「ところでなあ、坊主」
「なんだ、みどり屋の爺さん?」
食後、俺と草薙は、みどり屋の社長の爺さんに話しかけられる。
「実はだな、『これぞダンジョン飯だ!』っていう名物が作りたいんだよ」
「ふむ?」
爺さんから、そんな事を言われた。
何でも、みどり屋では、迷宮種を日本食にしているだけで、ダンジョンならではの何かはないんだと。
まあ、それは理解できる。
だが……。
「だが、この店は、食材も調理も一流だ。下手に奇を衒う必要はないんじゃないか?」
と、俺は正直な思いを返答せざるを得ないな。
これは何の世界でも言える事だが、出来もしない事や不慣れな事を無理矢理やるよりも、自分のできる事を十全にこなした方が良い結果が出る。
剣技もそうで、無理矢理慣れない型を使うより、自分が一番得意な型で一点突破する方が、殺し合いの場においては有効だ。
試合ならまあ、何度も見せているうちに対策されたりするんだろうが、一期一会の殺し合いなら、最も得意な技で一点突破が鉄則だろう?殺し合いに「次」はないからな。初見殺しが一番。
飲食店も同じなんじゃないか?
奇を衒った料理で集客するより、この店が得意である丁寧な料理で勝負した方が……。
と、俺は言った。
しかし……。
「まあ、俺もそう思う。だが、これはお上からの命令でなあ……」
「なるほど……」
つまり、政府からの指示ってことか。
「お上もそんな無茶を言っている訳じゃねえんだ。地域活性化というか、歴史のないこの新出島に新しい名物を作れってのはまあ、分かる。分かるし、光栄だ。だがなあ……」
「思い浮かばないってことか?」
「おう……。俺は料理を作るのなら誰にも負けんが、金になるものとか、流行とか、そういうものを作るのはなあ……」
頭を抱える爺さん。
ふむ……、手を貸してやりたいのは山々だが、俺も何も思い浮かばんな。
「そういう事でしたら、お任せくださいな!」
お?
草薙が立ち上がった。
「経済のお話ならお任せ、四菱財閥の草薙鷹音ですわ!よしなに!」
「お、おう」
若干引いている爺さんに、草薙は、女とは思えない分厚い胸板を張って見せた。
この女の体格は、完全にレスリング技者のそれだな。
身長以上に筋肉の太さがある。
何だったか、うちの嫁は……、「この世界がファンタジー寄りで良かったっすね、サイバーパンク忍者ものだったらオークにレイプされてるっすよ!」とか訳のわからんことを言っていたが……。
たいまにん?だとかなんだとか……?よく分からん。
まあそれはさておき、凄まじい肉体性能を誇る戦士であり、それと同時に経済を解する知識人でもあるという話だ。
故に、この手の話も理解できるんだろう。
「名物料理とのことですが、やはり、この付近の小ダンジョンでとれるものを使うのがよろしいでしょう」
輸送コストの軽減だの何だのと、俺にはよく分からない話をする草薙。
みどり屋の爺さんは多少は分かるらしく、しきりに頷いていた。
「わたくしは最近、新出島動物性素材小ダンジョンの調査の方をやらせていただいておりますの。そこで出現するモンスターを使った、ストリートフードはいかがかしら?」
「ストリートフードってのは、あれか?クレープとか、たこ焼きみたいな?」
「そうですわ。回転率を上げるために、作りやすく食べ歩きができるものが最適だとわたくしは思いますの」
「なるほど!」
「ついでに言えば、亜人に店番をやらせれば、宣伝効果もあって良いですわねえ」
「確かにそうだな、外国人は亜人を見るのは初めてのはずだし。で、具体的なメニューとかは?」
「ダンジョン産ハーブをふんだんに使った、バジリスクの唐揚げなどはいかがかしら?」
「唐揚げ?普通だな」
「こういうのは普通でよろしいのですわ。ダンジョンの珍味であれば、リビングストーンの煮物や、サラマンダーの刺身、ゼリースライムの皮の酢味噌和えなど色々ありますが……」
「……まあ、そういうのは名物にはならなそうだなあ」
ふむ、道理だな。
色々あるんだ、珍味は。
リビングストーンという生きた岩のモンスターは、煮込むと柔らかくなって食べれるとか。
火吹きトカゲであるサラマンダーは、最初から肉が焼かれている状態に等しいので、刺身にするだけで美味しく食べられるとか。
ゼリースライムの表皮を細切りにして酢味噌和えにすると、イカっぽい食感がして美味いとか……。
だがそれらは、珍しくて奇抜な見た目で、普通は食べようとは思わない。
それなら、外国人にも人気そうな唐揚げで良くね?という話らしい。
「他にも、最近大規模な漁法が確立されたクラーケンをたこ焼きにしてもいいですし、コカトリスで焼き鳥をしたり、火山牛のチーズミルクと肉を使ったハンバーガーなどもいいですわねえ。なにもひとつだけでなく、複数の名物があっても良いでしょう?」
「確かに!それなら行けそうだ!」
「そして食糧輸送の件については、是非この四菱財閥へよろしくお願いしますわ!!!」
「お、おう」
流石は商売人。
利益を得ることも忘れない、か。
スパダリもの、書き始めました。
皆さんお好きでしょ、スパダリ。