球上のあらゆる物質が遠く及ばない堅牢性を持つ、強大なモンスターである。
有機素材小ダンジョン、百階層ボス。
ミノタウロス……。
ミノス王の忌子、牛頭の巨漢、アステリオス、ギリシアで語られる魔物そのもの。
最新鋭の戦車すら素手で叩き壊すパワーと耐久性はもちろんのこと、アステロペーテース(雷光を投げる者)の別名の通り、電撃を自在に発する……。
それだけでなく、滑らかに動く五体から、武術的な動作をも繰り出す、迷宮の帝王である。
動物性素材小ダンジョン、百階層ボス。
グリフォン……。
常に風の塊を纏う、四足歩行の猛禽のようなモンスター。
風の盾はガトリングガンをも弾き、風の刃はビルを輪切りにする。
鋭い鉤爪は、鋼鉄など紙切れが如く斬り裂き……。
風を放出して空を駆ければ、戦闘機の数倍の速さで空を自由に飛ぶ。しかも小回りはヘリよりも良く利くという反則ぶりだ。
まさに、気高き獣の王と言える。
……そんな、ボスモンスターの死骸が、新出島の広場に無造作に打ち捨てられていた。
「ダンジョン調査、完了ーーーっ!!!」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
「仕事終了を祝ってェー!」
「「「「かんぱーい」」」」
死骸を尻に敷いた冒険者達は、ジョッキをぶつけ合う。
つまり、ご覧のとおり。
ほんの一月で三つの小ダンジョンの全てを調査し終えた、ということだ。
「いんやぁ〜〜〜!!!大変だったわほんまに!!!」
既に酔っている結弦が大騒ぎしている。
それを横目に、胸元のはだけた着流しを着た藤吾が、お猪口を傾ける。
二十の若造のそれではない貫禄、大人の男の色気があった。
その隣に、くっつかるように座るのは、嫁の杜和。
嫌味なくらいに白い肌に、酒酔いによってほんのりと朱が刺し、妖艶な美しさが演出されていた。
「こォーれからは観光やで観光!!!新出島をボクらだけで独り占めや、貸切やーーーっ!!!」
「はいはい、ゆずくんは大人しくしてようねー」
「ア°ッ!!!」
鈴華に一撃で鎮められた結弦。
そして、その隣で大人しくコーヒーを飲む青峯夫妻……。
その中に……。
「……何で俺達が呼ばれたんだ?」
みどり屋の社長と社員もいた。
「みなさーん!お持ちいたしましたわよーっ!」
ドン、と。
テーブルの上に大量の飲食物が置かれる。
草薙が持ってきたそれらは全て……。
「これは……、うちが作った屋台メシか?」
「ええ、そうですわ!」
みどり屋が作り出した屋台メシ……、つまるところの、新出島の名物候補であった。
草薙は、冒険者達に向けてこう言う。
「こちらにいらっしゃる皆様は、生まれも育ちもバラバラですわ。アンケートを取るにはちょうど良いのではなくって?」
と。
確かにその通りで、結弦のように親が半グレだったり、クソバカど田舎で剣振ってた中卒の設楽、施設育ちの北斗などの底辺もいるが……。
ハーフの鷺沢や瑛伝、財閥の娘である草薙などの超富裕層もいるし……。
鈴華や御坂などの中流家庭もあれば、杜和や海千のような小金持ちもいる。
アンケートをするにはピッタリだった。
「それに、一級冒険者達のお墨付きとあれば……、売れそうだな!」
みどり屋のじいさん、旗村は、そう言うと楽しそうに料理の説明を始めた。
「まず、この新出島の屋台メシの主題は、『日本を味わう』ことだ」
「ええと……?」
「つまりだな、日本は狭いように見えて広いってことだ。ご当地グルメってやつが色々ある。それを、この新出島だけで味わってしまおう!という贅沢な企画って訳だ!」
それに、本州に立ち入れないんだから、ご当地グルメはここで食べてもらうしかないだろ?と、旗村じいさんはそう言ってはにかんだ。
「奇遇なことに、ここにいる冒険者の旦那達は、出身地がバラけているからな!それぞれのおすすめを作ったぞ!」
まずはこれだ!と言ったじいさんは、揚げ物を指差した。
串に刺さったザンギ(唐揚げ)に、甘辛いタレをつけたもの。
「真壁の坊主が推薦した、北海道ザンギだ」
他にも色々……。
「大阪出身の結弦の坊主は、ベタにたこ焼きを提案してきたな。藤吾の坊主は、栃木名物のレインボーアイスだったか?」
「後はこの……」
「今川焼ですわね」「二重焼じゃの」「回転焼ですね」「おやき、か」「大判焼きじゃん」
「「「「………………え?」」」」
「あー……、なんかこれ、地方によって呼び名が違うらしいが……、まあ、餡子の包み焼きも誰かが提案したな。これは、中身をクリームやチーズにしても美味いからアリだな。同じようなものでたい焼きなんかも……」
流した旗村のじいさんは、賢明だった。
食べ物を作る仕事をやってきたじいさんは、食べ物のことは喧嘩になるので、煽ってはいけないと良く知っていたのだ。
そして……。
「新潟出身の北斗の坊主は、ポッポ焼きを提案してきたな。これは素朴な味で美味いぞ」
他にも。
「埼玉出身の鈴華嬢ちゃんからは、ゼリーフライに味噌ポテトなるものの提案をされたな。初めて知ったぞ、こんなの」
「ゼリー、フライ……?!」
「ああ、ゼリーを揚げるんじゃないぞ?中身はおからコロッケだ」
更に……。
「礼譲の嬢ちゃんは京都出身なんだってな?まあ、特に京都の名物って訳じゃないが、団子や大福を提案してもらった。これはこれで、日本の名物だからアリだな」
「弥太郎の坊主は、実は長野出身なんだそうでな。名物の、野沢菜のおやきを提案してもらったぞ。これも美味いぞお」
「東京出身の草薙嬢は、クレープやら焼き鳥やらとたくさん提案してくれたな。そして今も、全国を調査中の息子からご当地グルメ案がどんどん送られてきている……」
そうして、冒険者達は。
「さあ、冷めないうちに食ってくれ!味の感想も頼むぞ!」
「「「「おー!」」」」
各国のご当地グルメを楽しんだ……。
スパダリ、6話目でやっとヒロイン出せた。